第33話 ちなみに私は家ではノーパンだ

「みなこん! 愛敬堂の未来を担う愛敬堂ミライチャンネルの以下略です!」


《略すなwww》

《いきなりテンション高いじゃん》

《ニコニコで可愛い》

《以下略ちゃん略してイカちゃん!?》

《元気いいね。なにか良い事あったのかい?》


「うぇっへっへ。よくぞ聞いてくれました! 実はこの前の腐り家で手に入れた戦利品の換金が終わったんです! というわけでありがとね九頭井君!」

「仕事だからな」


 ハイテンションの未来とは対照的に、冷めた様子で時継が答える。


《金入るから喜んでたのかw》

《やっぱり現金www》

《テンションの差よ》

《もっと喜べ》


「一千万程度じゃなぁ」


 時継が肩をすくめる。


 腐り家を手に入れた後、時継は未来に頼まれて戦利品の鑑定配信を行っていた。


 残された収納系アイテムを確認した感じ、元の持ち主は生産系のプレイヤーだったようだ。


 高値で売れそうな装備の類はなかったが、生産系クエストで入手できる報酬アイテムなんかはそこそこあった。


 採掘で手に入る鉱石の質や量にボーナスが入る各種ツルハシ。


 特定のモンスターから手に入る皮や毛の量にボーナスが入る各種ハサミ。


 鉱石を精錬した際に入手出来るインゴットの量にボーナスが入る還元剤。


 特定の鉱石の精錬にボーナスの入る色付き溶鉱炉。


 特定のインゴットで作った金属製品の品質にボーナスの入る色付き金床。


 追加効果付きのマジック装備を作るのに必要な各種作成ツール。


 修理によって摩耗した装備の最大耐久値を回復する妖精の粉通称てんぷら粉等々。


 需要の多い上位アイテム程高額になるが、その手のレア報酬はあまりなかった。


 配信の都合上さっさと現金化したかったので、相場よりも安く売る必要もあった。


 その結果が一千万だ。


 それでも腐り家の成果として当たりの方ではあるのだろう。


 場合によっては引っ越し後の抜け殻で、金にならないゴミしか残っていない、なんて事も結構あるのだ。


 とは言え、金なら腐る程持っている時継である。


 この程度では喜ぶ気にはなれない。


 いっそ空っぽの方が配信的には美味しいくらいだ。


「そりゃ九頭井君はお金持ちかもしれないけど、あたしからしたら大金だよ!」


 未来が口を尖らせる。


 そして口元をにへらと緩ませ。


「二人で山分けしても五百万……。借金返してもお釣りがくるよ! これだけあれば悲しみの壁だけハウスとはおさらばして、ちゃんとハウジングして家具も置けるもん!」


 未来がウキウキな理由はそれだった。


 家は金のかかるコンテンツなのだ。


【バーカバーカ! ここはあたしのお家だよ~ん】改め、【愛敬堂AO支店】は最少サイズに毛が生えた程度の大きさである。


 それでも土台を建てるには十万程かかった。


 この土台をちゃんと家にするには、壁の一枚、床の一マスごとに決められた金額を要求される。当然洒落た内装程要求額は増す。


 外から視線が通るとモンスターやPKから攻撃され放題になってしまうので、最安値のダサいベニヤ板みたいな壁で土台を囲んだが、そこで未来の予算は尽きた。


 屋根もなければ床もない、雨晒しの土台。


 今二人が配信している愛敬堂AO支店は、家と呼ぶにはあまりに貧相な状態だった。


 ハウジングを楽しみにしていた未来としては、まとまった金は喉から手が出る程欲しい状況だろう。


「というわけで~! 早速だけど取り分下さい!」


 ペコリとお辞儀してミライが両手を差し出す。


「ほれよ」


 †unknown†が小切手をミライに渡す。


「やった~! って、五十万!? 九頭井君! 桁間違ってるよ!」

「いいや。それであってる。全員で山分けだからな」

「だったら500万でしょ!」

「全員だって言ってるだろ。無銘の刃の連中と大吾忘れんな」

「………………ぁっ」


 しまったと言う顔で未来が呟く。


《完全に忘れてた顔www》

《ヒドイwww》

《別によくね?》

《†unknown†様!? 私達の分は大丈夫ですので!?》

《兄貴!? 俺はいらないっすよ!?》

《www》

《こいつら本当仲いいなwww》


 他にも無銘の刃と思われるリスナーが報酬辞退のコメントを書き込む。


「日曜の朝っぱらから配信手伝わせたんだ。そういう訳にはいかねぇだろ。むしろ俺らだけで分けたら炎上するわ。つーわけで拒否権はねぇ。委員長も文句はねぇよな?」

「はひ……。ごめんね風間君、さっちゃん先輩と生徒会の皆さんも……。お礼に今度うちの和菓子持って行くので……」


 ペコリと未来が頭を下げる。


 その後も遠慮する風間達と未来の間でちょっとしたやり取りがあったが。


「めんどくせぇ。黙って受け取れ」


 時継の一言で解決した。


 配信のお陰で愛敬堂の売り上げは右肩上がりだ。


 これくらいは言っても許されるだろう。


「つーわけで今回の配信だが」

「ちょっと待って」


 ミライがトレードを申し込んでくる。


 トレード窓には25万ゴールドの小切手が乗っていた。


「……さっきの計算だと九頭井君の取り分入ってないよね? ……少ないけどこれ」

「いらねぇっての。金なら幾らでも持ってんだ」

「だめ! 仲良くみんなで山分けでしょ?」

「俺はいいだろ。身内みたいなもんだしよ」


 それならリスナーだって文句はないと思うのだが。


「ダメったらダメ! 一番頑張ってくれたんだし……。九頭井君だけ仲間外れは嫌だもん!」


 未来は意地でも譲らない気らしい。


「……はいはい。わかりましたよ」


 ここで言い合っても配信のテンポが悪くなるだけだ。


 仕方なく時継は受け取った。


《あら~^^》

《てぇてぇ》

《てぇ……》

《てぇな……》

《いちゃいちゃすんな(しろ)》


「うるせぇ! だからイヤだったんだよ! 委員長とはあくまでビジネス! そういうんじゃねぇって言ってるだろ!」


《わかってるって^^》

《はいはいそうだね》

《赤い顔で言われても説得力ない件について》

《俺は応援してるぞ^^b》


「お前らまとめてコメント制限な」


 さらっと言論を弾圧しつつ。


「まぁ、そんなに大きなお家じゃないし、これだけあればどうにかなるよね? そうだ! 今日の配信は初めてのハウジング! 25万でどこまで可愛く作れるかチャレンジ! ってのはどう?」

「却下」

「え~! なんで~!」

「その金は借金返済で消えるからな」

「え?」

「俺から100万借りてるだろ。利息は一日一割。五日経ったから今161万だ。ちょっとずつ返さないと大変だぞ」

「そんなぁ~!?」


 涙目で未来が叫ぶ。


《www》

《ひっでぇwww》

《一日一割はヤバすぎる》

《ヤクザだってトイチ十日で一割な件》


「ハウジング楽しみにしてたのにぃ! 九頭井君の鬼ぃ! 悪魔ぁ! 人でなしぃ~! こんな事なら半分渡すんじゃなかったよぉ~!」


《おいwww》

《本音ワロタwww》

《可哀想だけど可愛いwww》

《気持ちは分かるけどもwww》


「なんとでも言え。貰った物を返す気はねぇ。まぁ、安心しろよ。俺にだって人の心はある。委員長が授業中ノートに家のデザイン書いて先生に怒られるくらいハウジング楽しみにしてたのは知ってるし、今回も美味しい金策紹介してやるよ」

「やったー! って、九頭井君!? それは言わない約束でしょ!?」

「あぁ? 配信が面白くなるなら委員長のパンツの色だってバラす俺だぞ?」

「得意気に言わないでよ!?」

「ちなみに今日は黒のレースだ」

「無地の水色だよ!?」


《¥5000 感謝》

《¥10000 ありがとう九頭井》

《¥20000 下着代》


「センキュ~スーパーチャット」

「うばぁあああ!? 九頭井君なに言わせるの!? ていうか下着代ってなに!?」

「知らねぇし、委員長が勝手に言っただけだろ」

「九頭井君が言わせたんでしょ!?」


《ちなみに私は家ではノーパンだ》


「聞いてないよさっちゃん先輩!?」


《俺は黒のボクサーっす》


「お前はマジで聞いてない」


《マジそれな》

《いや需要あります》

《女リスナーの気持ち考えて!》

《男リスナーだって知りたいが?》

《九頭井君は今どんなパンツ履いてるのかにゃ~?》

《教えろよ》

《お前も教えろ》

《パンツはよ》


 妙な流れになり、時継はキッパリ言い放った。


「変態じゃあるまいし、そんな事教えるわけねぇだろバカが」


 ここだけの話、しまむらのアニメコラボトランクスである。

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【改稿版】ダンジョンで釣りしてたら同じクラスの美少女配信者に見つかってバズった件 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

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