第5話
「お兄さん、何してるの?」
「いや、大丈夫。」
この町でぼうっと突っ立っていると、よく声をかけられる。
歩いていれば何も言われないから、僕は歩き始めた。
「どこ行くの?」
「ちょっと近くまで、買い物があって。」
「そう。」
僕はそう言って、車に乗った。
「…やばいな。」
「やばいよ。」
一人で呟いてみる、しかし反響は無い。
ここは一人きりになれる、貴重な場所だった。
僕はすべてを見てきていた。
何も目に入らないようにはせず、全てを見ていた。
すべてを見ることによって、ただ絶望したかったから。
僕はすべてを覚えていた、しかしそれを伝えられる人間が一人もいない。
あれからどれくらいの時間がたったのか、正直分からない。
考えても、答えが浮かばなかった。
数えるにはあまりにも時間が長すぎて、その意味をすでに失ってしまっていたから。
「分かったよ、分かったから。」
誰かに言いたいけれど、みな同じ生き物だっていうのに、そのはずなのに、誰にも伝わらない。
共有できないというもどかしさがぼくを支配している。
嫌で、嫌でたまらないのに叫べない。
どうしよう、どうすればいいのだろうか。
何か正直、全部どうでもいい。
私はただ適当に、遊んでいた。
しかし、あいつは化け物だ。
なぜあの化け物が誕生してしまったのか、それは分からない。
そういうバグは、たまに発生してしまうものだけど、厄介すぎる。
だって、私が手を加えようとしているのに、あの男は従わない。従わせることができない。これは、何でなのって、ずっと考えている。
「なあ。」
「…え?」
「お前、何してんの?そんなに一人で嘆いてたって意味ないだろ?」
「…は?仕方ないじゃないか。僕は、もう誰も、誰とも違ってしまっていて、話ができないんだ。それなのに、死ぬことがない。これは何なんだ?」
「ああ、お前は確かに死なない。でもな、私も死なない。」
「君も?」
君、か。
馬鹿らしい呼び方だな、と思った。しかし仕方ないか、私の見た目はとても幼い。まだ、人間だと10歳くらいなのかもしれない。
しかし私はそこから大きくなることは決してない、私は一度、そこで。
「そう、だからもう平気だろ?一緒に行こうぜ。」
「待ってよ、何が何だか。」
「いいだろ?何でも、私もそうなんだ。だから、行くんだ。」
「………。」
そして、男は黙って私の後についてくるようになった。
私は、これを服従と呼んでいいのだろうか、私は、私はだって。
私はだって、一度死んでいた。
そして蘇った、というのだろうか。
記憶を残したまま、なぜか呼吸をしていた。動いていた、感覚があった、これは完全に生きているからだと確信した。
だが、本当は私だって何一つ分かっていない。
答えは、まだ見えないから。
ふふふ @rabbit090
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