魔術師弟子奮闘記

シン01

魔術師弟奮闘記

 日が傾き始めた午後3時、とある高校では授業を終え、下校時間となっていた。

 2年2組の教室、下校時間で賑わう教室の中で一人の男子生徒が教科書をかばんに詰め、帰る準備をしていた。


「よく毎日教科書持って帰れるね。重くないの?」


 帰り支度をしている男子生徒に、明るい茶色の髪を赤いリボンでポニーテルにしている女子生徒、みさき 水美みなみが話しかける。


「万年置き勉のお前と違って、俺は家でも勉強するんだよ」


 紺色のくせ毛に青い瞳の男子生徒、青野あおの 蒼真そうまは水美と視線を合わせず、ノートを鞄に詰めながら答える。


「んなっ!? 私だってテストの前日には教科書を持って帰るよ!」


 そういや、こいつは一夜漬け派だったな、と思いつつ蒼真は鞄を閉じ、帰り支度を終える。

 

「それじゃあな」


「いやいや! 私が用事があって来たことを知ってるでしょ!? 何しれっと帰ろうとしてるのさ!」


「どうせ、あの噂だろ? そろそろ来る頃とは思っていたが」


「正解~♪ よくわかってるね。さっすが師匠」


 水美は目を細めて、にししと笑う。

 蒼真たちの住む町では現在、急に人が燃え上がるという、所謂いわゆる、人体自然発火現象が起こるという噂が出回っていた。

 正確には、青白い火の玉を見てしまった者は人体自然発火現象が起きるというもので、実際に数人が原因不明の出火による火傷で病院に運ばれていた。


「調べる価値があると思わない?」


「調べるにしても、どこを調べるつもりだ? 自分のケツに火が付くまで待つか?」


「ふっふーん! リサーチ済みだよ。ネットニュースによると、近くの公園で出火騒動があったそうだからね。まずはそこから調べよう」


「やれやれ、晩飯までに帰れると良いんだが……」


 蒼真と水美は学校を後にし、出火騒動が起きたというくだんの公園へと向かう。

 鼻歌を歌い、ご機嫌にポニーテールを揺らしながら蒼真の前を歩く水美。


水美こいつとの付き合いも一年か)


 先を歩く水美の背中を見ながら、蒼真は水美との出会いを思い出す。


***


 蒼真は幼い頃に事故で両親を亡くしており、叔父に引き取られて育てられた。

 叔父は魔物を狩る事を生業とする、戦闘魔術を駆使して戦う武闘派魔術師だった。

 魔物とは、人に害を与える超常的な存在の通称であり、怪異、悪魔など他の呼び方も存在した。

 魔術師の間では、魔物と呼ぶのが一般的だった。

 魔物は精神体として人に取り憑いたり、実体を持って人を襲ったりなど、その形態は多種多様だった。

 共通しているのは、人を脅かして恐怖させ、恐怖の感情を栄養として摂取し、負の感情を摂取することで力が増す特性を持つこと。

 物理的な攻撃はあまり効果がなく、魔術などの神秘をまとった攻撃で倒すことができる。

 そんな魔物を狩る戦闘魔術使い、武闘派魔術師を悪魔狩人デビルハンターと呼んだ。

 悪魔狩人デビルハンターの叔父に憧れた幼い蒼真は、叔父に師事して魔術の世界で生きていくことを決め、叔父の助手として様々な魔物と対峙してきた。

 数々の戦いを経て、蒼真は若年ながら一人前の悪魔狩人デビルハンターとして成長する。

 悪魔狩人デビルハンターとして各地を転々としていた蒼真と叔父の師弟であるが、今から1年前に師である叔父が退魔稼業を引退。

 かつて蒼真と両親が住んでいたこの町に二人で引っ越してきたのだった。


 そんな蒼真と水美との出会いは、蒼真が引っ越してきてしばらく経った日の夜だった。

 その日の夜、蒼真は町に潜む蛇の魔物の討伐を行っていた。

 人気のない場所ではあったが、人避けの結界を張り、一般人を遠ざけ、立ち入れないようにした上で蛇の魔物との戦いに挑んでいた。

 問題なく蛇の魔物を討伐した蒼真だったが、自身と魔物の戦いを見ていた少女の存在に気が付く。

 簡易な人避けの結界とはいえ、魔力を持たない一般人では結界内に入る事は出来ないはず。

 であるならば、この少女は魔術師ということになる。

 しかし、少女の目的が分からない。

 魔物との戦いに加勢するでもなく、ただ蒼真と魔物との戦いを見ていただけであった。

 悪魔狩人デビルハンターの中には弱った魔物に止めを刺して、人の成果を横取りする悪質な者もいるが、それとも違うようだ。

 蒼真は警戒したまま、少女に何の用だと問うと、少女は目をキラキラと輝かせ、弟子にしてほしいと頼み込んで来た。

 それが水美との出会いだった。

 水美から詳しい話を聞くことになった蒼真。

 水美も魔術師の家系の生まれであり、水属性で浄化と癒しに適性を持つ魔術師であった。

 水美の家は生産魔術を得意とする家系であり、水美の両親は霊薬の研究・開発が専門だった。

 両親から生産魔術を学んでいた水美だが、地味な生産魔術より、派手な戦闘魔術が使いたいと考えるようになり、そんなある日、人避けの結界を発見。

 興味本位で結界内に入ると、蒼真が戦闘魔術で魔物と戦っているのを目撃し、弟子になって戦闘魔術を教わろうと思い、弟子入りを申し込んだ、ということだった。

 弟子を取る気など無かった蒼真は水美の弟子入りを断るが、翌日、通っている高校で水美と再会する。

 同じ高校に通っており、同じ学年、同じクラスだということが判明し、蒼真は学校で四六時中、水美に弟子にしてくれと付きまとわれることになり、さらに水美は弟子にしてくれないなら一人でも魔物を倒すと言い出し、戦闘魔術が使えないにも関わらず、一人で魔物に挑んで行き、心配でこっそりついてきた蒼真に危ない所を助けられるという出来事も起こり、こいつは野放しだと危ないので、弟子にして管理下に置いた方が安全だと考えた蒼真は仕方なく水美を弟子にしたのだった。

 そうして蒼真と水美が師弟となって1年が経ち、2年に進級しても蒼真と水美は同じクラスであり、現在に至る。


***


 このお転婆てんばと出会って1年が経つのか、と蒼真が回想している間に、目的地である公園に到着する。

 公園は植え込みで囲まれ、ブランコ、滑り台、鉄棒、砂場、そしてベンチが設置されており、どこにでもある普通の公園であった。


「着いたね。私はあっちを探すから、そっちはよろしく!」


 言うや否や、水美は人体自然発火現象の痕跡を探しに行ってしまった。

 水美が向かった方向には、ブランコ、鉄棒、ベンチがあった。

 やれやれと思いつつも、蒼真も人体自然発火現象の痕跡を探すことにする。

 蒼真が探すエリアには、滑り台と砂場、そしてボール遊びなどができる広場があった。

 二人でしばらく公園の中で怪しい場所がないかと手分けして探していると、水美は何かを見つけたようで、蒼真を呼ぶ。


「そーまー、こっちに焦げ跡みたいなのを見つけたよ!」


 呼ばれて水美のもとに赴く蒼真。

 水美がいる場所は公園の端の方にあるベンチの下であり、そこには確かに黒く焦げたような跡があった。

 ベンチに座っていたら、急に燃え出して驚いてベンチから落ちた、といったところか、と蒼真は考える。


「まずは確認してみるか」


 蒼真は空中に手をかざして波紋を作り、波紋の中に手を入れる。

 結界魔術・コンテントエア。

 不可視の結界を形成し、その中に物品を収納して持ち歩く、所謂いわゆる、収納魔術である。

 利便性や汎用性が高い魔術だが、習得難度がそこそこ高い中級魔術であり、魔術師見習いである水美は能力が足りず、まだ使う事が出来なかった。


「いいなー、収納魔術コンテントエア。私も早く使えるようになりたーい」


「修業を頑張りなさい」


 蒼真は収納魔術コンテントエアから透明の液体が入った小瓶を取り出し、地面の焦げ跡に小瓶の中の液体をかける。


「魔力探知の霊薬だっけ、それ」


 水美の問いに蒼真がうなずく。


「これで霊薬の色が変われば魔力の炎で焼かれたということだ。色が変わらなければ、それ以外の要因だな」


 蒼真が焦げ跡にかけた霊薬は透明から徐々に赤色に染まっていく。


「色が変わった。ということは……」


「魔力が検出された。つまり、これは魔術こっち側の領分だな」


 蒼真は収納魔法コンテントエアから別の青い霊薬が入った小瓶を取り出し、地面の焦げ跡から赤く色が変わった霊薬を指で掬い上げ、取り出した青い霊薬の入った小瓶の中へと入れる。

 赤い霊薬を青い霊薬が入った小瓶に入れて混ぜたことで、小瓶の中の霊薬は毒々しい緑色へと変色していく。


「赤い霊薬と青い霊薬が混ざって、なんでこんな濁った緑色になるのかな」


「知らん。てか、霊薬の事はお前の家族の方が詳しいだろ」


「で、その毒々しい緑の霊薬はどんな効果なわけ?」


「青い霊薬は魔力が視認できるようになる霊薬だ。これに焦げ跡の魔力が染み込んだ赤い霊薬を混ぜることによって、ケツをローストしてこの焦げ跡を作った魔力のみを見れるようになるわけだ。これで残留魔力を追って行けば原因の所に辿り着く。ま、他の人体自然発火現象の起きた現場をいくつも回るのは面倒だし、これで一気に行くぜ」


「……飲まないの?」


 毒々しい緑の霊薬を飲んで残留魔力を追っていけば、原因のところに辿り着けるという蒼真だが、すぐには霊薬を飲もうとしなかった。

 数回の深呼吸をしたのち、蒼真は覚悟を決めて天を仰ぎ、緑色に濁った毒々しい霊薬を一気に飲み干す。


「う゛ぉぇ……、相変わらずクッソマズいな」


 蒼真は俯いて呼吸が荒くなる。

 心配して顔を覗きこんだ水美は驚く。

 蒼真の顔は顔面蒼白になっていた


「え、ちょっと、大丈夫なの?」


「この霊薬の副作用は吐き気、めまい、頭痛とかだ、オエッ……。つまりはひどい二日酔いみたいになる」


「えぇ……、毒状態じゃん。HP減ってそう」


「こっちだ……、ウェッ」


 蒼真は白い顔でフラフラとした覚束ない足取りで残留魔力の後を追う。

 水美は蒼真の事が心配になりながらも、そのあとを追う。

 蒼真が強制二日酔いと格闘しながら、残留魔力を追って道を進む。

 公園を出てしばらく歩き、住宅街の道路を進む。

 日は傾き、空は茜色に染まっていた。

 不意に蒼真が立ち止まる。


「どしたの? あ、吐きそう?」


「うぷ、違う。魔力の発生源が近い」


「えっ!?」


 蒼真の言葉に水美が辺りを見回すと、あるものを発見する。


「青白い、火の玉……!」


 水美たちから少し離れた位置に怪しく揺らめく青白い火の玉が浮かんでいた。


「あれが噂の青白い火の玉だとすれば、あれが人体自然発火現象の原因、……あっ!」


 青白い火の玉はゆらゆらと揺らめきながら、ある方向へと向かっていた。

 火の玉の向かう先には、スーツの男がこちらに背を向けて歩いていた。

 スーツの男は背後から迫りくる火の玉に気づいていない。


「火の玉を止めないと。でも、どうやって……」


 水美が火の玉を止める方法を考えている間に、火の玉はスーツの男の背中へとくっつく。

 途端にスーツの男の背中から炎が上がり、スーツの男は突然の出火に驚いて地面を転げまわる。


「間に合わなかった……! とりあえず消火しないと!」


 水美は転げまわるスーツの男のもとへ駆け寄り、水の魔術を唱えて消火を試みる。


「──水よ、集いて溢れよ。アクアドロップ」


 水美が唱えた水魔法の水によってスーツの男の炎は消火され、水美は火傷を追ったスーツの男の背中に治癒魔法を施す。


「そのおっさんは大丈夫か? うぷ……」


 遅れてフラフラとやって来た蒼真が問う。


「うん、大したことにはなってないよ。火は消したし、火傷も治癒魔術で治せたし。でも、気を失ってるみたい」


「その方が都合がいい。魔術を使ったところを見られたら面倒だからな」


「とりあえず、救急車を呼んでおくよ」


 水美が路上に人が倒れていると救急に通報し、しばらくすると救急車がやって来た。

 水美は気絶したスーツの男が救急車で運ばれていくのを見届ける。

 救急車が去っていくと、物陰から蒼真が出てきた。


「行ったか?」


「うん。その具合の悪そうな顔色だと一緒に救急車で運ばれそうだね」


「だから、オエッ、隠れてたんだ」


「それで、あの火の玉はやっぱり魔物?」


「ああ、多分ウィルオウィスプだ。低級の火の玉状の魔物だ。うぅぷ……」


 水美の問いに、蒼真は青白い顔で答える。


「奴はこっちに行った。うぷ……、こんなゲロマズ霊薬を使ってんだ、効果時間内に仕留めるぞ」


 蒼真は青白い顔のままフラフラと歩きだす。

 救急車を待っている間に日は沈み、空は暗くなり始めていた。

 フラフラと歩く蒼真の後を水美がついて行くと、そこは河川敷であった。

 日中ならば人通りもある場所だが、暗くなった現在は人気はなく、不気味な雰囲気を漂わせていた。


「いたぞ、あそこだ」


 蒼真が指さす先には、青白い火の玉が浮かんでいた。


「あれがウィルオウィスプ……」


「俺は無理だ。お前が何とかしてくれ。向こうはこっちに気づいてないみたいだし、不意打ちでやっちまえ」


「えぇ……、なんか卑怯な気もするけど」


 水美は右手を突き出して構えを取り、呪文を唱える。


「──水よ、鋭き針となりて彼の者を穿うがて。アクアニードル」


 呪文を唱えた水美の右手に水が集まり、水は無数の針へと形状を変化し、火の玉に向かって射出される。

 射出された無数の水の針は青白い火の玉を貫き、攻撃を受けた火の玉は火の勢いが弱くなる。


「やった! 討伐数1! ほーら、私もやればできるでしょ!」


「俺の戦闘魔術の教え方が上手かったからだな、ぉぇ」


 火の玉の勢いは弱くなり、そのまま消えるかと思われたが、突然、火の玉は激しく燃え上がり、徐々に形を変えていく。

 青白い火から色が変わり、赫怒の如く赤く燃え上がる火の玉は人の姿を形取り、炎の魔人とも呼べる風貌へと外見を変化させた。


「あ~、もしかしてヤバいやつ? 怒らせたパターン?」


 炎の魔人となったウィルオウィスプは激しく赤い炎をたぎらせ、蒼真たちの方へ近づいてくる。

 その熱気は、少し離れた位置にいる二人のところにも届いていた。


「うおぇ……、俺はまだ無理だ。霊薬が抜けるまで何とかしてくれ」


「ええー!? 私一人であのヤバそうな奴の相手をするの!?」


「気を付けろよ、あれは人を襲ってかなり力を付けた強力な個体の様だ。通常の低級魔物のウィルオウィスプとは一味違うみたいだぜ。オヴェ…」


 蒼真はその場にしゃがみ込み、お前ならできるとサムズアップで水美を送り出す。


「もう、仕方がない! やってやるわよ!」


 水美は再び右手を前に出して構えをとり、詠唱を行う。

 今度発動させるのは、水を刃として射出する魔術・ウォーターカッターである。


「清廉なる水よ、刃となりて我が敵を切り裂かん、って、あぶな!」


 ウィルオウィスプは腕を振り、炎の玉を飛ばして詠唱中の水美を攻撃する。

 水美は咄嗟にしゃがむことによって、炎の玉の直撃を回避する。


「ちょっと! 変身中と詠唱中は攻撃したらダメだって日曜の朝に教わらなかったの! っていうか、なんかお尻が温かいんだけど」


 ウィルオウィスプに抗議する水美だが、自身の臀部が謎の熱を帯びているため、尻を見て原因を確認する。


「あちゃちゃちゃっ! スカート! お尻が燃えてるぅ!」


 ウィルオウィスプの攻撃をしゃがんで避けた水美だが、水美の近くに着弾した炎の玉がスカートに燃え移り、現在、水美の尻をローストしているのだった。


「ぎゃー! 尻が焼けるのは激辛だけで十分だから!」


 尻の炎から逃げるために水美はあたりを走り回るが、尻についた火は一向に消える気配がない。


「びっくりするほどホットピア! びっくりするほどホットピア!」


 謎の呪文を唱えながら、自分の尻を叩いて消火を試みる水美。

 必死で自らの尻を叩く水美は、ひんやりとした冷気を尻に感じ、火が消えていることに気が付いた。


「冷気? 氷魔法! 助かった~。って、スカートが焼け焦げてるぅ!?」


「魔術で戦うときは無詠唱が基本だ。対魔術師戦なら特にだ。詠唱からどんな魔術を使うか読まれてしまうからな。全く、ちんたら詠唱なんかしてるからそうなるんだ」


「誰かさんが顔面蒼白だったからね! だから見習いの私が頑張ったんですけどね!」


 先ほどまで青白い顔をして座り込んでいた蒼真だが、その顔色は元に戻り、頼もしく力強く立ち上がっていた。

 霊薬の効果が切れ、副作用から解放されたのだ。


「さて、ここからはこの蒼氷の魔術師が相手だ。行くぞ炎の魔人ウィルオウィスプ!」


 蒼真は氷の魔剣・氷晶魔剣フロスタルテインを作り出し構える。

 氷晶魔剣フロスタルテイン、魔力の氷で魔剣を作り出す、蒼真が得意とする氷の魔術の一つである。

 対するウィルオウィスプは手に炎を収束し、炎の剣を作り出す。

 両者とも剣を手に駆け出し、氷の剣と炎の剣が激しくぶつかり合う。

 蒼真の氷晶魔剣フロスタルテインはウィルオウィスプの炎の剣と何度も打ち合うが、その刀身は決して溶けることはない。

 ウィルオウィスプの炎によって溶かされることのないその氷の刃は、蒼真の高い氷魔術の技量を示していた。

 青の剣閃と赤の剣閃が交差する。

 氷の斬撃を炎の斬撃が撃ち落とし、炎の刺突を氷の斬撃が斬り払う。

 互いに譲らぬ一進一退の攻防が繰り広げられる。

 蒼真はウィルオウィスプの剣戟を捌きながら、ウィルオウィスプの剣筋を観察していた。

 ウィルオウィスプの剣は力が強く速いが、大振りで単調であった。

 蒼真はそこに勝機を見出す。

 ウィルオウィスプが攻撃を繰り出すべく、炎の剣を振りかぶる。

 ほんの一瞬、胴が空いた瞬間に蒼真は一閃し、胴体を切り裂く。


「やった!」


 蒼真の一撃に勝利を確信した水美は喜びの声を上げる。

 しかし、ウィルオウィスプの切り裂かれた胴体は瞬く間に再生し、ウィルオウィスプは蒼真から距離を取る。


「斬ったはずなのに、なんで!?」


「実体がないタイプか。あの炎を物理的に切り刻んでも意味がない。魔術で潰して倒さなければ」


 距離を取ったウィルオウィスプは両手を広げ、蒼真に向かって無数の炎の矢を一斉掃射する。


「接近戦で敵わないから遠距離戦か、厄介な」


 蒼真は迫りくる無数の炎の矢に対し、右手を突き出して氷の盾を展開して防御する。

 氷の盾スヴァリン、雪の結晶を象った氷の盾を作り出す、氷の防御魔術である。

 炎の矢は氷の盾スヴァリンに遮られ、蒼真に届くことはなかった。

 手数を優先した炎の矢では効果がないと考えたウィルオウィスプは攻撃方法を変更し、炎を一点に集中させ、威力重視の炎の砲弾を撃ち込む。

 炎の砲弾は氷の盾スヴァリンを打ち砕き、蒼真に直撃、辺りに白煙が舞い上がる。


「うぇっ! 氷の盾スヴァリンが破られた!? 大丈夫なの!?」


 堅牢な氷の盾スヴァリンが破られたことで蒼真の心配をする水美。

 白煙が張れると、そこには無傷の蒼真が立っていた。

 蒼真の無事に胸を撫で下ろして一安心する水美。


「予想以上に強力な奴だ。だが、そろそろ終わらせる!」


 蒼真はウィルオウィスプに向かって一直線に駆け出す。

 ウィルオウィスプは蒼真の接近を許さず、再び炎の砲弾を蒼真に向かって撃ち出す。

 蒼真は真正面から炎の砲弾を拳で弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた炎の砲弾は、炎であるにも関わらず瞬時に凍結し、そして粉砕された。

 ウィルオウィスプの次の攻撃は間に合わず、蒼真の接近を許してしまう。

 蒼真は魔力をまとい、青く輝く掌でウィルオウィスプの首を掴み上げる。


凍結氷牢コキュートス、万物を凍てつかせ、粉砕する。氷魔法の奥義、その身で味わえ!」


 青く輝く掌で掴み上げられたウィルオウィスプの炎の体は次第に凍っていき、遂には全身が凍り付く。

 蒼真は凍り付いたウィルオウィスプを握り潰して粉砕する。


「やったー! 勝ったー! これで一件落着だね!」


「これで人体自然発火現象も起こらなくなるだろうな」


 こうして、蒼真と水美はウィルオウィスプ変異体の討伐に成功したのだった。


◆◆◆


 ウィルオウィスプとの戦いから数日後の夕方。


「今日も教科書持って帰るの?」


「当たり前だ、俺はこれで成績マウント取ってんだよ」


「性格悪ぅ~」


 帰り支度をする蒼真に水美が話しかけていた。


「それよりさ、こんな噂が出回ってるんだよね。同じ人物が複数の場所で目撃されてるって!」


「ドッペルゲンガーかシェイプシフターの仕業だろ? じゃ、そういうことで」


「いやいや、帰らないでよ! これから調査に行く流れじゃん!」


 仕方ないなと思いつつ、蒼真は今日も水美に付き合い、魔物との戦いに身を投じるのであった。

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