第8話 果実の提出

父上の部屋を訪れた。


中に入るとさっそく父上が俺を見てきた。


「お前が【試練の洞窟】に来なかったと報告があったが?」


俺は言い返す。


「行きましたよ。どこの誰の報告か知りませんけど」


そのまま俺は早速父上に報告する。


「父上、明かりが必要なら必要と言っておいて欲しかったのですが」

「ん?明かり?なんの話だ?」

「あと防寒具もですよ。寒かったです」

「寒かった?【試練の洞窟】は過ごしやすいように温度調整がされてるはずだが」

「え?」


父上が嘘をついてるように思えないから思わず聞き返した。


「めちゃくちゃ寒かったですよ?だからたいまつを作ったんですけど」


俺はあの洞窟に行ったと証明するように机の上に果実を置いた。


金色の果実。


「ほら、色違いますけど果実も持ってきました」


それを見て目を細める父上。


ルーペを取りだして果実を舐めまわすように観察する。


それで口を開いた。


「な……なんだ?この果実は。こんな果実見たことがないぞ。未知の果実か?」

「えっ?」


バサァっ。

父上は机の上に地図を広げた。


で、現在位置から洞窟までの道順をなぞる。

道中は一本道で他のダンジョンなんてない。

だから真っ直ぐ進めば試練の洞窟にいけるはずなんだけど。


「見張りが立っていただろう?」

「見張り?」

「その見張りから報告があった。お前が来ていない、とな」


な、なんだそれは。


じゃあまるで俺が入ったダンジョンは別のダンジョンだった、みたいじゃないか。


てか、別のダンジョンなんだろうけど。


「お前が入ったのは別のダンジョンだな。まっすぐ進んで【試練の洞窟】じゃなかったとなると新しくできたダンジョンだろう」

「……」


何を言えばいいか分からなくなった。


俺が入ったのは別のダンジョンと言われても……。


「とは言え色は違うとしても果実は取ってきたようだし改めて洞窟に向かう必要とないだろう」


そう言って父上は俺にこう言った。


「今日は下がりなさい。これ以上言うことは無い」

「はい」


ここは素直に下がることにした。


(試練の洞窟ではなかったらしいが、珍しい体験ができたし、よしとしよう)



【メモリア】



このアイテムを入手できたことは試練の洞窟に行くよりも何倍も珍しい体験だろう。


でも、俺は部屋を出る前にひとつ聞いてみることにした。


「その果実はなんなんでしょう?」

「なにかの文献で見たことがあるが詳細は分からん。専門の学者に調べさせる」


ということらしいので今日は諦めることにしよう。


それにしても原作でも見なかったな。

あんな果実。


俺でも知らない果実が出てくるなんて、ゲーム世界に来たって言う感じが凄くするよな。


俺はゲーム世界で触れられていない裏設定とか割と好きな方だ。


だから、これからの異世界生活も楽しみになってきた。



「ふぅ……」


ひとりで風呂に入ってた。


本来であればメイドが何人かついてくるんだけど、前世の俺は成人していた。


子供の体と言え、裸を見られるのはさすがに抵抗があったので今はひとりだ。


「ちゃんとお風呂に入れてますか?おぼっちゃまは」

「レイナス様……ひとりでお風呂に入れるようになって……なんと頼もしい」

「ひとりでお風呂に入れるなんて天才ですよねレイナス様は」


なんて言葉が脱衣所の方から聞こえてくるが無視だ無視。


いないものとして扱いながら湯船に浸かる。


そのときだった。


シュン!


俺の前に人が現れた。

今までいなかったのに、急に現れた。


「……」


突然のことに目が点になる。


(【瞬間移動】魔法?一部の魔法使いしか使えない高等魔法)

(しかもこの家の周りに置いてある監視を掻い潜ってここにテレポート?しかも俺の前に?ありえない)

(どんな魔力?いや、どれだけの天才なんだこの人)


いろいろな考えが頭の中をグルグルする。


しかし、どんな考えでもこの現象に答えを用意していた。

それは


【最果ての魔女】


目の前にいるのはその人だろうという答え。



名前:???

レベル:6528

称号:【最果ての魔女】

種族:エルフ



実際に俺の視界に映る情報はこんな感じだった。


その魔女が口を開いた。


「話は知っています。ですが君の口から彼女の最後の言葉を聞かせてくださいな。レイナスくん」


俺は顔を水面に向けてからこう言った。


「あんたここがどこか分かってる?叫ぶぞ?」


そう聞くとギクリとしたような顔をする魔女。


「そ、それは困りますよ?」

「俺の裸を見た。重罪だよ?普通に」


俺自身は別に気にしないけど貴族の身体は神聖なものとされている。

そんな貴族の裸を見た。

どんな罰が下るか分かったものでは無いが。


「分かったらさ、とりあえず黙ってくれないかな?風呂上がってからでいいだろ?」


そんな会話をしていたら


ガラッ!

脱衣所とここを繋ぐ扉が開いた。


「おぼっちゃま?!生命反応がひとつ増えましたが!大丈夫でしょうか?!」


ペタッ。

ペタッ。


メイドが入ってきたのだろう。


「やば、どうしよ。今の瞬間移動のクールタイムが終わってない……」

「貸しひとつだから。息止めて」


俺はそう言って魔女の手を掴むとグッと湯船に引きずり込んだ。


そのあとに湯船の近くまでやってくるメイド。


「おぼっちゃま?人の気配が増えたとの報告が」


その質問に答える。


「誰もいないよ。気のせいだと思う」

「で、ですが」

「ごめん。下がってくれる?俺風呂の邪魔されるの嫌いなんだよね」

「し、失礼しました」


メイドたちはすぐに下がっていく。

我が家の教育水準というやつが高いのかもしれない。


それから魔女を解放した。


「ぷはぁっ。【気配遮断】の魔法を使ったからもう安心」

「来る前にかけとけよ」


呆れながら口にしてやった。

原作通り天才のくせにちょっと抜けてるよな。


この人は。


外に漏れないように声を小さくして話しかけてくる彼女。


「名前はエルム。よろしくねレイナスくん」


めっちゃ良い人に見えるじゃん?


でも、悪堕ちするんだよね、この人。


レイナスより悪い悪役になるんだよな。


そんなことを思い出していた。

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