第3話
過去のことを思い出していたら時刻は0時を過ぎっていた。
僕は彼女に言いたいことが沢山ある。
僕は彼女に対して伝えたいことが山ほどある。
僕たちはずっとあの時のまま前に進めずにここまで来てしまったんだろう。
体は成長しても心はあの時のままずっと成長もせずどこかに捨ててもこれず。
そしてそのチャンスがやってきた.
明日からまた梨央ちゃんを探すことになる。
僕は人生で初めて仮病で学校を休むことを決めた。
僕はさっそく学校を休んだ。
父親は正直文句を言ってくると思ったが何かを察したのか何も言わなく一言だけ。
「お前の好きにやれ」
そう言って会社へと向かっていった。
僕はとりあえず父親を玄関で見送った後軽く支度をして家をを飛び出した。
向かう先はとりあえず梨央ちゃんの自宅だ。
でも会いたいけど会いたくない。
そんな矛盾の心を持ったまま目的地についてしまっていた。
カーテンは閉め切っていて生活感を感じない。
やっぱり同じところには住んでいないのだろうか。
僕はがっかりしたような安心したよう気持ちで戸上家を後にした。
まずは思い当たるところをしらみつぶしに探してみる。
だが本当に戸上梨央という女性は僕の幻だったのかと思うほど見つからない。
ふとあることに気づく。
そもそも僕が仮病で休んだのだから彼女もまた学生であったことを。
僕は舞い上がりすぎてそんなことを失念知っていた。
僕はスマホでさっそく近くの高校をいくつか調べ上げる。
その中でも私立で情報セキュリティがしっかりしてそうなところに目を付けた。
僕はさっそく電車を使い向かった。
そんなに遠い位置ではないがたくさんいろいろと動き回っていたので気づいたらすでに昼過ぎになっていた。
丁度僕もおなかがすいた。
どうやって校内に侵入しよかと悩みつつ僕は考えを巡らせていたがそれどころではなくて何か買おうと近くの店に向かった。
うろちょろしていると厚着の女子とぶつかった。
「ごめんなさい」
「こっちこそごめんね」
隠してはいるがここまで至近距離で見ればすぐそこの私立高校の制服が見えた。
僕は人生で初めて他人を脅すことを決意しました。
早速後をつけていき、どこから出てきたのかを探るべく人気がいない場所を狙う。
ここだ!というタイミングが来た。
僕は勢いよく声をかけようとしたが先に女子から声をかけてきた。
「ねぇ、なんでさっきからあとをつけてきてるの?」
変な汗が溢れ出る。
もしかしたら僕のことじゃないのかもと思っていたが観念して姿を現そうとしたら急にもう一人姿を現した。
「ご、ごめん」
「また、あんた?」
「どうしても真奈ちゃんとお話がしたくて」
「うれしいけどさ、ストーカーはよくないと思うって前に言ったよね」
「うん、ごめん」
男は肩を落としてゆっくりとその場を去っていった。
僕はどうしようかと悩んでいると声をかけられた。
「ねぇ私が気になってたのはあんたのほうなんだけど。あいつは気づけなかったし」
僕は至近距離でそう詰め寄られ返答に困る。
もう仕方なしにすべて話した。
「ここの高校の生徒でしょ。お願いがあります。抜け穴が何かありましたらお教えてください」
僕の誠実なお願いに彼女は面白そうにニッと笑った。
「なにそれ、もしかして好きな女が中にいるの?」
僕は図星をつかれてつい黙る。
「面白いからいいよー。ただ少しの間私の彼氏役やってよ。見てたならわかるでしょ。私少しめんどくさい奴にストーカーされてて大変だから。あきらめてもらえるまででいいから」
「そんなことならいいよ。空いてる時間にね」
「呼んだら来ること」
「はい」
「よろしい、私は小金真奈」
「僕は三橋純、よろしく」
「それなら教えてあげるね。ただしストーカーはばれないようにやってね」
「僕はストーカーじゃないよ」
「いや、君のやってるそれは立派なストーカーだしこれからやるのは不法侵入だからね」
そういわれると実感がわく。
僕は人生で初めての犯罪行為をこんなわけのわかない女子に言われて気づくとは。
「それじゃついてきて」
僕は真奈についていく。
案内されたのは校外裏手にある小さな物置のような見た目の古い建物であった。
僕はその中に通されると扉を固く締めた。
真奈は中の明かりをつけずどこからか取り出した懐中電灯である棚を照らす。
「それずらして」
「うん」
僕はおとなしくしたがってその棚を力いっぱい押した。
すると鉄の扉が姿を現し、それを真奈はあける。
冒険をしている子供のようなわくわくと緊張と少しの恐怖が僕の中を流れる。
中はとても暗く一本道。
じめじめはしていないが少し埃っぽい。
「よくこんな場所見つけたね」
「ん、学園長室でなんかの本に挟まってた」
「真奈、盗みはよくないよ」
「あんたに言われてもね」
もっともだったので反論はできなかった。
「ついたよー」
僕は真奈が急に止まったので慌てて止まる。
彼女が目の前の扉をゆっくりと開ける。
「ここは物置?」
「そそ、もう使われてないけどね」
真奈は扉を閉めるとそこに絵画を上からかぶせて布をかけた。
「その扉を開けたら念願の世界だよ」
「なんだよその言い回し」
「何となく雰囲気出る気がしない?」
僕はゆっくりとその扉を開けた。
「ようこそ桐生学園へ」
ふざけた紹介だったが確かに作り話のような学園だっただけに驚いた。
しかし感動しているよりも優先していることがある。
「早く梨央ちゃんを探さないと」
「あんたのストーキングの相手って梨央ちゃんっていうの?」
「うん、戸上梨央。すごくきれいな人だからもしかしたら知ってるかも」
「うーん、知らないなぁ」
僕は少しショックを受ける。
「あ、でももしかしたら転校生かも! ちょっとそこに隠れてて」
彼女はそういうと僕を置いて駆け出した。
何を話しているかはわからないがいろいろな生徒と話しているようだ。
少し経つと笑顔で戻ってくる。
最初は嫌な奴と思ったけど意外とかわいいところもあるんだなって思いつつもなんでそんなに笑顔なのか気になった。
「おまたせー、戸上梨央についていろいろ聞いてきたよ。 私の隣のクラスに転校してきたらしいんだけど、学校も休みがちで一週間のうちに二日三日とかしか来ないから幻の存在って言われてるんだって」
梨央ちゃんは学校を休んでいるのか。
「でも今日はきてるらしいよ」
「え、どこにいるの?」
「なんか部活中らしくて、美術室」
「梨央ちゃんって絵が好きだったんだ」
「知らなかったの? あんたストーキングのレベルはまだまだね」
「別に僕はストーカーを極めているわけじゃないよ」
「そうだったっけ」
「そんなことより美術室にはどうやって行くの?」
「はいはい、行き方はねまぁ口で言うより早いから案内する」
僕はとりあえずどこからか用意された男子用の制服を着せられ腕を引っ張られた。
なんか用意がいいような気がする。
少し目立っているような気がするが特別不思議がられているというわけではない。
彼女が目立つ存在なのだろう。
ほかの生徒の視線が僕ではなく彼女に向いていることが気になった。
彼女は何かこの学校では有名人なのだろうか。
僕たちはそんな生徒たちの視線を無視して校内を突っ切っていく。
大きい学園だが大きいだけあって人気が少ないところも多いのだろう。
僕たちはようやく人がいないところまで出ることができた。
「少し気になったんだけどもしかして真奈って学校で有名人だったりする?」
僕の問いかけに少しためらいを見せたが振り返って彼女は答えた。
「うーん、私が学園長の孫で不良娘だからかな」
「そうなのか、君はなんで不良なんてやっているんだ?」
純粋な疑問ではあった。
僕はあまり進んでそういったことはやらない性格なので単純な興味もあった。
「なんていうか親の望まれたことをして生きていくって息苦しくてさ。あれやれこれやれってうるさいから」
「それで親が絶対許さなそうなことをやってるってこと?」
「うん、私は自分のしたいことをしたいんだよ」
「それが本当にしたいことなのかな」
「したいことだよ」
「そうなのかな」
「ほらあそこの教室!」
彼女が指をさした教室を窓から少しだけ頭を出して覗くとたくさんの生徒がカンパスにイメージを表現していた。
僕はその中から梨央ちゃんを一瞬で見つけ出す。
僕の視線で誰が探している人かを気付いたのか小声で真奈がささやく。
「結構美人じゃん」
「でしょ」
「なんであんたが自慢げなの」
「? なんでだろう」
僕はさほど疑問に感じなかったがうれしかった。
部活の時間が終わり他の生徒が次々と教室を出ていくが梨央ちゃんだけは外に出ていかなかった。
まだ絵を描いている。
「声かけないの?」
「ううん、かけないよ」
「どうして?」
「満足するまで描かせてあげたい」
「はいはい」
真奈ちゃんはあきれたようなつまらなさそうな表情をして僕の背中に寄り掛かる。
「彼女じゃないんでしょ」
「違うよ」
「あんたキモイね」
「そうかな」
「そうだよ」
「これだけは言わせてほしんだけど」
「何?」
「ありがとう」
「え?」
「ここまで連れてきてくれて」
「なになに?」
少しお驚いたような声だった。
表情は見えないが少し体にかかる体重が軽くなったような気がした。
しばらくすると梨央ちゃんは満足したのか絵に布をかけて教室を出た。
それをみて僕は声をかけようか悩む。
かけたいしかけたくない。
最近矛盾した感情が多いなと思いつつもそれ以上に悩みが尽きない。
「行っちゃうよ?」
真奈にいわれて僕は決心して飛び出した。
通路からみえた梨央ちゃんに声をかけた。
「梨央ちゃん」
彼女はとても驚いていたがすぐに怒ったような表情に変えてこちらを睨んだ。
「何やってるの?」
ごもっともだが僕はここは悪びれることなくいうことに決めた。
「君に会いに来たんだ」
莉央ちゃんはなにを言っているんだと言いたげな表情を僕に見せたがそれを口に出すことはしない。
「ちゃんと手続きとかは済ませたの?」
「手続き?」
「やっぱりしてないのね」
「仕方なかったんだよ、そんな暇なかったし」
「あなた思いつきでここまで来たの?あきれる…」
「元気そうでよかった」
「あなたも」
僕たちは何か言い合うこともなくただお互いを見つめた。
気まずい瞬間に見えるが僕の心の中は言うほどそう言ったものはなくただこの時間を大切にしたいと感じた。
彼女もそうなのだろうかとそんなことを考えていると横から声がして僕の腕が軽く引っ張られる。
「純! この人が戸上さん?」
「う、うん」
「よろしく」
「…えぇ、よろしく」
真奈は僕の腕を少し強めに引っ張って自分に引き寄せた。
「うちの純がお世話になってます!」
「…あなたはそれをわざわざ他校にまで見せるためにきたの?」
莉央ちゃんは靴を履き変えながら呆れたように言葉を漏らした。
「いや、そういうわけじゃないんだ」
「私にはそういうふうに見えたけど」
「いや、あの。なんていうか」
「私別に気にしてないからそんなに慌てなくても大丈夫よ」
それはそれで悲しい気持ちになる。
「それじゃ私を先に帰ることにするわ」
「バイバーイ」
真奈は背を向けて進んでいく莉央ちゃんに微笑みながら僕がそちらに行こうとしてることを許してはくれない。
「おい、なんであんなこと言ったんだ?」
「だってしばらくは純は私の彼氏だし、そっちの方が面白くない?」
「はぁ、面白くないよ。どうしよ」
「大丈夫、こんなところまで追っかけてくる変態さんなんて最初からそこまで評価高くないよ」
うるさい子だなと珍しく自分でも怒りが湧いた自覚があった。
「とりあえず暇なら少し遊ぼうよ」
「暇じゃないよ。莉央ちゃんが描いた絵を見たいからね」
「この粘着質ストーカー」
「違うよ」
僕たちは美術室に向かった。
そこにある数々のカンパスの中から莉央ちゃんの座っていた席に向かい失礼ながら布を少しの間とった。
そこにはとても綺麗な絵が飾られていた。
しかしそれは綺麗だが決して人を幸せにするものではなく、それをみた僕はかなり不安を感じた。
燃え盛る炎が僕を不安にさせる。
僕はふと思った。
もし莉央ちゃんは自分の見た予知夢を絵に起こすために美術部に入ったのだとしたら。
もしそうならなんのためにそんな事を。
莉央ちゃんは助けを求めている。
あの時みたいに1人で解決することのできないこともあるはずだ。
僕は自分の都合の良い方向に考えているかもしれないがそう思いついたらきっとそうなのだと完全に振り切ってしまっていた。
だからこの絵を1枚スマホで撮影し、すぐにその場を去った。
真奈はまだ着いてくる。
暇なのだろうか
だが僕は真奈の相手をしている暇はない。
莉央ちゃんに会いたいが会っても無視されるかもしれないのでそうされないだけの情報を持って会話しようと決めた。
この絵は火の海でどこなのかわからない。
どうにかして見つけられないだろうか。
これほどの火事が起きたら大変だ。
それにあの優しい莉央ちゃんのことだから止められなかった時は自殺してしまうかもしれない。
僕は顔色を悪くして良くない事を考えてしまった。
それを見た真奈が僕の事をグラグラと揺らす。
「ねぇ、私にも見せてよー」
子供みたいな事を言って僕のスマホを取り上げてしまう。
「あ、私ここ見たことある気がするなー」
「え?」
「どこだっけ?」
真奈はすごくわざとらしくそういうので何か悪巧みをしていることは分かったが知るためだ。
この機会になるしかないと思った。
「連れて行ってください」
「いいよー、こっちこっち」
真奈はすごく楽しそうに僕の腕を無理やり引っ張っていく。
僕は大勢を崩さないように頑張った。
そんな僕の頑張りを気にも留めずに真奈は僕を案内というよりも連行するように連れて行ってくれた。
僕が連れらて来たのは僕たちの二つの学校の丁度中間あたりに位置している町で人の気配が二つの町に比べて少なく栄えてはいないように感じた。
だがとても落ち着いていて人は多くもないが田舎というほど田んぼがあるわけでもない一番住みやすい街だと思った。
「ここにあるの?」
僕は彼女が嘘をついているのではないかと少し疑いの目を向ける。
「疑ってるー?」
彼女は少し面白そうに唇の端を釣り上げた。
「いや、そういうわけじゃないけど」
「嘘、だってそんな顔してるよ」
どんな顔しているのか少し気になってくるがそんなことよりも僕は梨央ちゃんの力になりたいのだ。
「本気だよ」
本気な気持ちが伝わってくれたのか真奈は少し機嫌を悪くした。
真奈は口を閉じ僕を案内する。
「ここだよ」
僕はスマホを取り出し写真を確認する。
案内された場所は確かにあの絵の場所にそっくりだった。
あの絵はまだ未完成品でたぶん覚ええていることだけを描いたんだろうからまだどういう経緯かはわからないが場所はたぶんここで合っている。
この廃校の校庭の作りと校舎の数、それらが酷似しいていた。
僕たちはもしかしたら何かわかるかもしれないと思い少し調べていくことにした。
「それじゃ手分けしよ」
たしかにもう暗いのでその考えに賛同した。
真奈は先に昇降口から入って左に進む。
僕は必然的に右側から進んだ。
もう夕暮れに差し掛かっていて廃校ということもあってかなかなか見えない場所がある。
僕はスマホの電源を入れライトの機能をオンにした。
「ゲホゲホ」
分かってはいたが明るさでより埃が鮮明に見える。
とんでもないホコリの数に目が痒くなるのを感じた。
端の方からある程度見て回ってみたが思いのほか手がかりになるようなものは見つからない。
そうしていると2階に上がって中央付近で真奈が待っていた。
「おそーい!」
少し怒ったようなポーズをとっている。
「ごめん」
とりあえず謝ってはみるがそんなに時間を使っていた感じはしなかった。
「ちゃんとみたの?」
「見たって! もう疑り深いんだから」
真奈はそういってスマホの電源を入れ写真フォルダの写真を見せてくる。
「送ってあげるからID教えて」
「そう言えば交換してなかったね」
「そうだよー、だから教えて!」
「う、うん」
僕は真奈とスムーズに交換を済ますと早速写真が送られてきた。
僕も一応部屋の中と通路の写真は撮っておいたのでこれで自宅に戻っても確認ができると少し満足した。
結局僕たちはもう日も落ちてきたこともありそれぞれ自宅へと戻っていった。
僕は寝不足だった。
それは昨日の話だ。
連絡先を交換した真奈から時間問わず電話が鳴り響いてくるのだ。
莉央ちゃんの連絡に備え常に通知が来るように設定していたのでものすごくうるさく明け方までよく寝付けなかった。
ベッドからゆっくりと体を起こすとすぐに洗面所に向かった。
鏡に映る自分の顔を確認して歯磨きをする。
ボサボサの自分の髪を磨きながら整えているとスマホが鳴った。
僕は通知の確認をし、真奈だと確認すると通話を切る。
「これからこんなのが続くのか」
1人そうぽつりと呟いて支度をした。
学校が終わると僕は早速昨日の学校での調査に向かうために足早に校門に向かった。
校門から体を出すのとほぼ同じタイミングで力強く体を引っ張られる。
僕は驚いて体勢を崩してしまいそのまま引っ張った人物にもたれかかった。
その人物はとても華奢で僕の体重なんて支えられずにどんどん沈んでいく。
「おお、重いって!!」
僕はその悲鳴を合図に必死に体を起こした。
それが女性の声で聞き覚えのある声だからだ。
「こんなところで何してるんですか?」
僕はそう言って彼女の体を引っ張る。
「まずは謝るー」
「すみません、ところで何してるの?」
「もう、恋人の事待ってたんじゃん!」
「あー、なるほど。ごめん、今日は先にしたいことが」
「分かってるって、ついてきて!」
僕は流されるままに真奈の後をついていく。
どこに連れて行かれるかはわからなかったが、おそらく聞いても答えてはくれないだろう。
真奈は僕を連れて真奈の学校の近くのカラオケボックスへやってきた。
そこで慣れた様子で入店準備をおえ、部屋を借りる。
僕はというと流されるままについていってしまった。
真奈は僕を毎回の如く引っ張り部屋まで案内された。
「ちょっと待っててね、何がいい?」
「何って?」
「カラオケ来たことないのー?」
僕はあまりこういった場所には来たことがなかったのでなんのことを言っているのか理解できなかった。
「ジュースだよ、カラオケだと飲み放題で自分でとってくるっていうシステムなの」
「じゃあ僕がいってくるよ」
「いいって、純はそこで休んでなさい!」
真奈は力強くそういってすごい勢いで部屋から出た。
僕はというと初めてのカラオケボックスに少し興味を持ってしまい部屋の中を捜索し始めていた。
部屋は小さく人が2人もいれば少し窮屈に感じるくらいの大きさだった。
マイクは2つで大きなモニターが1つに小さなモニターが2つ。
僕たちが2人だから2人用の部屋に案内してくれたのだろうかすごく用意がいいと思った。
「おまたせ!」
僕がそんなふうに色々と考えていると真奈が帰ってきていて足を器用に作って扉を開けていた。
「はい、適当に持ってきたよー」
「紅茶でいい?」
「うん、ありがとう」
「いいってー。私も好きだからきっと好きかなって持ってきただけだし」
なんとなく彼女は結構自分勝手なふりをしてかなり優しいと思う。
勝手な誤解かもしれないけど。
「さあて、それじゃ歌おうか」
「知ってる曲なんて全然ないんだ」
「いいよいいよー、好きなの歌いなよ。私、純が歌う曲に興味あるし先入れて」
「うーん、わかったよ」
僕は観念して昔観た映画の主題歌を入れた。
画面に表示されてるタイトルから知っているタイトルだったのかかなり明るめの表情をして、僕の歌声に合わせて上手いことデュエットしてきた。
僕もついついノッてしまい、気分よく歌えた。
その後はもちろん彼女の歌う歌なんて全くわからなかったがなんだかんだ僕自身は楽しめた。
カラオケの時間が終わり次はハーバーガーチェーン店に連れて行かれる。
真奈が次々と注文をして店員からすぐに料理が渡される。
「はい、もって!」
僕は真奈に渡された注文の商品の乗っているトレーを代わりに持ち席に向かった。
席に座ると真奈は頼んだチョコレートのジュースを飲み、僕はここでも紅茶を飲んだ。
「ね、あのカラオケで最初に歌ってた映画見たの?」
「見たよ、小さい頃何回も」
「私も」
「特に主人公の友達が好きなんだ」
「いいよね、なんかすごく友達思いなのに自分のことは諦めてる感じ」
「うん、それが好きなんだ」
僕が急に静かにそういうから真奈は少しチョコジュースを飲んで僕に聞いてきた。
「それって戸上さんみたいだから?」
僕は少し戸惑ってしまったがすぐに向き直って答えた。
「うん」
そうなんだ。
僕は昔から他人のことを心配する人が好きなんだ。
だがそれはどっちが先かはわからないままだし多分どっちが先かなんてことはどうでもいいんだろう。
「好きなんだね」
それは質問ではないと思う。
多分本当に口から漏らしたものだ。
僕は何も反応しない。
「あーあ、でも今は私の彼氏だからね。そこんところ忘れないで」
「うん、わかってるよ。僕は君の彼女だ」
正直真奈といるのは意外と楽しい。
それは間違いない。
だから今の関係も悪くないと思っている自分がいた。
だがそれはきっと恋愛感情ではない。
いつかそれが変わっていくものなのか。
それすらも僕には経験がなくて分からない。
この感情も心の音も僕は自分の中にしまい込んで真奈に向き直った。
「次はどこにいくの?」
この時間を少しでも楽しみたくて考えるのをやめた。
僕はそれからしばらくの間真奈と色々なことをした。一緒にちょっとしたテーマパークにも行ったし、水族館にも行った。
もちろん調査の方も忘れていないし、真奈に手伝ってもらってたびたび新しい莉央ちゃんの絵を撮って送ってもらっていた。
それでも意外と彼女との日々は楽しく、遊んでいる時間がすこしずつ多くなっていった。
そんなある日僕たち2人はカラオケに行った。
時間が来たのとそろそろ家に帰って情報の整理をしようと考えて帰宅を提案する。
真奈は嫌がったがそれでも僕は頑なに拒んでバックに手をかけた。
カラオケボックスからでると流石に陽が落ちるのが早くなってきていてカラスの声がよく響く空になっていた。
僕は真奈に振り返って今日のお礼を言おうとした。
すると真奈が僕の裾を横に揺さぶった。
僕は最初真奈が何かしたいのか分からなかったがすこし経ってその意図に気づいて後ろを振り向く。
僕は固まってしまっていた。
すぐ近くには莉央ちゃんが立っていたからだ。
僕は理由もなく動けない。
自分でもなぜ今動けないのか考えてしまっていたが僕はそれよりも声をかけようと必死に喉から音を絞り出す。
「莉央ちゃん、久しぶり」
精一杯出した僕の声に莉央ちゃんはびっくりする様子もなく邪魔だと言わんばかりに僕を無視した。
僕はそれに対して振り向くことも追いかけることもできず身体中の血液が冷たく沸騰しているのを感じた。
体が動かない。
エネルギーが全て体温を戻すことに集中してしまっているようで僕は真っ白になった頭に血が巡ってくるのを感じてようやくある程度の自由を感じられた。
それでもまだ僕の頭の中の思考が言葉になることはなくただひたすらに色々な感情と思考が止まることなく頭の中をすごい勢いで駆け回る。
真奈が僕に言った。
「不味いところ見られちゃった?」
彼女のちょっと明るい声音が僕の思考を引っ張っていきそれに応えようと一度他の事を頭の後ろの方へと追いやることに成功させた。
「そうかも…」
僕のその発言に彼女はまたも明るく言った。
「それじゃ追いかけないとダメだよね」
「うん。でも体が動かない」
「仕方ないな、それじゃ私がそのチャンスをまた後で作ってあげるから」
真奈は僕に笑顔でそう言ったあと動かない僕に体をくっつけて言う。
「動けないなら私の体温もあげるよ。立ち上がれないなら私が支えてあげるし、手を取らないなら私が純と戸上さんの手を握って繋げてあげるよ。だからさ純は私にもっと頼っていいよ」
僕は彼女のその暖かさを感じた事があった。
それは僕が母からもらってきた物で僕が戸上さんに与えようとしたきた物だった。
「ありがとう。真奈」
僕は真奈の顔をしっかりとは見れなかったけど彼女に対していつかしっかりとお礼を言いたいし、もっと彼女の顔を見て話そうと決めた。
僕たちはそれからそれぞれ帰った。
真奈は本当についてなくていいのかとかなり心配していたが僕は断った。
僕は自分の顔をあまりられたくなかった。
僕はその日家に帰ると夕飯の準備をすることもなくただベットに横たわる。
目を閉じると今日の出来事がすごく鮮明に瞼の裏に映し出される。
そこで僕は冷静になるために一度考えることにした。
なんで莉央ちゃんに見られた時あんなに動揺したのか。
なんで真奈にああ言われた時心から落ち着いたのか。
莉央ちゃんに見られたとき僕の中にあったのは焦りだった。
だけどなぜ焦ったのかを考えた。
わからなかった。
ただあの時1番最初に僕は焦ったのだ。
僕は答えをが見つけられなかったので続いて真奈によってもたらされたあの安心感について考えた。
実はしっかりと考えるまでもなく答えはなんとなくだか分かっていた。
あれは愛情だ。
それこそがあの安心感の正体なのだ。
僕はそれに気づいてすこし深く考えてみた。
僕が母親からそれをもらっていたのは分かる。
それは母親だからだ。
何を言ってるのかわからないがそうであって欲しいと言う願望も入ってはいると思うが多分そうだ。
そして僕が莉央ちゃんにそれを与えるのは好きだからだ、愛しているし尊敬している。
僕は彼女のその行動や思考それら全てが好きなのだ。
それなら真奈の僕に対してのそれは愛情になる。
僕はそこまで考えて勝手に納得した。
そう理解したら急に真奈の顔が浮かんだ。
色々と僕は彼女のことを誤解していたのだと気づいた。
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