戸上梨央との物語

第5話

　あのメールに対して莉央ちゃんからは未だ返事がない。

　僕はいつも通りの生活に戻っていた。

　ただ正直色々と退屈をしていた。

　僕にとって楽しかった日常というのは莉央ちゃんや真奈がいてその2人に振り回されているのが1番楽しかったという事実を突きつけられているような感じがしたからだ。

　そんな日常を不服には感じていたがそれでもなんだかんだそんなものを楽しんでいるある時間のことだ。

　返信があった。

　相手は莉央ちゃんだ。

　僕は少し嬉しかったがその返信を今は見るまいと中を確認せずにスマホをポケットに突っ込んだ。

　そしてそのまま帰宅した。

　バックを部屋の中に放り込みココアを入れ先の前で少し深呼吸をする。

　意を決してスマホの画面をつけ返信内容を確認する。

“ありがとう、でも何があったのかや彼女の奇行の理由を知るまでは信じられないから教えて欲しいわ”

　返信内容を見てまず僕は少しガッカリした。

　だがそれでも僕は彼女のことを言うことはしなかった。

“ごめん、彼女との事は話せません。それに欲しがっていた写真も大丈夫”

　僕はこれだけ送ってまたスマホを閉じた。

　その日は何度か連絡がないかの確認をしたが返ってくる事はなかった。

　僕は朝になっても帰ってきていないことを確認してから家を出る。

　学校にいてもあのメールのことばかり考えてしまっていた。

　少し淡白な内容だったかもしれないと考えたが莉央ちゃんがそんなことを気にするような性格ではないような気もすると自分の中で考えている。

　もう今日だけでこんなこと考えるのは何度目だろうか。

　結局返事が返ってきたのは放課後になってからだった。

“とりあえず会える？”

　僕はなんか嬉しくなりすぐに返事をした。

“会えるよ、今日？”

　もちろん返事は返ってこない。

　僕は結局また彼女に待ちぼうけを食らってしまったという事になる。

　でも莉央ちゃんからの返事を待つのは何故だか楽しい。

　僕は退屈に感じていた矢先だったからなのか嬉しくなってきてしまっていた。

　まだかまだかと返事を待ち望んでいると意外にも早くに返事が来た。

　それは今日の就寝前の事で僕は丁度やってきていた眠気と闘いながら返事を見た。

“明後日の放課後が都合がいいわ”

　僕はすぐにこの返事にYESで返事をし瞼を閉じたが何故だかうまく寝付けない。

　仕方がないので僕は夜の散歩に出かけた。

　先程まで眠くて耐えられないと思っていたのに今はその逆で眠くならずに困っている。

　なんて迷惑な体なのだろうかと自分のことを馬鹿にしていると見覚えのある場所に辿り着く。

「ここは…」

　そう、ここはあの夏祭りの会場であった河川敷なのだった。

　昔から変わらずここでは毎年夏祭りをしている。

　僕は莉央ちゃんが転校してから一度だけこの祭りに参加はしてみたがやはりあの時の楽しさがあまり味わえないでいることからの虚しさからこなくなってしまった場所の一つだ。

　彼女と出会って彼女のことをまだよく知らない僕は彼女といるために色々としていたなと小さい頃の自分を思い出して少し笑ってしまっていた。

　あの時の少女は今何をしているんだろうか。

　ふと思い出したあの少女も莉央ちゃんに救われてた1人なのだ。

　そして多分僕の知らない子の数年間にも彼女は沢山の人を救ってきてしまったんだ。

　本人に見えてしまうその未来にさせないために。

　僕が彼女なら無視できただろうか。

　彼女だからきっと助けてしまうんだ。

　多分僕なら赤の他人まで助けようなんて思いは起こらない。

　次に僕は昔梨央ちゃんに紹介したお気に入りの高台にやってきた。

　ここはあれからも何度もこのお季節になるとやってきていた。

　毎年もしかしたら今年はいるかもしれない、今年こそはと期待はし来るが毎年落胆する結果に終わる。

　来ないとわかってはいるつもりなのに自分の中の希望が期待になってそれが行動に出てきてしまう。

　僕はそんな思いをずっと抱えてここにきている。

　今日来たのもそんな日々の記憶が僕の中を駆け巡ると同時に明日はようやく梨央ちゃんと会える。

　正確にはあってはいたがこれでもろもろの理由がなく会えるのだと思いものすごく心が震える。

　僕は落ち着かない心臓を落ち着かせる術など知らず、試さずこの高揚する体と心をそのままに走り出した。