きっと、これから家族になる女の子 3人用台本

ちぃねぇ

第1話 きっと、これから家族になる女の子

登場人物:女(沙羅(さら))、男(瑛多(えいた))、祖父



男:(M)高校最後の夏休み…卒業後、俺は東京へ行く。彼女の幸せを考えるなら…。思いを告げたあの場所で…言うんだ


0:屋上で空を見上げる男。ドアの開く音。男の姿を見つけ微笑む女


女:やっぱりここにいた

男:沙羅

女:探したんだよ

男:なんの用だ?

女:用なんてないよ。ただ会いたかっただけ

男:…柳瀬さんたちいいのか?

女:お弁当忘れたから購買行ってくるって抜けてきた。たまに離れないと疲れるんだもん。いーっつも誰かの悪口ばっかり言っててさ

男:そんな相手とよく毎日一緒にいれるな

女:まーね。女の世界は群れてないと何言われるかわかんないんだもん、ちょっと疲れるぐらい耐えなきゃ

男:めんどくせーな

女:めんどくさいよ、瑛多といるほうがよっぽど楽。男子はいいね、こうやって一人、屋上でぼーっと伸びてても何にも言われないんだもん

男:(笑って)男に生まれたかった?

女:うーん、それはないかな

男:めんどくさいのに女がいいんだ?

女:うん、女でよかったと思ってる。…なんでだと思う?

男:知らね

女:ひどーい

男:沙羅、昼飯どうすんだ?

女:抜きでいいよ。最近ちょっと太ってきてたしダイエットってことで

男:腹空くぞ

女:だけど今から購買行ったってなんにも残ってないだろうし

男:…俺のあんぱん、食うか?

女:え?

男:チョコぱんと間違えて買ったんだ、帰ってじぃちゃんにやろうと思ってたんだけど、いるか?

女:いるっ

男:(笑ってパンを差し出し)おう、食え

女:(パンをかじり)うんま~

男:そりゃよかった

女:こんなに美味しいのに、ほんと瑛多って昔からあんこだめだよね。こんなに美味しいのに

男:二度も言わんでいいから

女:あ、でも私がこれ食べちゃったら瑛多のお昼は?

男:いいよ、もともと食う気なかったし

女:よくないよ、お腹空くよ?

男:それさっきの俺のセリフな

女:私はいいの、ぷにってるから

男:そうか?

女:そうだよーすっごく触り心地いいんだから。お腹触ってみる?

男:いい

女:ええ~気持ちいいのに

男:腹チラすんな、服をしまえ服を

女:あ、じゃあこのあんこの入ってないとこあげる

男:え

女:(パンをちぎり)はい、お裾分け

男:それもともと俺のな

女:今は私のだもーん、だからはい、お裾分け

男:(受け取って)そらどーも

女:にしても、暑いねーここ

男:今風吹いてねぇからな。っておい、服パタパタすんな

女:えー?だって暑いし

男:慎(つつし)みを持て、女だろ

女:やだー瑛多じじいくさーい

男:そういう問題じゃなくて

女:今ここにいるの瑛多だけなんだから、いいじゃん

男:…はぁ

女:(男の吐いた息を追うようにキャッチして)おっと!

男:何してんの?

女:瑛多のため息捕まえたの。ダメだよ、ため息吐(つ)いたら幸せ逃げちゃうんだから

男:ガキかよ

女:ガキじゃないしー

男:(間を開けて)…なあ、沙羅

女:ん?

男:今年の夏祭り、一緒に行くか?

女:え?

男:あ、いや、もう他の奴との予定が入ってるなら全然いいんだけど

女:(遮って)行くっ!瑛多と行く!

男:…おう。じゃあ、行くか

女:うん!やば、めっちゃ楽しみ!瑛多とお祭りなんて初めてだよね?

男:そうだな

女:なに着てこうかな、やっぱ浴衣?瑛多は持ってる?

男:なわけねぇだろ

女:だよねー(時計を見て)あ、やば。次女子体育館だからそろそろ行かないと。ごめん、後でまた連絡するから

男:おう、またな


0:女、退場


男:ごめんな、沙羅




0:帰宅後


祖父:お帰り、瑛多

男:ただいま、じぃちゃん

祖父:飯出来とるぞ

男:ありがと


0:食卓につく男


祖父:もうすぐ夏休みだな

男:うん

祖父:瑛多は何して過ごすんだ?

男:バイト

祖父:いつもやってる新聞配りか

男:プラスでプールの監視員。時給いいんだよね

祖父:そんなにやって倒れんか?

男:大丈夫だよ。俺、体力あるし

祖父:…ごめんな

男:え?

祖父:俺が腰なんてやっちまったから、お前にばっか迷惑かけて

男:何言ってんの。父さんと母さんが死んでからずっと、俺のことここまで育ててくれたのじぃちゃんじゃんか

祖父:お前、ほんとに大学行かんのか?

男:行かないよ。叔父さんの工場、もう話はついてるんだろ?

祖父:正幸(まさゆき)のことなら気にするな。お前が進学したいって言えばどうとでもなる

男:俺は働くよ

祖父:ほんとにいいのか。金のことを気にしてるなら

男:(遮って)俺頭悪いし、将来何になりたいとかないし。そういうやつが大学行っても、もったいないだけだよ。それより早く金稼ぎたいし

祖父:瑛多

男:そういえば、じぃちゃんの入る予定の老人ホーム、叔父さんの工場に近いんだよね

祖父:ああ

男:俺絶対時間作って会いに行くからさ。流石に毎日は無理かもしれないけど

祖父:俺のことはいい

男:よくないよ。じぃちゃんは俺のたった一人の親なんだから、親孝行させてよ

祖父:ほんとの親孝行は、子供がやりたいことをやりたいようにやってる姿を見せることだ

男:だったら親孝行だよ、俺はじぃちゃんを一日も早く養いたいんだから。これが俺のやりたいことだよ

祖父:この頑固者め。誰に似たんだか…友幸(ともゆき)か

男:父さんと、父さんの父さんに似たんだよ

祖父:はぁ

男:あ、じぃちゃんため息吐(つ)いたら幸せ逃げるぞ

祖父:(さっきより深いため息)はぁ…あほたれ





0:夏祭りにて


女:瑛多~こっちこっち

男:待たせた

女:遅いよ、もう!

男:そんなむくれんなって

女:むぅ…ねぇ、この浴衣どう思う?

男:いいんじゃないか?

女:なにその反応、適当じゃん!

男:ほらほら、いいから行こうぜ

女:あ、ちょっと


0:女を待たずに歩きだす男


女:待ってよ瑛多、下駄(げた)歩きにくいんだから

男:ああ、悪い

女:…手ぇ貸してよ

男:え

女:歩きにくいし、人混みすごいんだもん。はぐれそうだから手、繋いでよ

男:…わかった。(手を差し出し)ほら

女:(手を差し出し)えへへ

男:どっから回る?

女:私イカ焼き食べたい!

男:せっかくの浴衣汚すなよー

女:汚さないよ!あ、あっちのトルネードポテトも美味しそう~!わぁ、唐揚げもある!金賞取ったって!なんの金賞だろう?美味しそー

男:(笑って)そんなに食えるのか?

女:大丈夫だよ、二人だもん!一人だったらちょっとしか食べらんないけど、二人でシェアできるってお得だよね。お祭り2倍楽しめるじゃん

男:だったら、クラスの連中も誘った方がよかったか?

女:はぁ?なんでそーなるの?

男:だって単純計算

女:(遮って)あ、りんご飴!(はや足で駆け出しながら)行くよ瑛多っ

男:おい待てって、お前下駄なのに早ぇじゃんか…


0:30分後


女:ふぅ…お腹いっぱい

男:そりゃ、イカ焼きに焼きそばに唐揚げ、ポテトにパインに…あと何食ったっけ?

女:りんご飴とかき氷!

男:(笑って)そんだけ食べりゃ腹も膨れるだろ

女:全然瑛多、手伝ってくれなかったもんね!

男:だってお前、めっちゃうまそうに食うし。うまかったんだろ?

女:そりゃそうだけどさー

男:…沙羅

女:なに?

男:この後、もうちょっとだけ時間いいか?

女:ん?いいよーどこ行くの?

男:行けばわかる

女:なにそれ(笑)


0:少し歩いた先、小さな公園


女:ここって

男:鹿子(かのこ)公園

女:わーなつかしー!ブランコちっさー私らもう乗れないね?

男:だな

女:あ、あれ、あそこ。あんな遊具あったっけ?

男:あー…なかったかもな

女:だよね?いつ出来たんだろ?あの場所、前は何が置いてあったっけ?

男:忘れた

女:えー頑張って思い出してよー

男:…沙羅

女:なに?

男:この場所で、昔俺が言ったこと覚えてるか

女:…覚えてるよ

男:そっか

女:忘れるわけないじゃん。それだけは忘れないよ、絶対に

男:そっか…あのさ、沙羅

女:(遮って)あの約束、守ってくれるんでしょ?

男:……

女:「お前は俺が守るから、ずっと守るから、だからもう泣くな」って…瑛多、あの時ヒーローみたいにかっこよかったな

男:そんなんじゃないよ

女:そんなだよ。私ちゃんと日本人なのに、この見た目のせいで「外人だー」「英語喋れよ」って男子には笑われるし、女子には意地悪されるし…瑛多がいなかったらきっと、病んでた。この色素の薄い髪も目も全部、大嫌いになってた

男:みんなガキだったんだよ、クォーターの沙羅の見た目は珍しかったから。男子はちょっかいかけたかったんだろうし、女子は多分…やっかみだったんだろうな。お前、目立ってたから

女:知らないよ。あの頃の私にとっては死活問題だったんだから

男:そらそうだ

女:でもこの公園で、泣いてる私に瑛多が「俺はお前の見た目も中身も全部好きだから胸張れよ」って言ってくれて…瑛多はほんとに私のヒーローだったよ

男:そっか

女:ねえ、瑛多。あの、ずっと守るから、はもうおしまいなの?ずっとには期限なんてないと思ってたのに

男:……

女:約束、破るつもりでしょ

男:…沙羅には、俺よりいい奴がいるよ

女:誰よそれ

男:知らない

女:なにそれ、無責任だよ

男:ごめん

女:私、あの時からずっと瑛多のことが好きだよ。瑛多も同じ気持ちだって思ってたよ。それって全部、私の思い上がりだった?

男:…ごめん

女:あの時くれた好きは、そういう意味じゃなかった?

男:好きだったよ。そういう意味で、大好きだった

女:過去形なんだ

男:…

女:私、何かした?

男:沙羅は何も悪くないよ

女:だったら、なんで?

男:…俺、高校卒業したら東京行くんだ。東京の叔父さんの工場に就職が決まってる

女:進学しないの

男:うん、しない。沙羅は法学部受けるんだろ、将来弁護士になるんだっけ?お前頭いいから絶対なれるよ

女:……

男:高卒男と弁護士って、どう考えたって釣り合い取れないだろ、笑われるって

女:周りなんかどうだっていい

男:…俺、就職したらいっぱいいっぱいになると思う。あと、じぃちゃんが腰痛めちゃってさ、工場の近くの老人ホーム入るのも決まってんだ。仕事とじぃちゃんのことで、俺多分キャパオーバーになるよ

女:それが、私がフラれる理由?

男:俺たちは別に、付き合ってなかっただろ

女:そうだね。言葉にしなくたって、ずっと一緒にいるって思ってた。バカみたい

男:ごめん

女:バカみたい…

男:ごめん…

女:(間をおいて)瑛多、最後にお願い聞いてくれる?

男:なに

女:キスして

男:っ…

女:私のファーストキス、もらって

男:もらえないよ

女:もらって!

男:……わかった。目ぇ閉じて

女:やだ

男:え

女:私、目閉じないから。全部全部、忘れないから

男:…そっか。沙羅…さよなら

女:っ…(リップ音)


0:立ち去る男、残された女


女:(泣きながら)バカぁっ…!!




0:卒業式


女:こんなとこにいた

男:沙羅

女:こんな日まで屋上って、瑛多ほんとにここ好きだね。今日寒くない?

男:ズボンだから平気。女子にはまだキツイかもな

女:そう

男:…ひさしぶり

女:うん

男:大学、受かったんだって?合格おめでとう

女:(ぶっきらぼうに)ありがと

男:北海道だっけ?旨いもんいっぱいあるんだろうな

女:……

男:柳瀬さんたちは?

女:知らない

男:知らないって

女:女の友情なんて浅はかなもんなんだよ。今頃彼ピッピと写真撮影でもしてるんじゃない?

男:ふーん

女:………

男:…あのさ

女:なに

男:怒ってる?

女:怒ってないように見える?

男:だよね

女:瑛多は圧倒的に配慮が足りないと思うの

男:うん?

女:受験生っていうデリケートな時期によくもあんな振り方ができたもんだよね。夏祭り誘ってテンション上げといてさーあのあと私のメンタルがどれだけ大変だったか

男:ごめん

女:…ううん、嘘

男:え

女:ほんとは推薦で決めたからそこまで大変じゃなかった

男:…うん

女:知ってたんだ?

男:まあ、一応

女:ほんとムカつく

男:ごめん

女:謝んないでよ!(くしゃくしゃに丸められた紙を投げつける)

男:いてっ!なにすんだよ

女:…

男:はぁ、ったく

女:ため息吐(つ)くな

男:お前なぁ…

女:それ拾って

男:それって

女:さっき投げたやつ

男:お前自分で投げといて

女:拾って

男:はいはい…(渡して)ほいよ

女:あげる

男:はぁ?

女:瑛多にあげる

男:なんだよこれ

女:ゴミ

男:は?

女:嘘、ゴミじゃない

男:なんなんだよ(おもむろに紙を開いて)北海道旭川市…おい、これって

女:私の住所。だけど瑛多の住所は聞かない。多分それしたらストーカーになると思うから

男:ストーカーって

女:ここに来るまでに瑛多の連絡先も消した。私からは絶対アクション起こさない、これが私の覚悟

男:…

女:大学入って、瑛多よりもずっといい男に出会って恋して結婚して、そういう人生もあると思う。だから、そのゴミどうするかは瑛多次第だから。私、待たないし!自由に生きるから!

男:…

女:だけど…もし万が一、瑛多が私のこと忘れられなくなったら…会いに来ていいから。待っててなんてあげないから玄関先で突き飛ばすかもしれないけど

男:ひでー

女:だって、これが私の精一杯だもん!

男:…うん

女:あと、やっぱり怒りが収まらないから目、閉じて。歯食いしばって

男:あ、俺殴られる感じ?

女:甘んじて受け入れて

男:(目を閉じて)…わーったよ

女:そういう、結局全部受け入れちゃうとこほんと嫌い。流されんなバカ

男:目開けていいの?

女:つむってて。おとなしく流されて

男:どっちだよ

女:私相手には流されて

男:横暴だなぁ

女:(近づいて)…瑛多

男:…

女:(リップ音)

男:え

女:またね、ばいばい


0:立ち去る女、残された男


男:性質(たち)悪(わる)すぎんだろ…




0:数年後、顔合わせにて


祖父:いやぁ長生きはするもんだねぇ~瑛多がこんなべっぴんさんを連れてくるなんて。しかも弁護士先生だなんて、じぃちゃんおったまげたよ

女:瑛多さんがどうしてもどうしても私と結婚したいってきかなくてぇ~

男:おい

女:あら、なにか間違ったこと言った?

男:…なんにも間違ってません

祖父:(楽しげに笑って)いいぞ、女は強くなくっちゃな!…沙羅さん、情けなくてこうと決めたら聞いてくれない頑固な奴だけど、私にとっては息子の忘れ形見の大切な孫だ。というより、育てた期間が長すぎてもうひとりの息子のような感じかな

女:はい

祖父:瑛多をどうか、よろしくお願いします

女:はい!瑛多さんのことは、私がずーっと守りますからご安心ください!

男:それ俺のセリフ

女:うん、だから私のことは瑛多がずっと守ってね。あ、言っとくけどこの「ずっと」は無期限だからよろしく

男:…敵わないなぁ、もう

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きっと、これから家族になる女の子 3人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

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