―閑話―

 西武新宿駅から急行列車に揺られること二十分弱――上石神井駅に到着すると、疲弊しきった顔のサラリーマンが続々とホームへと吐き出されていく。


 北口の階段を降りるとすっかり雨はやんでいた。長雨をもたらしていた雨雲は東の方角へと流れていった後で、墨汁を垂らしたように雲一つ無く夜空には、煌々と輝く満月が浮かんでいた。


 そうだ――いいを思いついた伊織は、カバンの中からスマホを取り出してカメラを起動させると、満月に向けてシャッターを連続で押し続けた。その中から上手く撮れていた一枚を選ぶと、仕事中の健吾に送信する。


『月が綺麗ですね』なんて気障キザな台詞が言える人だとは思わないけど、何らかの反応があれば嬉しいくらいの気持ちで歩き出した。


 





 



 



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