この世で最も恥ずかしいことは自分語り1

「小説はあなた以外の人が読むもの」

「小説は必ず終わらせなくてはならない」


 この二つを意識しながら書くことは、まずお分かりいただけたと思います。


 もうひとつ付け加えるのならば、


「書くのはあなたです。つまり、作品にはどれだけ消してもあなたの考え、そして限界が出ます」

 他人はわからなくても、自分ではわかる。そこで人は諦める。

 少しづつ、限界を広げていくしかありません。できなかったことが、突然できてしまうことがあるように。


 さて、ではここから実践編です、と言いたいところなんですが、少しだけ(多分)自分のことを話します。人間って自分を語りたがる生き物です。0時過ぎた飲み屋で注意深く聞いていると、ほぼそれしか語られていない(笑)。

 SNSでの映画や漫画の批評めいた感想は、ほぼ「わたしはこういう人間です」の表明でしかない。もちろん自分とセンスが同じ人や好きなインフルエンサーの好き嫌いは参考になるかもしれませんが。

 ひとまずの紆余曲折を書いておくことで、それ以降の実践編も、面白くなる(真実味がある、ではない)のかもしれないので、恥を連ねてみます。

 というか、「こんな偉そうに書いてるやつ、何様なんだ?」と思っているでしょうから。


 物語でやたらみんな回想をしようとしますよね。必要以上に。でも、実は読者は人物の暗い過去ってあまり興味ないのです。主人公の見ている先が知りたいのです。だから必要最小限でいい。

 トラウマをいくら書いたところで、「ふーん」です。

 過去のことばっかりくどくど言ってるやつにろくなもんはいません。飲酒しているならともかく、しらふで。そんな中高年に絶対にみなさんならないで!

 そうそう、「誰々さんと友達」「親戚が誰々」もだいたいしょうもない。だからどうした。誰々さんが偉いのであって、お前は偉くない(笑)。

 筆が滑りました。←そういうのダメって言ってるのにね!

 ですが「あえて」します。これから最も恥ずかしい行為をします。「読む必要ねえな」と思ったら飛ばしてください。


https://kakuyomu.jp/works/16817330662819866441/episodes/16817330663364383243


ここから実践編です。


 僕は関西の芸術大学文芸コースを卒業しました。

 高校を卒業してすぐ、ではありません。本は読んでいましたが、とにかく物語が好きだった。なので日芸の文芸と演劇を受けたのですが、思い切り落ちました。

 日芸に憧れていたんです。尊敬する吉本ばななさんや、三谷幸喜に爆笑問題にと活躍している卒業生が大勢いるし。早稲田の一文という選択肢は偏差値的に無理でした。現役のとき記念受験したけどさっぱりで、入試帰りに購買で自分へのおみやげにシャーペンを買った記憶が。


 浪人時代、ある小説が舞台化されるというので、十代としてはかなり高額なチケットを購入し、銀座まで(!)観に行きました。

 舞台を観終わって呆然としました。こんな楽しいものがあるのか、と。泣いてたし、興奮し過ぎて二時間かけて歩いて帰りました。これは、パンフレットを買ってしまい、電車賃がなくなったからでもあるんですが。

 その時自分は、「もしや舞台の世界に足踏み込めば、『物語』の世界でそのあいだだけでも生きることができるのではないか」と非常に十代らしいロマンティックなことを考えました。演劇ワークショップや劇団の養成所に入所したとき、そんな人まったくいなかったけど。

 浪人して、ひとまず某大学の日本文学科に籍を置きつつ、サークルではなく、あくまで本格的な場所で演劇を学ぼう、と授業も受けもしないで、舞台のチケットと養成所に入るための資金を貯めるべくバイトをしていました、本屋で(←あっ!)。

 ほぼ小説や戯曲を読む、舞台を観る、バイトするしか二十代前半はしていませんでした。自分がどんな物語、そして舞台が好きなのか、をきちんと見極めなくては、と思ったのです。

 舞台に出られたらなんでもいい、なんて思いませんでした。僕の好きな物語で生きたいのが望みなのですから。


 そこでわかったのは、

 ・蜷川幸雄の演出舞台に立ちたい(初めて観た舞台も蜷川さんの作品でした)。

 ・野田秀樹や松尾スズキ・宮藤官九郎の舞台に立ちたい(当時大人気だったし、やはり他と格が違う)

 ・しかし上質な古典作品にも出たい(文学少年なもんで)

 ・小劇場の前衛的かつ演劇とはなにか、を突き詰めている作品に出たい(当時だったら松田正隆、平田オリザ、岩松了、宮沢章夫といった、「なにを上演するか」より「どう上演するか」を考え抜いている人々)


 でした。(自分の好き嫌い、やりたいジャンルを見極めるのが初めにするべきことです)

 それらを叶えるためには、

 ・整形してイケメンになってタレントになる

 ・老舗の有名な劇団員になる

 ことでオーディションやワークショップの手がかりをつかむこと、と思ったのです。


 老舗劇団、俗にいう新劇をやっている集団をとにかくたくさん観ました。興味のない演目だろうと、がむしゃらに。それぞれにカラーがある。年間ラインナップも確認し、劇団員が、外部でどんな仕事をしているかを確認しました。

 文学座が一番飛び抜けて自分好みである、とわかりました。演目も新旧おりまぜているし、劇団員は外部出演や映像作品、吹き替え(海外ドラマとか! ジブリとか!)の仕事も多い。

 なにより、蜷川作品に出ている人がいる。

 しかし文学座は名門中の名門です。松田優作に岸田今日子に樹木希林に寺島しのぶと卒業生はビッグネームばかり、劇団員も江守徹に渡辺徹、内野聖陽(当時)と強すぎる……。そもそも伝説の杉村春子さんのいた劇団である。

 受験しては落ちるを繰り返しながら、演劇ワークショップや、知り合いになった市民劇団の公演、友人の芝居に出演しながら、まずは試験突破して潜入できるだけの力を養おうとしました。

 ありのままの自分では受からない。顔も演技も人並み以下だし。とにかくやれることをやるしかない。

 そんなんじゃあ大学なんて通えないし若者らしい恋愛とか遊びなんてできないよ! まあ私の人生暗かった(笑)

 普通文学座なんて受かるわけないから、適当な誰でも入れるところに行けばいい、と思うところでしょうが、僕は少年漫画で育っているもので、へんなところでガッツがあるのです。

 昔から根性と負けん気と執念深さだけはみんなに褒められます。だいたい嫌味として言われるんですけど。

 ついに三年目に、合格して晴れて研究生として通うことができました。

(つづく)

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