渇いて、
ㅤ蝉が死んでいた。
ㅤかつて飼ったことがある蝉のことを思い出した。本当はカブトムシを飼いたかったのだけれど、親は虫が嫌いだったので、仕方なく公園の木にとまっている蝉を捕まえて外で飼っていた。生き物の育てかたなど知らぬから、それはすぐに餓死してしまって、私はわんわんと泣いた。お前が殺したのにね。
何をしてもしなくても涙が出るので、そんな昔の喪失の記憶すら引き金になる。ぼたぼたとこぼれる涙で蝉の死骸が溺れる。
ㅤ君が死んだ。先に死ぬのは私の方だと思っていた。ここ最近、もうずっと、私は何にかまけていたのだろうか。君との思い出が遠い。遠い記憶を手繰り寄せて思い出の手触りを確かめてみても君はもういない。
ㅤもうずっと何も口にしていなくてだから君の肉も喉を通るまでに時間がかかる。
君が、君と、一緒に、まだ何もかもを見ていたいので一緒にいよう。肉は胃に重く吐き出さないように水を飲んで。私の中で君が溺れて。
ㅤようやっと、私は、安心して、今日は眠れるのだろう。
短いの 伊予葛 @utubokazura
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