出されなかった手紙
狐照
前
品出しの作業中、横からぬっと物が差し出された。
お問合せかな?と思って横を見ると、中等部からの友人が立っていた。
「これ、前に借りたやつ」
「え、あ?」
言葉数少なく、表情もあまり変わらない。
けれど気が合う友人が、小さな紙袋を差し出してくるので受け取った。
こうして会うのは久し振りだった。
最近はお互い、いや主に友人が忙しくてメールで連絡しあっていたのだが。
「これ何」
作業の手を止め紙袋の中を覗く。
ご丁寧に中身は風呂敷で包まれてて正体不明だ。
「だから、前に借りたやつ」
「…え、ゲーム?」
うん、って頷かれた。
どうやらマジで、貸したのすら忘れていたゲームを返しにきたようだ。
多分、あれだよな、シューティングゲーム。
うん、シューティングゲーム貸してたな。
「も少ししたら仕事終わるけど、飯食う?」
「いや、任務があるから、またな」
「おお、気を付けてな」
颯爽と去ってく姿を見送って、ちょっと安心した。
元気そうだったのもそうだが、忙しいのにわざわざ持って来てくれたことに、友情はあるんだって。
こっちは、まぁ、まだ、その、片思いの相手なので。
切れてないのが、嬉しい。
よし仕事頑張ろう。
うん、頑張れる。
って感じで今日も仕事を乗り切って帰宅した俺は、早速返却されたゲームで遊ぼうと思った。
酒とツマミを用意して、ゲームをテレビに繋いで、紙袋から風呂敷包みを取り出して。
「え?」
包みを開けたらシューティングゲームのパッケージが、のはずだった。
はずだったのに全然違う物がお出ましだ。
それは、紙束だった。
というか封筒の束か。
あいつ、忙しすぎて持ってくる物間違えてやんの。
そーゆーとこがまたかわいーとゆーかなんとゆーかもーしょーがねぇなぁ連絡だなぁ。
いつもは忙しいっての知っているから連絡するのに躊躇いが。
でもこれはほら大事な手紙だったら大変じゃーんと。
合法的かつ実に理路整然…。
そんな御託を並べ電話をしようとして、俺はあることに気付き紙束を崩して広げた。
「全部俺宛てじゃん…」
結構な数ある封筒。
それは。
全部俺宛てだった。
「え?なんで?住所も合ってるし…なんで?」
相当な数の出されなかった手紙。
切手まで貼っておいて出さなかった手紙。
興味が、湧いた。
駄目だと分かってても、俺宛なんだからと謎理論掲げひとつ、開封してしまう。
それは白紙に花のワンポイントが入った手紙。
どんな顔してこのレターセット買ったんだ?
きっと任務地で買ったんだろう、あまり馴染みのない花弁の傍で、冷酷そうな面構えに似合わぬ可愛い字が並んでる。
「ふふ」
まじで懐かしい。
学生の頃、学校でメモ回したの思い出す。
だからこの可愛い字も、テンション高めの文章も、懐かしいしあいつらしいなぁって感じられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。