第9話 めちゃくちゃおもしろいやつ

俺はエルムを隠しながら自室に招いた。

【気配遮断】は気配を消すだけで姿を見られたら言い訳するのがキツい。


だからバレない場所となると俺の部屋くらいしかなかった。


俺はあの竜騎士の最後の言葉と手紙をエルムに渡した。


「ふむ。そっか」


手紙と伝言を受け取ってエルムはなにか考えていたけどすぐに目を俺に戻す。


「落ち込むのはまた今度にしよう。それより君も聞きたいこととかあるんじゃないか?」


俺は頷いていくつか質問することにした。


俺の場所に現れた理由については竜騎士の一件を把握していたからだろう。

だからそこについての質問はもういい。


「ここにきたのは竜騎士のことだけ俺に聞くため?」

「いや、違うよ」


エルムは続ける。


「伝えたいことがあってね」


エルムがそう言ったときだった。


部屋の扉がノックされた。


「いるか?レイナス。話がある」


これは父上の声。


俺はエルムに目をやった。


エルムは押し入れの中に隠れたので扉を開けに行く。


「どうぞ」


父上を部屋の中に招く。


近くにあった椅子を手に取り腰をかけると父上は話を始めた。


「私がココ最近お前とあまり話していなかったのには理由がある」


そう言ってこう続けてきた父上。


「実はな。【襲来】が起こりそうなんだ」


(襲来、この世界ではモンスターが一致団結して人間の住む街や村を襲うというものがあったな。それが襲来)


父上はそのまま続けてくる。


「それで襲来についてだが、この村からも義勇兵を出すことに決まってな」

「それが俺ですか?」

「うむ。貴族の息子なら戦闘力も最低限はあるはずだ。そこで我が家に仕える兵士を連れて襲来に対処して欲しい」


初めてのイベントらしいイベントに内心高鳴っていた。


(ゲームじゃ結構楽しかったんだよな。襲来イベント)


無双系ゲーム。

あんな感じでバッサバッサ敵をぶっ倒していくイベントで爽快感があった。


そのイベントを実際自分で動いてやれるなんて。


楽しそうだ。


「時期は?」

「一週間後だと言われている。頼めるか?ちなみにジャイノスくんやノブリスくんたちも参加予定だ」

「おまかせを」


俺がそう答えると父さんは例と謝罪をして部屋を出ていく。


それからクローゼットから出てきたエルム。


「そう、襲来について伝えに来たんだ」


と、エルムは言った。


「タイムリーだね」


俺がそう言うとエルムはまじめな顔をしてこう言った。


「次の襲来はただの襲来じゃないよ【大襲来】に分類される」

「これは骨が折れそうだ。たしか向こうの戦力が上がるんだよね」

「うん」


俺はその言葉を聞いて言葉を呟いた。


「【千里眼】、未来を見通す目。いいよね」


ビクッ!

体を震わせたエルム。


「なんで【千里眼】って分かったの?」

「さてね」


もちろん、原作知識。


エルムは未来を見通す目【千里眼】を持っている。

でも実はこの世界には未来を確認する方法として【未来予知】というものもあって、こっちの方がメジャーだ。


だからみんな未来が見えたと言われたら【未来予知】を疑う。


しかし俺はそうじゃなく【千里眼】と答えた。

だから驚いたのだろう。


そして、このやり取りにも意味がある。


「へぇ、面白いねレイナスくんは」


エルムは気に入った相手を弟子にするという特徴がある。

本来であれば実力を示したりしなければならないんだけど、俺は原作知識でズルをした。

そして俺は今のやり取りで気に入られた。


「俺を弟子にしてくれよエルム」

「もちろん。いいよ。その様子だと私のこともだいぶ知ってそうだよね」


頷く。

なんでもは知らないけど基本的なことは知っている。


「種族エルフ。年齢さんびゃ……」

「やめようねーレイナスくーん?」


そう言われて辞めることにした。


ただ基本的なことは知ってるというアピールだから実際にすべて口にする必要はない。


俺はこれまでの会話の流れをまとめることにした。


「一週間後、【大襲来】が起きる。それに向けて訓練、ってとこかな」

「いえす」


頷いたエルム。

それから彼女はアイテムを渡してきた。


受け取る。


【最果ての魔女の夢鍵】


ランク:___

入手難易度:入手不可

説明:最果ての魔女より送られる夢の世界へ入るためのアイテム。認められた相手しか受け取ることが出来ない



「説明は不要かな?」

「もちろん」

「じゃ、夢の世界で会おうか、レイナスくん。さぁ、夢の世界で修行だぁ」


そう言ってエルムは一足先に夢の中に入っていった。


ちなみにこのアイテムがあると夢の中でも行動することができるようになる。


一日24時間フルで使えるようになる超効率的なアイテムだ。


俺はそれを思い出して呟いた。


「たのしいたのしい睡眠時間になりそうだなこりゃ」


ま、残り一週間。

俺にはチートも才能もないわけだし、ひたすら努力するしかないよな。


文字通り!!


ちなみにだが、原作では主人公はこの鍵を受け取ることはなかった。

なにをしても受け取れなかった。


だから今の俺って実はエルム的には【めちゃくちゃ面白そうなやつ】って思われてると思う。


自分でも言うのもなんだが、すごく気に入られてるはずだ。


だから修行なんかも優しくしてくれるんじゃないだろうか、そう思いながら俺も夢の世界に入った。



「死ぬかと思った」


はぁはぁ。


両膝に手をついて深く息をする。


その様子を見てエルムは驚いていた。


「まさか全滅させちゃうなんて」


そう言いながら夢の世界で伸びているミノタウロス共に目をやる。


俺も目をやった。



名前:ミノタウロスA

レベル:1238


名前:ミノタウロスB

レベル:1238


名前:ミノタウロスC

レベル:1238



俺が相手していたミノタウロスだ。

3匹同時に相手にしていた。


なんとかぶっ倒して今休憩中。


「まさか倒せると思わなかった」


エルムがそう言ってた。


「もっと優しくしてくれよ?」

「可愛い子には旅をさせるものだよ」


そう言って更にミノタウロスを作り出すエルム。

夢の世界だからやりたい放題らしい。


俺は数時間かけて倒したのにまた新しいのが出てきたことに絶望した。


でも


「やるしかないよな。俺にできることはレベルを上げて物理で殴る。これだけだし」


今の俺のレベルは1300。

どうやら努力は裏切らないらしい。


「いっちょやりますか」


こうして俺の激しい特訓は幕を開ける。


大襲来まで残り一週間。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

普通のモブはチートを持ってません!~ゲーム世界のモブ悪役に転生したんだけどチートも才能もなかったけど死にたくないから【知識】を使って頑張って強くなることにした。チートはないけど無双しないとは言ってない にこん @nicon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ