第5話 添い寝

//ドアの外からの声。やや遠い。


「それじゃ、ご褒美。……電気消してね。見たい? だーめ。さすがに私も恥ずかしいもん。昨日、見たんでしょ? ほとんど紐って言うか、裸とどっちがえっちか比べられちゃうような服なんだよ?」


//スイッチ。電気を消す音。


「ちゃんと消してくれた? じゃあ入るね」


//ドアの開閉音。

//声が近くなる。正面。


「ふふっ。意外と月明りで見えちゃうね……ドキドキして、心臓が破裂しちゃいそう。昨日までの私なら、絶対信じなかっただろうな。こんな格好で君の前に立ってるなんて」


「でも、不思議だね。全然嫌じゃないんだ……サキュバスだから、って訳じゃないと思う。クラスの他の男子を思い浮かべると、絶対無理って思うもん」


「ここが男の子の部屋かぁ。ね、やっぱりえっちな本とか隠してあるの?」


//反応を伺うさくら。


「つまんないなぁ。どんなのを読んでるのか見てみたかったんだけど。でも、隠し場所なんて分かんないしなぁ。男の子の部屋って、もっとごちゃっとしてるもんだと思ってたんだけど、綺麗だね。ちゃんと掃除してて偉い」


「ベッド、座って良い?」


//ベッドに座る。ぽすん。


「ね。せっかくだからちょっと遊ぼうか。目をつぶって、指を前に出して。そう、人差し指だけ」


//5秒ほど。


「それじゃ、いまから私が体のどこかを指に当てるので、どこか当ててみてね。制限時間は五秒だよ……ここは?」


//5秒ほど。


「正解は、ほっぺでした。はい、第二問だよ。また目を閉じてね……ここは?」


//5秒ほど。


「太ももでした。2回も膝枕したから、分かったかな? えー、分からなかったの? それじゃ、ちゃんと感触覚えるまで膝枕しないとだね。それじゃあ最後の質問です……ここは、どーこだ?」


//5秒ほど。


「んっ……指を動かすのは反則です。どこだったか分かった? 分からなかったのかぁ。残念。答えはナイショ。この後探してみてね。えっ? この後のことが分からない?」


//笑う。


「ほら、さっき耳かき我慢できたでしょ? ご褒美、あげる。何が良いかなって考えたんだけど、マッサージとか、どうかな? ご褒美にならない?」


「あっ、また疑ってるでしょ。私、マッサージ得意なんだよ? おばあちゃんとかも、さくらは上手だねって言ってくれるし」


「もう、何で笑ってるの? ほら、良いから横になって。うつ伏せにね。それじゃ、始めるよ? もしかして、マッサージって聞いて、別のを期待しちゃった?」


「それはまた後でね」


「んっ、んっ……背中おっきいねぇ……それにすっごく固い。筋肉が多いからなのかな? それとも凝ってる?」


//リズミカルにんっ、んっ、と声が入る。10秒ほど


「どう? 気持ちいい?」


//リズミカルにんっ、んっ、と声が入る。10秒ほど


「次は腰ね……こっちもすごい筋肉。あれ、脇はちょっとくすぐったい? 真面目にマッサージしてるんだから笑わないで」


//リズミカルにんっ、んっ、と声が入る。10秒ほど


「はい、おしまい。他にマッサージしてほしいところ、ある?」


//声が止まる。10秒ほど


「ふぅ……筋肉質だしおっきいし疲れちゃったよ。えっ、次は私? してくれるの?」

「それじゃ、お願いしちゃおっかな」


//衣擦れの音。さくらが横になる。


「ここで普段寝てるのかぁ。君の匂いがする……さっきぎゅーってしてもらった時と同じ匂い。不思議。ドキドキするのに、なんかすごく落ち着く」


//深呼吸


「……変なところ揉んだら、どうしよっかな。お仕置きかなぁ」


「んっ……んぅ……ふっ……んぁっ……キモチイイ……」


//以下さくらの声が入る。10秒ほど


「上手……もしかして、マッサージの経験があるの? 誰にしたの?」


//10秒ほど


「なんだ、お父さんとお母さんか」


//10秒ほど


「んー……気持ちよかった。またお願いしたいくらい。んー……このまま寝ちゃいたいな。ね。一緒に寝ちゃお。私、サキュバスだから、夢の中で色々してあげる」


//衣擦れの音。


「それじゃあ、こっち来て。私の隣」


//衣擦れの音。声が近くなる。


「もっと近くにきて、くっつこう? シングルベッドなんだから、ちゃんとくっつかないと落ちちゃうよ?」


//吐息をたくさん混ぜて


「もっと」


//耳元で囁き声、以下続く


「ふふっ、温かいね……ねぇ、どんな夢見たい? 何かリクエストはなぁい?」


//10秒ほど


「入院患者さんとナースとか、先生と生徒とか。あっ、でも勉強は教えたから、もう先生と生徒みたいなものよね?」

「あとは……そうだなぁ。ご主人様とメイドとか。あとは幼馴染とか……ホントは同級生だけど、先輩と後輩ってのも面白いかも。年上と年下だったら、どっちが良い?」


//10秒ほど


「決められないの?」


//衣擦れの音。


「それじゃあ、私と新婚生活を送る夢、なんてどう? お仕事頑張って、疲れて帰ってき君を、まずは玄関でぎゅ~ってしてあげるの」


//タメ。


「おかえり、いっぱい頑張ってくれてありがとうって」


「それからご飯でしょ。毎日好きなもの作ってあげる。ハンバーグとかカレーも得意だし、肉じゃがとかも作れるよ」


「ご飯の後はお風呂でしょ? 一緒に入って洗いっこするのも楽しいかも。そしたらお互いにマッサージして……最後はこうやって今みたいに一緒にお布団に入るんだよ。あ、でも新婚さんだったら横になっても終わりじゃないよね?」


//意味ありげな笑い。


「ねぇ。さっき、最後に触ったところ、探してみない。お布団の中なら目をつぶってるのと一緒だし、色んなところを触って同じ触り心地のところ、探してみよっか。正解出来たら、そうだなぁ」


//タメ。吐息をたくさん混ぜて。


「新婚さんごっこ」


「とかしても良いかもね。ふふっ、冗談よ……何かすごく眠そうね。サキュバスにはそういう力もあるっていうし、続きは夢の中で、ね? 私も楽しみにしてるから。きみが寝たらすぐ追いかけるから、待っててね」


「ふふっ。何か体に力が入ってるよ?」


「それじゃ、一緒に寝よ?」


//やさしく寝かしつけるような声で。


「目をつぶって。体の力を抜いて……そう、上手ね。大きく息を吸って。大きく息を吐いて。吸って、吐いて」


//それぞれ呼吸をするだけの余裕をあける


「吸って。吐いて。吸って。吐いて……おやすみ。新婚ごっこ、楽しみにしてるからね。それじゃ、おやすみなさい」


//すぅすぅと寝息が入る。


〈了〉



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