第6話

『汝の、小さな命を守るその愛、転生にて、報われるべきかな。よって、ただひとつ、天からの能力を授けるものとする。光、闇に飲み込まれる前に、声に出して、我に伝えよ』


「ん? どこかで聞いたことがあるな………」


『声に出して、我に伝えよ』


「………ひょっとして俺、死んだ?」


『私に聞いているのか。ならば答えよう。其方は死んだ』


「死んだ………。え? てことは俺、転生できるんですか? なんかのスキル、もらえるんですか⁉︎」


『私に聞いているのか。ならば答えよう。其方は転生できる。新しい能力をもって、次の生をまっとうするがいい』


「や、やったッ‼︎ ハハッ! それなら、無双とかできるのか。スローライフも、モフモフも、ハーレムも!」


『………我に伝えよ。早く』


「じゃあ………、力だ。力をくれ。異世界で無双できるような、そんな圧倒的な力を」


『異世界に転生したいのか』


「当たり前だ。こことは違う世界で、俺の本当の姿を見せるんだ。こんな不公平で損してばかりの世の中には、もう2度と―――………」


『どうした?』


「………………」


『続けよ』


「不公平で、損してばかりだった。クソみたいな世の中だった。けど………、けど、それだけじゃなかった………」


『………』


「俺には、ビスコがいた。ビスコがいてくれて、毎日が楽しかった。充実していた」


『其方、泣いているのか』


「俺、死にたくない。転生なんてしたくない。ビスコに会いたい。ビスコと散歩したい。正直エッチなこともしたい。だから………」


『………わかった』


「え………」


『お前を再び、今いる世界に蘇らせよう』


「本当ですか⁉︎」


『本当だ。それに、向こうもお前のことを呼んでいるようだ』


「ビスコが………⁉︎」


『聞こえぬのか。この空にしっかりと届いている』



朦朧とする意識の中、ビスコの鳴き声が耳に届いてくる。

それは、尾を引くような、哀しげな遠吠えだった。


「………ビスコ」


「先輩………? 先輩ッ‼︎」


目の前にビスコの顔があった。くしゃくしゃの泣き顔だった。


「ビスコ、聞いてくれるか」


「喋らないでくださいッ‼︎ すぐに救急車来ますからッ‼︎」


「俺がいけなかったんだ。本当にごめんな」


「いいんですッ‼︎ 先輩は何も悪くないですッ‼︎ 私がいけないんです。私が………」


「俺、あの部屋出て行く」


「いいんです! そんなこと………」


「それで部屋を新しく借りるんだ。もちろん、ペット可物件で」


「え………」


「ビスコ、一緒に住もう。俺と一緒に。な?」


「………先輩」


ビスコが俺を抱きしめる。


柔らかい胸が俺の顔に押し付けられる。


「あ……………」


こんな時でも反応する俺の下半身。

血流が激しく循環し、怪我人である俺は思わず声を上げる。


「イテテテッ!」


「ああッ! ごめんなさいッ! どこですか⁉︎ 痛いとこ、ペロペロしますから‼︎」


「いや、そこは大丈夫。むしろ、あそこがまずいんだッ!」


救急車のサイレンが、遠くの方から聞こえてくる。

仮に手術となったら、裸にさせられるだろう。それまでには、この猛りをおさめなければ。

そう、これっきりではないのだ。

俺たちには続きがある。その時には、たくさんビスコを鳴かせてやるのだ。


「なぁ、ビスコ」

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犬も歩けば、恋に当たる 〜嬉しそうにお尻を振る大学の後輩は、小さい頃に飼っていた犬のビスコでした〜 @JIL-SANDRE

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