読書感想文

「時給300円の死神」を読んで

 僕がなぜ「時給300円の死神」を選んだのかと言うと、時給300円?労基に引っかかるのでは?と思い、手に取ってみたのである。結論から言うとこの仕事は、残業代も交通費もボーナスもなし。シフトは選べず、当然、有給なんてものもない超絶ブラック企業であった。佐倉が死神業を引き受けたのは、、両親が離婚しており経済的に困窮しているのにどこもバイトに雇ってくれない。そんな彼が稼げる仕事は死神業しかなかったのである。しかも、彼をスカウトしにきたのはクラスメートで高嶺の花の人気者・花森雪希。「半年勤め上げれば、どんな願いも叶えてもらえる」なんて口約束を本気にしたわけではなかったが、ほとんど話したことのない雪希に巻き込まれる形で、佐倉はこの不思議なアルバイトを始めるのである。この物語で言う死神は生者の命を狩る方の死神ではなく、未練を残して成仏できずにいる人々をあの世に送るのが仕事である。ここでのポイントは「あの世に送る」のが仕事であって、その仕事の内容には「未練を解消させてあげる」のが必須条件ではないのでる。できれば未練を解決して成仏してほしいが、死後もなお現代にしがみつくほどの思いは他人がどうこうできるものではない。この物語での「死者」は少し特殊である。死者が無念を残し現世に滞在する事で生まれるロスタイム。そのロスタイムによって改変される歴史。登場する死者は生きていた時と同様、普通の暮らしを続けており佐倉にはそうだと言われなければ相手が死者なのか、生者なのか判別が付かないのである。しかも、「死者」には自分の未練に関わる能力が一つ備わっている。この物語は5章に分けられるが、僕はこの4章ついて書きたいと思う。

 4章は「死者」は四宮夕。8歳のとき母親の虐待の末に殺されて、〈対象の心臓を止める力〉を持っている。この能力ははじめ母親を殺すための能力と主人公は考えていたが、それは間違えだった。四宮は雨野のおじちゃんと呼ばれる怪しい人と仲良くしていた。彼もまた≪死者≫だった。彼は、四宮が多くの死神と出会う中で、少しずつ心を開いていると教えてくれた。しかし、母親による虐待は続いており、数日後、事件は思いかけずに起こります。四宮が母親にマンションから突き落とされ、殺されたのです。7階から落とされたため、四宮はおぞましい姿で生死を彷徨っていました。花森の誕生日に備えて、四宮は『宝さがし』の宝もの中にプレゼントを入れて準備をしていました。もし自分がいけない場合は、佐倉にお祝いをしてほしいと伝えられていたので、プレゼントを掘り起こします。しかし意外なことにノート1冊しか出てきません。ノート一面に書かれた文字の嵐。それは、佐倉と花森へ向けたあらん限りの罵倒の言葉だった。『くたばれ』『死ね』『消え失せろ』そんな暴言が数えきれないほど、何ページにもわたって。四宮は殺された今でも母親からの愛情を求めていたのです。彼女は母親を殺人罪で捕まらせないようにするためにできるだけ多くの時間、ロスタイムを過ごそうとしていました。それを邪魔する死神は、全員敵でした。ここまでが4章です。

 まず四章を読んでぱっと頭に「ありがた迷惑」と言う言葉を思いつきました。どれだけ周りが、世間がおかしいと言おうと夕ちゃんは虐待されながらも愛を求めていた。これに違いはない。確かに世間一般的には母親はありえないぐらいおかしいし、夕ちゃんも少しいいか方があれだが、世間一般はおかしいしと言えるだろう。これは僕の感想で、「現実にあったら逮捕されるべき」ということを念頭に置いて僕の考えを聞いてほしいが、夕ちゃんの事を考えるのならここは『放置』が適切ではないかと思った、自分が言っていることが世間一般とはズレているとはわかっているが、夕ちゃんは死をしてなお現世に滞在するほどの思いを持って母親の元に居たいと思うなら、そして邪魔するなら者を殺せるほどの力があるなら、言い方が悪いが『放置』でいいのではないかと思った。この本は読み手によってとても解釈が変わると思った。僕は夕ちゃんがどういう思いでいたかが読者なのであれこれ言えるが、佐倉は、大多数の読者はこの章はモヤモヤしながら読み終えると思う。夕ちゃんが求める幸せは他人から見ると不幸に見える。そして他人が不幸から救おうとすると、夕ちゃんからすると自分の愛情を否定する敵となる。これに関しては他の考え方がある。例えば、心臓を止める能力は、自分の心臓を止めたかったという未練を表しているのではないだろうかという考え方をする方いらしゃった。つまりこの気持ちが歪であり、止めてほしいと思っていたと考えられる。

 この「時給300円の死神」は解釈によって色々な見方ができるとても素晴らしい本だと思った。


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