1-2
ガシャーン!
激しい音が響いて、逃げたくなった。けれど逃げる場所などここにはない。
廊下にあるのは壁についた書棚だけで、その裏には到底逃げ込める場所はないのだ。
「ああー……、やっちゃったか」
顔を覗かせたのは祖母だ。
「ごめん、ばーちゃん」
素直に謝るしかない。
「いやいや、そこに置いてたあたしも悪いんだよ。花瓶なんて割れやすいもんねえ。花をいれてなくてよかったよ」
祖母がよく使っていた花瓶はオレがぶつかったせいで、激しく割れてしまった。仕方ないよ、とホウキを持ってきた祖母は片付けとくよと言ってくれた。いつもは気をつけているのに、うっかり滑ってぶつかったのだ。笑って許してくれた祖母に新しい花瓶を買ってこようと思った。
それから少しして祖父が外出から帰ってきた。
廊下の花瓶がなくなっていることに気づいて、眉を上げる。怒られる前に、オレは先に謝った。
「ごめん、花瓶割っちゃった。足が滑って、台にぶつかって……」
何故か祖父はますます怪訝な顔をする。花瓶を割ったことで不都合があったのか、と内心びびっていたが、祖父はオレの頭に手を置いた。そのままゆるゆると撫でられる。
「お前はいい子だなあ」
不思議に思っていたら、祖父は呟いた。
「……大丈夫。あれはあいつが先週すでに割っていた」
「え?」
「自分で嘆きながら内側にテープを貼ってごまかしていた。往生際が悪かっただけだ。お前はなんも悪くない」
衝撃だ。言葉のないオレの頭を祖父は暫くずっと撫で続けた。
それからオレは、暫く祖母と口をきかなかった……。
単独編集 ケー/恵陽 @ke_yo_
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