ストーリーを通して、主人公は変化していますか?
さきほど、背筋さんの『近畿地方のある場所について』の書籍版を一気に読んでしまいました。読み終えて呆然としてから、はたと、Web版ってあの箇所、どうなってるんだろ? と思わずカクヨム確認してしまったり。なるほど。書籍版のほうは、作中の凝ったデザイン、しかも巻末袋とじまである! ので、やはりこれは本を買うのをおすすめします。でもWebの臨場感も捨て難いな〜!
話は180度変わるのですが、いや、変わらないのか? 小説を一冊読んで、「いやあ面白かった!」と本を閉じるのは、さまざまな快楽溢れる現代で、一二を争うものだと思います。僕が小説が大好きすぎるからですか? 松岡圭祐さんの小説指南書では日本で小説を読む人間は××万人くらい(ご確認ください)と書いてあったから、一億以上人口はいまのところいるのに、それだけしかいないなんて、言うなれば知る人ぞ知る禁断の楽しみなのかもしれません。カクヨムの登録者、百万人超えているっていうけど本当なのだろうか。でもその××万人以上の人が読む作品もあるからなあ。ただ、ほとんどの人は「あーたのしかった!」でおしまいなのか。逆に日常的に読書をしている人っていうのは中毒患者なのかもしれません。そう考えるとSNSで読書報告するという行為も、わからないでもないか。読書って、特別なことなのかも。よく行く飲み屋のおやじが、「客を全員アル中にすれば店は儲かる」って言っていたので、書き手としてはとにかく読書中毒者を増やしたいところです。
基本、僕は小説は、義務教育で受けた国語と、読書を繰り返していれば、小説(あるいはらしいもの)は誰だって書けると思っています。頭が柔軟で(凝り固まっているといけません。一番の敵は自分の勝手な思い込みです)、形式を頭でなく身体でわかってさえいれば。
形式とは起承転結のことではありません。もっとシンプルに、「始めと終わりで変化しているもの」ということがわかってさえいれば。
これまでのエッセイで、さりげなく(?)、「小説は最後まで書かないといけない」「自分以外の人が読むものだ」とあなたの潜在意識に訴えかけてきたのですが……どうでしょうか。いや、ストレートすぎですか、そうですか。
小説を書くっていうのは根気のいる作業です。即興的なワークショップはあくまでそれぞれの個性を引き出すため、長い文章を書くための練習やアイデアを生み出すもの。そこで才能ある・ないは誰もジャッジできません。そもそも僕にはそんな資格はない。ただ、面白いか面白くないかはわかるつもりです。だいたいの小説はどこか面白い、いいところがあるので、「面白くない」と断じることはほぼないですけど。評価するとしたら、たくさん面白い部分がある、かも。背筋さんの小説のように!
小説を読み終わってなにが面白かったでしょうか。
人物が冒頭では考えられなかった環境・事件に巻き込まれ、最終的に(いちおうの)解決をするのがあらすじとなります。
読み手は、語り手とシンクロし、その場にいるような気持ちで読み進める。
奇抜なアイデア、事件を考える。主人公が追い詰められる、そこにはらはらどきどきする。絶対に解決できないことが、なんと……! みたいに。そこに読者は興奮します。
「いやあ、面白かった。戦闘シーンも臨場感あったし、恋愛もあるし、あのキャラ推せるわ〜!」
そんなふうに思わせたら最高ですよね。でも、実はもっと、我々が、当たり前すぎて忘れかけている、言語化しない部分に、人は感動します。それは、「変化」です。読者は人物の気持ちの変化を、知らぬ間に感じ取っているのです。
入り口(小説の冒頭)では暗かったのに、出口(ラスト)を出たら、同じ風景が、読む前とは見えかたが違った。
そんなふうに思わせるためには、主人公の世の中の見方が変わっていることが必要不可欠です。成長、と言ってもいいでしょう。
出来事を通して、主人公のものの捉え方が変わった。実生活でもよくあることです。
「全然みんなバラバラの最悪なクラスだったんだけど、文化祭で一致団結して、出し物は大成功を収めた」
「初めての海外旅行でさまざまな事件に巻き込まれてなんとか帰国。なんか自分、図太くなった気がする」
しばらくしたら元通りになってしまうかもしれないけれど、でも、直後はたしかに気持ちが変化していますよね。昂揚している。
いつまでたってもだらだらと説明が続いたり、まったく伏線でもない会話が続くと、書いているほうも読んでいるほうも飽きてきます。人は「日常パート」なんてうそぶくかもしれませんが、そもそも小説はほぼ「非日常」です。あるいは「日常は実はスリリング」です。なにも事件がない、主人公が成長しない作品、はある意味で作者が戦略的に考えているのならともかく、筆がすべって漫然と描くものではありません。ただの文字数稼ぎです。
萌え系四コマ漫画だって、そこにちょっとした謎や理不尽、それに対するリアクションがありますよね。つまり小さな事件を繰り返して、キャラの魅力を描いています。
短編でも長編でも同じことですが、主人公の気持ちの変化こそが、人の心も動かす。
「何も変わらなかった・びくともしなかった」はアンチクライマックスとして書くのなら悪くないですが、そのためには作中で、とてつもない事件や出来事がなければうまく活かされないでしょう。別に人を殺さないでもいいですけど、主人公がどん底まで落ちて這い上がったのならば、その終わりも面白い。
主人公を甘やかさず、窮地に陥れてください。あなたの主人公の人生観を変えることは、作者の使命です。ただ甘やかしていても、魅力なんて伝わりません。
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