第4話 霧の正体は身近なふたり

 これはれおながユマに相談を持ちかけた際の話の全容である――


「でさ、私……監督に言われちゃったわけ。男ひとりぐらい騙せないと女優業は務まらないって」


「わたしも監督さんの意見に同感かな。悪い嘘をつくのはダメだけど、好きな人をドキっとさせる嘘だったり、騙されてよかったと思う嘘はどんどんついていくべきだと思うよ。その方が大好きな人にも飽きられないとも思うし」


「ユマって妄想家のくせに現実的よね? 今回の私の役はストーカー行為に困ってる女の子なんだけど、それを防ごうと主人公が奮闘するシーンがあるわけ。まあ、私はこの通り美人だから、ストーカーの一人や二人いても不思議じゃないんだけど、実際にそんな目に遭うことってそうないじゃない?」


「まあ、ファンにストーカーされても先手を打っちゃうもんね、わたしたちの場合」


「そうそう。ストーカーぐらい撃退できなきゃトップアイドルは務まらないってマオさんもよく言ってるし。当時のユマのやり方には未だに賛同できないけど」


「わたしは理解してもらうために、ちょっと過激なやり方をしてるだけだよ」


「まあ、そうね。そういうのも、時には必要かもね。でさ、話を戻すんだけど。ストーカー被害に遭ってるってそれっぽい相談を進にして、進をその気にさせることができたら、私の演技力も捨てたもんじゃないって証明になると思うんだけど。これってやっぱり、ユマ的にはナシだったりする?」


「うーん。進くんを困らせて欲しくはないけど、れおなの役作りに協力して欲しいって気持ちもすっごく伝わってくるんだよね。そもそもそれって、わたしがどうこう言う問題じゃなくて、ネタ晴らしをしたときに進くんがどんな反応をするか、が大事になってきそうじゃない?」


「つまり……進次第ってことね」


「そういうこと。れおなのカレシ役を引き受けてもらえるようわたしからも進くんにお願いしてみるけど、そこんとこはれおなが自分でなんとかしなくちゃね」


「ネタ晴らし……したら、やっぱり進は怒るかしら?」


「その時はわたしも一緒に謝ってあげるよ。進くんは優しいから、きっと許してくれると思うよ。むしろ何もなくてよかったって、安心するんじゃない? そもそもれおなに演技の才能がなかったら、あっさりバレちゃうだろうし、どう転んでもやっぱりれおな次第だと思うよ」


「なんか、ユマちょっと余裕こいてない? 私の演技が進に刺さりすぎて、本当の彼氏彼女にでもなったら、ユマ的には大問題だと思うんですけど?」


「それはないよ。だって進くんはれおなに興味ないからね。わたしにしか興味ないの。だかられおながどんなに健気なカノジョを装っても、進くんは見向きもしないよ」


「ふふーん、いいんだ。じゃあ本気になっていいんだ。進をその気にさせちゃっても、ユマ的には問題ないってことね」


「ふふっ。まあ、がんばってみてよ」


「この際だし、ユマは親友だからいっておくけど、私だって、進のこといいと思ってたんだからね。本気でアプローチするから」


「だから大丈夫だって。進くんがれおなのこと好きになっても、五日あればまたわたしのところに帰ってくるから」


「ユマって自信家よね。さすがはアイドル界のナンバーワンセンターって呼ばれてただけあるわ」


「れおなだって自信家でしょ」


「ねえ、ユマ。本当にいいの? 進のこと、私がとっちゃっても」


「れおなもいいの? 本気になっちゃったら失恋したときに辛いよ?」


「い、いってくれるじゃない。今回は私にも秘策があるのよ」


「ふーん。それは楽しみだね」


「ほんとにほんとにほんとに、進のこと、とっちゃうからね?」


「うんうん。頑張ってね」


「ユマ、あなたそれでも進の恋人なわけ? ちょっとはこう、危機感っていうか、そういうのはないの?」


「わかってないなぁ、れおなは。恋人だから進くんのことを信じてるんだよ」


「ユマって本当にいい性格してるわよね……ま、私はあなたのそういうところが好きなんだけど」


「れおなもいい性格してるよね。なんかスタ女のときも、こんなやりとりしてた気がする。なつかしいなぁ」


「アイドルとしては……私は結局、ユマに勝てなかったけど。恋愛は負けないんだから」


「わたしも負けないよ。わたしと進くんの愛は本物だから」


「んじゃさ、進と一緒にいるタイミングで連絡してくれない? あいつ私が連絡送っても、三日に二回しか既読つけてくれないのよね。それで結局は家に押しかけちゃうんだけど」


「ほらやっぱり相手にされてない。いいよ。じゃあ、わたしと進くんが二人きりのときに、れおなに連絡するね。で、れおなが進くんに電話をかけて、不自然じゃないシチュエーションを二人で作るの。え、大丈夫なの? とか、そういう話をすれば、進くんも自然にれおなのこと気にかけてくれると思う」


「ユマ、あなた……いい女ね。ライバルに協力してくれるなんて。私、ユマのそういうところに惚れたのかもしれないわ」


「れおなのことはライバルとも思ってないけど」


「あなた進が絡むと、ほんと頑固で辛口になるわね」


「だって事実だもん。わたしは進くんの恋人で進くんの魅力をいっぱい知ってるから、進くんが他の女の子に言い寄られることももちろん想定済みだし、れおながどれだけ迫っても、なびかないのもわかってるんだぁ」


「ふーん、片想いの時とはずいぶん違うじゃない。あなた本当に変わったわね」


「最初から両思いだよ。ただお互いに約束を尊重してただけ」


「でも私にだってチャンスはあるわ。進は根っからのドルオタでしょ。私はアイドルで、ユマはもう一般人。この差は大きいわよ」


「進くんは今でもわたしが唯一の推しだって言ってくれてるよ?」


「ふふーーん、どうだか。ま、いいわ。とにかく、頼んだわよ、ユマ」


 ――もちろん、何も知らない進と、れおなの恋の駆け引きは続く。続くったら続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推しって言ってくれたよネ? 暁貴々 @kiki-ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ