第8話 締め切りって大事だね
そんなこんなで……。
宿に戻った私は、もはや使い物にならない!
気持ちはあるんだ。気持ちは!
しかし、体は正直。スマホを見ようとしても寝落ち。うとうとするのは疲れとアルコールのせい。やらねばと思いつつも、脳みそは働か ない。体も休みを要求している!
一時間以上そんな状態を続け、気がつけば午後の10時回っている! その時みちのは思った。
「明日にしよう」
しかし、眠たくてぼーっとした理性が現実を指し示す。
「今日しなかったら、書かないよ。エタるね、ぜったい」
「でもコンテストの締め切りはまだ残ってるんじゃ」
「明日になったら緊張感がなくなって書く気失せるよ。絶対」
「ありそう」
「どうでもよくなるね。今どうでもよくなっているんだから。ノリで書いたものはノリが残っているうち書かないとだめだね」
一人会議は書けと言う結論鹿出てきません。仕方がない。ぼーっとした頭を何とか働かそうと、炭酸水を飲み、ビールのプルタブを開けた。
そう。5分で読書の時も、飲みながら一気に書いていたよね。書ける! 飲みながら書け!
よく分からない思考でよく分からない行動。しかし、時間は2時間切っている。
劇中劇の設定とりあえず作ろう……。
◇
異世界に転生する女子高生。それを書くだけだ。最初と最後だけ書けばいいから中身は考えなくていい。
……しかし、出てくるのは異世界に行くのではなく、死に戻り……現代のタイムリープ? なぜ? しかも風俗嬢になっている? なぜ?
理想とは全く別な話が、頭の中で出来上がっていく。なぜ風俗嬢? そんな話読んだことないよね。でも時間がない! まあいい、それ書け! もうそれでいいから進もう。ポンコツの頭はテキトウな文字を生み出した。
【第四話 劇中劇 独白】
「(科白)気がつくと、私は高校の制服を着たまま、保健室にいた。あれ? 私32才だよね。風俗嬢としてはもう稼ぎも少なくなった。若い子からオバさんとばかにされる年齢だったよね。酔った客が、こんなババアよこしやがってって私を殴り、それから……。でもここは、私が通っていた、私立蘭桜高校の保健室。養護教諭の先生が私の名前を呼んだ。鏡を見ると、純真無垢なあの頃の私。もしかして、私、殺されて過去に戻ったの?! だったら、私の人生、やり直せるかもしれない!」
(引用ここまで)
約200文字。なんだこれ? まあいいや。これを感情をのせて読ませればいい。
きっとここまで読んでいる読者は、頭の中で好きな声優さんの声に変換して読んでいるはず。頭の中で演技させればいい。棒読みバージョン。明るく活発にバージョン。戸惑い有りバージョン。お色気バージョン。微エロバージョン。同じセリフをコピペしても、違うように読むために置いているから手抜きとは思うまい。結局5パターンで1000字稼ぐ。合間にセリフも入るから、1500字は楽々超えているだろう。残りは放っておいても500字は超えるので、この時点で字数問題クリア。ではラストに向かって劇中劇のセリフを作ろう。
名前、ここで初めて役名に名前を付ける。とは言っても、記号っぽくして名前らしくしない方がいいと眠い頭で判断。カタカナ2文字にしよう。ユナとエルにした。うん。愛称っぽいし、日本人感減った。音声前提だから名前は避けたいが、ラストに向けて付けない訳にはいかなかった。そして適当にセリフを書きこむ。
【引用 劇中劇 掛け合い】
「エル君、これで終わったの?」
「ああ。これでユナが不幸にならなくてすむ」
「私の不幸?」
「ああ。実は俺は16年後からタイムリープしたんだ」
「え?」
「信じられないかもしれないけど
聞いてくれ」
「はい」
「前の人生では何も出来なかった」
「前の人生?」
「僕は死ぬまで君が不幸になるのを見ているしかなかったんだ」
「エル君、私のこと見守ってくれていたの?」
「ああ。きっと神様が、君を幸せにするために僕を呼んだんだ」
「エル君、私も二回目の人生なの。一度目はエル君のことに気づかなかったままだった。エル君が私の救世主だったのね。ありがとう!」
「ユナ、君をずっと幸せにしたい! いつまでも一緒にいよう!」
「うん! エル君……好きです! 大好き!」
「僕もだ。二度目は一緒に幸せになろう!」
「何度でも! 幸せになるよ! エル君と一緒なら!」
(引用 ここまで)
……長いな。コピペする時は減らそう。とりあえず、ヒロインに棒読みさせる。セリフの掛け合いを伝えるためには、最初から先輩に読ませてはだめだ。その後、先輩との掛け合い練習が始まる。そうなると、男性パートのセリフが消える。
「エル君、私のこと見守ってくれていたの?」
「……」
「エル君、私も二回目の人生なの。一度目はエル君のことに気づかなかったままだった。エル君が私の救世主だったのね。ありがとう!」
「……」
「うん! エル君……好きです! 大好き!」
「……」
「何度でも! 幸せになるよ! エル君と一緒なら!」
こんな感じ。やたら「……」を入れていたのは、ここのためでもある。ASMRは一方的に聞く感じだが、きちんと間を開けてやり、セリフを意識させれば聞きてが自分の声をイメージしてセリフを脳内再生することができる。臨場感が上がるはず。本文には書かないが、気づく人が出るだろう。そこら辺りは読者を信用しよう。
セリフで告白、これをリアルな告白につなげる。使い古された定番なやり方だが、結局みんなテンプレの安心展開が好きよね。逸脱は必要ない。100人のうち80人が安心できる展開で終わればいい。ここまでくると、何も考えず書ける。甘い感じを放り込んで終了。4話目文字数約4500字。うん。コピペしまくった。総文字数12568文字。書きまくった「……」(←4文字)×?個の分を引いても10000字は余裕でクリアだね。まだ日は明けていない。プレビューで誤字チェックしてなんとか投稿。
よっしゃー! 自分に勝った! コピペありがとう!
なんとか書き上げられました。そして、一日チャレンジは成功したのでした。疲れた~!
◇
今回の勝因は、一にも二にも「コピペありき」の設定を思いついたことですね。音声化前提でなければ、「彼女はもう一度台本を読み上げた。今度は楽しそうにやれたみたいだ」とかで済ませないといけないので字数が・・・しかし、感情が変わるセリフは、同じ文字でも全く違う記号になる。ASMRのシナリオという特殊な環境と、読者を信じているからこそできた手法です。
あとは変わった事をしない。定番の展開を心を無にして打ち込むだけ。微エロを放り込んでおけば、それだけでいいしコメディタッチにもなる。
まあ、これでと売るかと言えば微妙でしょうね。とりあえず、発注書(要綱)に基づいては書けたかと思います。最低限、評価のスタートラインには立てたはずです。
今回の経験は、何かに生かされるのでしょうか? まあ、成功したのでそれでいいことにしましょう。
第四話目はこちらから
https://kakuyomu.jp/works/16817330662791526970/episodes/16817330662821166411
一話目から読み返したい方はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817330662791526970
では、結果発表楽しみにお待ちください。
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