第13話「ノートの恋は」

 一学期の終業式の日。

 今日はいつものように全校集会があった。校長先生の話ってなんであんなに長いのかな、よく何も見ずに話せるな、そんなどうでもいいことを私は考えていた。

 教室に戻って来てホームルームがある。通知表が渡されて、おそるおそる見ると、あまりパッとしない数字がそこには並んでいた。うう、もう少し頑張らないとな……まずは授業中寝ることをどうにかしないと。白石くんにも言われたし。

 ……あ、昨日友達と昼ご飯の時に話した後、私はなかなか白石くんを見ることができなかった。な、なんか恥ずかしいというか……あれ? 白石くんのことを考えただけでドキドキする。こ、これは……。


「――よし、今日はこれで終わりだ、みんな夏休みも元気に過ごすんだぞー」


 先生の声にハッとした。わ、私は何を考えていたのだろう。ホームルームが終わってみんなわいわい話しながら帰っている。私はこれから部活だ。部室に行かないとと思ったその時――


「――若月、ちょっといいかな?」


 ふと声をかけられた。見ると白石くんがいた……って、あ、し、白石くんか、私は白石くんの目を見れなかった。


「あ、う、うん、ど、どうしたの?」

「あ、その……ちょっと話したいことがあって」

「は、話したいこと……?」

「うん。でもここではちょっと……ついて来てくれないかな」


 白石くんがそう言うので、私はとりあえずついて行くことにした……って、どこへ……? と思っていると、白石くんは階段を下りて廊下をまっすぐ歩き、武道場の方へ行く。この先は武道場とプールしかない。今日は授業もないので、この辺りに来る人はいなかった。あ、武道場に剣道部と柔道部の人はいるみたいだが。

 武道場の裏側で、白石くんは足を止めた。こ、こんなところで何があるのだろうか?


「あ、あの、白石くん……?」

「……ごめん、誰にも聞かれたくなくて、こんなところに来ちゃって」

「あ、いや、大丈夫だけど……そういえば話したいことって……?」


 私がそう訊くと、白石くんは「あ、あの、その……」と、ちょっと言葉に詰まっているようだった。なんだろう、そんなに言いにくいことなのだろうか。私は白石くんが話すまで待つことにした。


「……あ、あの、若月和葉さん」

「は、はい!」


 急にフルネームで呼ばれて、思わず敬語で返事をしてしまった。


「……俺、君のことが好きです。どうしてもそれが言いたくて……こんな俺でもよかったら、お付き合いしてもらえませんか?」


 白石くんが顔を真っ赤にして言った。

 ……ん? 君のことが好き……? 君って、私のこと……だよね?


「……え、え!? わ、私のこと……?」

「……うん。ずっと言いたかったけど、言えなかった。明るくて元気な若月のことが、す、好きで……」


 恥ずかしそうな白石くん。そんな姿はあまり見たことがない。そ、そっか、わ、私のことが、好き……と。


「……あ、あの、私……」

「あ、ごめん、急に言われても困るよね、返事は急がないから――」

「ああ! い、いや、そうじゃなくて、わ、私も最近、白石くんのことばかり考えてて、ドキドキしてて……ほ、本当は白石くんのノートに恋をしていたんだけど、もしかしたらノートだけじゃなくて、白石くんのことが好きなんじゃないかって……」


 しまった、ついノートのことを言ってしまった。バカにされるかなと思ったが、


「……そっか、俺のノートに恋をしていたのか。なんか嬉しいよ」


 と、白石くんは笑顔で言った。


「う、うん、私だけの秘密だったけど……そ、それよりも……」


 私はゴクリとつばを飲み込んで、話を続けた。


「……私も白石悠斗くんのことが好きです。こんな私でよければ、お付き合いしてください」


 私はペコリとお辞儀をした。その私の頭を白石くんがなでなでしてくれた。


「……そっか、よかった。フラれたらどうしようと思った。まぁそれでも俺の気持ちは伝えたくて」

「そ、そうなんだね、私、なんかよく分からないけど、フワフワしてる……」

「あはは、若月……いや、和葉、好きだよ」

「ひゃっ! あ、そ、その……悠斗くん……好きです……」


 ヤバい、顔がめっちゃ熱くなってきた……と思ったら、白石くんが私の手をきゅっと握った。あ、あわわわ、わ、私落ち着いて……。


「……あ、ごめん、和葉はこの後部活だよね?」

「あ! そ、そうだった、ごめん、私行かないと」

「うん、図書室で本読んで待ってるから、一緒に帰ろう」

「あ、わ、分かった、じゃあまた後で」


 そう言って私は走って部室へと向かった。な、なんかドキドキしたけど、これは夢……ではないよね、現実だよね。何度も自分に言い聞かせる私がいた。

 

 私、若月和葉は、白石悠斗くんのノートに恋をしていましたが、いつの間にか悠斗くんのことが好きになりました。

 これはちょっと背伸びしたいお年頃の、男の子と女の子の、そんな話――。




----------


作者のりおんです。

これで、和葉ちゃんと白石くんの物語は終わります。


若月和葉ちゃんと、白石悠斗くん。

白石くんのノートに恋をした和葉ちゃんは、いつの間にか白石くんのことが好きに……。

きっと、楽しい夏休みになると思います。


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


2023年9月12日 りおん

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ちょっと背伸びしてみたいお年頃 りおん @rion96194

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