第4話

 「退屈、だな。」

 聞いたことがないような、複雑な音だった。

 僕は、何をしているのだろうか、それもよく分からない。

 ただ、見えていた。目の前には確かに人がいて、何かを話している。しかし、妙な浮遊感が体にまとわりついていて、奇妙だった。

 「ああ、だけどまた、探すしかないよな。」

 「…分かっているけど、私達はいったい、どうしてしまったのだろうな。」

 「仕方ないさ。退屈だから、こうやって獲物を探しているんだ。」

 「それ、本当は変だって、もう誰も気づいていないんだ。」

 「何だよ。それ。」

 「…いや、ならいいんだ。」

 話が通じない、という顔で一人の男が笑い、もう一人の男はただただ不思議そうな顔をしている。

 何だろう、こいつらはいったい何なのだろう。

 

 今日は遅刻をした。

 ああ、一日中こき使われるのは分かっているのに、睡眠すらロクに取れなかった。

 嫌だ、とか思っているのに、僕は瞼をこすりながら目を伏せた。

 「お前、何してるんだ。」

 「…すみません。」

 というと、周りからは冷たい視線が飛んでくる。

 僕が何をしたというのだろうか、って思いたいところだけど、遅刻したんだし、仕方が無い。

 はあ、ため息をついて作業に従事した。

 もうこの頃は、話しができる人間すらいなくなっていた。

 なぜなら、みな意思を持たなくなったのだ。

 意思、がないから疎通ができない。

 「時間迫ってるからな、急げよ。」

 と、人間の言葉で話しているのは、宇宙人だ。

 だが、奇妙なことに彼らの中にももうこの星の住人だと思い込んでいて、自分が宇宙人であることすら忘れている人間がいる。

 というか、消されている人間がいる。

 僕は、それが日常になった現実が恐ろしくて、前を向くことができなくなってしまった。というか、そもそも僕は奴らに目を付けられることがない。

 なぜかは分からないが、僕がもともと星の住人であったことは関係しているのだろう。

 「不機嫌で悪かったな。」

 「いいや、別に。」

 そして唯一、会話ができるのは記憶を失いかけている宇宙人だった。

 彼は、たもつという。

 「お前、また忘れたの?」

 「ああごめん、この前なんていろんな人間の名前を忘れてさ、でも不便しないんだ。なぜなんだろうな。」

 「…さあ。」

 僕は、保にも何を話すかを考えながらしゃべっている。

 今、何が起きているのかは分からない。

 だけど僕は、毎日が恐ろしくて、たまらなかった。

 「じゃあ、仕事急ぎだから。」

 「分かった、頑張れよ。」

 「ああ、ありがとう。」

 保は良い奴だった、だけど僕はまだ、分からない。

 何が必要なのかが分かっていない。

 今は、何なのだろう。絶望に近い感触が、少し肌に触れている。

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