でも、出せなかった理由が分からない。

内容は任務地のことが主で、次に逢ったらしたいこと、行きたいとこ、あいつが書きそうなことが書かれてる。

出せない理由が読み進めても出てこない。

出し忘れるってのは、あいつに限ってはない。

出しそびれたら破棄して新しく書く、うん、その方があいつらしい。

変なの、と思いながらも文面から数年前に書かれたであろう手紙の最後の一文を読む。


「え」


見間違いだと思った。

だからじっと見た。

それでも読み間違いだと思った。

だからゆっくり声に出して読み上げることにした。


「ずっと、君のことが、好きだった、帰ったら、返事が、聞きたい」


はえ?


す、し、し、?


え、すきってかいてる?


声に出しても信じられない。

でも、書いてある。

よく知っている可愛い字で、書かれている。


『ずっと君のことが好きだった。

帰ったら返事が聞きたい』


俺は手紙を、全部開けて読んだ。


誕生日の手紙。

季節の挨拶。

日々の事柄綴った手紙。

全部、全部だ。

全部が。

全部同じ文で〆られている。





俺は電話した。


『なに、どーした?』


忙しいのにごめん、と普段の俺なら言う。

でも今はなによりも伝えたいことがあって、ついつい乱暴に言ってしまう。


「出せなかった手紙、最後に一通出せよ」


小さく悲鳴が洩れたのが聞こえた。

友人は狂乱病に犯されたものを討伐することを生業にしているので、いつでも冷静沈着なのだが。

やっぱ動揺するか、するよな。


『ななななあん!なんでぇ!?』


…想像よりずっと動揺しているぞ。

大丈夫だろうか。


「返事、すぐしたいんだ」


『!、!ええええ!!!』


…駄目かも。

なんか後ろで物が転がったり倒れたりする音がしているぞ。


「な、手紙、くれ、早く、返事ソッコーでしたいんだ」


それでも俺は言い続ける。

友人を友人だと思い、友情だけを感じるように生きてきた。

でも、それももうしなくてよくなるんだから。

早くくれ、手紙。


『あ、あした』


「明日出す?今すぐは無理?いつそれ着く?返事電話で」


『明日そっち行くから、言うから、言ってくれ』


どんな顔してるんだろ。

出来れば誰も見ないで欲しい。


「明日休みだから家に来てくれ、待ってる」


『すぐ、行くから…その…』


「明日顔見て話したい」


『…俺も…』


「愉しみ、待ってる」


めっちゃ待ち遠しくなる。

でも準備する時間出来ていいかも。

泊れるよな?

泊ってくよな?

泊めるからまあいいか。


『じゃあ、おやすみ』


「あ、この手紙俺宛だから全部貰うから」


おやすみの返事前に、これもどうしても言っておきたかった。


『…』


「…」


『はい…』


「ありがとな!おやすみ!気を付けてな!」


俺はご機嫌で電話を切った。

明日が楽しみすぎる。

色々準備しないとな。

あいつ酒は飲まないから、美味い飯とそれから…。

そんなことを考えつつ手紙の束を整える。

大事な大事な、宝物。


「…よみなおそ…」


仕舞う前にもう一度、と手紙を読む。

何度読んでも内容が良い。

酒も進む。

さいこーじゃん、この手紙。

明日たのしみ。

あははー。










気付いたら朝だった。

友人から近所付いた起きてる?って連絡来た。


…顔洗って歯、磨こ。


数分後、着替える間もなく、友人がやって来た。

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出されなかった手紙 狐照 @foxteria

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