この世で最も恥ずかしいことは自分語り2
ただ漫然と昔のことを書くことほどダサいことはないので、あくまで小説の役に立ちそうな部分も織り交ぜているのですが、大丈夫でしょうか。不安になってきました。
文学座に潜入できたものの、もうついていくのに精一杯、月〜土まで授業、セリフ覚えなくちゃいけないし、3回ある発表会で爪痕残さなくてはならない、と。
こう書くとまさに自分が望んだ物語(という少年漫画)の世界に突入! といいたいところですが、わりと毎晩飲んでた(笑)。仲が良かったんですね。でもま、先生方から「そんなじゃダメ」とか言われていたんだけど。仲間になるべきで、友達みたいな関係性はきっとよくなかった。あとそれぞれが勝手な方向を突っ走っていた。
そこで学んだことのいくつか、つまり自分が役を演じるということを通して、物語について深く理解・解釈ができたように思います。
ある先生がおっしゃった「美しい誤読」という言葉が忘れられません。自作でも使わせていただきました。100 %理解することはできない、それぞれ解釈が違う、だからこそ、「こんな解釈もありだよね」そんなふうに考えていく。小津安二郎も言っていましたが、泣きたい時に人は泣いているとは限らない。笑っていても泣いていることはある。セリフを額面通りに解釈しない。裏では人はなにを考えているかわからない。
これは自分もセリフを書くときいつも心がけていることです。
僕のセリフは独特、と以前ある作家さんにおっしゃっていただきました。多分演劇の影響でしょう。テンポや駆け引きを作ったり、どうでもいいことを言っているようであとで伏線として回収されたり、とかなり意識してやっています。
セリフのやり取りで、関係性や場の雰囲気を作ることができる。そんなことも学んだと思います。
キャラクター作りに関しても、演劇で学びました。自分で演じるために、その役になる・近づくためにどうするか。自分と似ている部分。似ていない部分を見極める。自分も近づきつつ、役柄も近づけていくという作業は、キャラクターがわからなくなったり、破綻しそうになることを避ける、そして自由に遊ばせる余裕ができたと思います。突飛な行動を人物が起こしたとしても、必然性や、そう至るなにかがあれば大丈夫。
大沢在昌さんが、キャタクターは劇団員、といったことをおっしゃっていました。大沢さんのなかにそういう人物のストックがある、と。わかりやすく言えば、手塚治虫さんの漫画で、似た(というかほぼ造形が同じ)キャラクターが出てきますよね。手塚さんもスターシステム的なことをされていた。
僕も何人かいます。
『熊本くんの本棚』(富士見L文庫)の熊本くんは、『京都東山「お悩み相談」人力車』(PHP文芸文庫)の〜とか。
みのりちゃんは『早番にまわしとけ』(KADOKAWA)では〜とか。
彼らは僕と違って優秀な役者なので、僕の指示、そしてそれを超える演技を見せてくれます(笑)。
文学座での楽しい時間は、僕が研修生になれなかったことで残念ながら続きませんでした。それでも文学座で教わった先生の演出舞台に出させていただいたり、某芸能事務所に潜入してみたり(これは大変面白い経験でした)と足掻いてみたのですが、これは無理だ。僕は才能がない、とぽっかりと舞台出演が空き、漫然とバイトをしているときに悟ります。それはレジに立っている時でした。せっかくだし、自分のやりたい舞台をしたいとこつこつ貯めておいたお金はありました。それを最後に、辞めようかな、さてどうしよう。大学も中退してしまったし。その間も、やはり小説を毎日読んでいました。
出版社で編集とかできないかな、やっぱ卒業してないとなあ、アルバイトで潜入できないかな、などなど考えているときです。ちょうど美術家の大竹伸朗さんの展示を観に清澄白河まで行ったときです。
美術展のチラシのなかから、「来年度より文芸コースの開校が決定しました」と書かれていいるものを発見しました。
京都の芸大です。
何の気なしに持ち帰り、カバンのなかに入れっぱなしにしていました。しばらくしてかばんを買い換え、荷物を移し替えようとしているとき、そこにくしゃくしゃになった紙を捨てようと思ったときです。
「大学か」
いま自分は、入学金を支払えるくらいの金がある。そして、新しいことにチャレンジしたいと思っている。いや文章を書くことは新しいものではないけれど、中学高校となぜか作文はやたら褒められ、一度調子に乗って小説を書いて賞に送ったこともある。さっぱりだったけど。
しかし、あの頃とは違う。中学から深夜ラジオにはまり、毎日のようにネタハガキを送っていたし、入った芸能事務所でなぜかコントをやって大ウケして、毎週ネタを書く、なんてことにもなった。
小学生の時に宗田理さんの小説を読んで以来、ずっと毎日一冊は本を読んできた。
書けるかもしれない。
だめだとしてもライターになって、自分が面白いと思ったものを紹介できる人になったなら。小説や演劇映画なら。
大学の入学案内を取り寄せることにしました。(つづく)
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