第11話

 長い月日の中で卵は鳥となり知らない世界へ旅立つ


 それを何度も見ていた

 歌姫との出会いを思い出しては

 その記憶は泡となって消えてしまう


 声だけは忘れぬように

 音だけは流し続けた

 顔も忘れ、景色も忘れた


 それでもあの美しき唄声だけを頼りに

 日々を紡いでいた


 世界中を旅し声を求め続けた

 されどどこにも求めていたものは見つからなかった


 涙を流す感動はあっても

 心を震わせる畏怖は現れない

 女神と見紛う彼女の声だけを人生を賭けて探した


 雪が降る季節を通り抜け

 冬を求める季節が訪れる

 そしてまた同じ景色がやって来た


 いつしか耄碌した体を見下ろし

 諦められぬ闘志を燃やしながら

 夢を探し続けた

 

 やっとあの声が現れてくれたとき

 それは己の身体が朽ちるときで

 幾年も育てた花々に囲まれて

 一人この世を去りゆく

 幼い少女がただ一つの心残り

 

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妖精の裁判官 高崎 朧 @kemon

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