三千世界て何処までも

どうともならぬ意味の無い風が、青年の頬を撫でた。


街は煌々と明かり煌びやかにして、生活感がまったくない。

もはや街なのかどうかも。

舞台に使うセットのようだ。

どこまでも虚偽が続いているようだ。

なのに、人は溢れ笑い怒鳴り、在る。


本当にどうしようもない世界だ。


昨日交わした約束は一昨日反故になったと言われる。


お前はうちの預かりものだと言われたら、翌日は暗殺者だと勝手認定。


信じられるものは何も無い世界だ。


いいや

あるか

ひとつだけ


「な」


「はっ」


忠誠従心、馬鹿らしくなるほどそれを凌駕するとんだ若者が、青年の心中察し肯定する。


「…三千世界の果てまでもとは言ったけど」


青年が息を吐くと寒くないのに白く色づく。

しんしんと、積もらない影の雪が降り始める頃合いだからか。


「ここは一体、何処なんだろうな」


病床の面影無く、青年は若者を強く見据える。


「…貴方様がご健在で在られれば…至極の極み」


「そうか」


「はっ」


何時までも何処までも三千世界の果てに至っても、若者は変わらない。

青年が、行こうかと手を出す。


宝物のように抱き寄せられるから、地獄だろうと黄泉だろうと。


かまいやしなかった。

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