第41話 お泊り会編③ NGワードの心理戦

「えい! これでどうだ!」


「ふふっ……甘いわね!」


 リョウコとユリはとても殺伐とした雰囲気で、コントローラーのボタンを連打している。


「確か必殺技を出すには……このコマンドよね!」


「ちょっと昇龍拳はやめて! うわぁーー!」


 リョウコの断末魔と共に画面上にはKOの文字が表示された。


「どうして格闘ゲームでも勝てないんだろ……」


「リョウコは適当にボタンを連打してるだけじゃないの。説明書に書いてあるコマンドを全部覚えるだけで、かなり強くなれるわよ」


「そんなの覚えられるわけないって!」


 ここまで何種類ものゲームをやってきたが、リョウコは一勝もできないでいた。そのせいで彼女はどんどん自信を失い、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「いやぁ、ユリは本当にすごいね! ファミコンマスターの称号を与えても良いレベルだよん!」


「ありがとう。でも、テレビゲームは一通りやり尽くしてしまったわね」  


「それじゃあいつも通り、アナログなゲームをして遊ぼうか」


 それを聞いて、床にうずくまっていたリョウコがスクッと起き上がった。


「テレビゲームでは負けたけど、アナログなら負けないよ!」


「嘘おっしゃい。ウノ、トランプ、ジェンガ、あらゆるアナログゲームでいつも負けてるでしょ」


「ん? 何のことかな? さあ、早くゲームをやろう!」 


 都合の悪いことは耳に入れないようにしているようだ。


「それでどんなゲームをするのかしら?」


「自分の口を武器にして戦うゲーム、NGワードゲームかんてどうかな?」


「NGワードゲーム?」


「ざっくりルールを説明するよん!」


 NGワードゲームは、最初に個別に決められた思わず言ってしまいそうな「NGワード」を参加者が会話の中で言ってしまったら負けというゲームだ。参加者は他人のお題を見ることはできるが、自分のお題は見ることはできない。

 自分のNGワードを言わないように気をつけつつ、相手にNGワードを言わせるように話題を誘導するのが勝利の鍵となる。


「つまり頭脳戦って訳ね。楽しそうじゃない!」


「僕が苦手なタイプのゲームだ……」


「リョウコには得意なタイプのゲームなんて無いでしょ?」


「うるさいなあ! でもまあ、とりあえずやってみようか」


「じゃあ、私がリョウコのお題を考えて、リョウコがユリのお題を考えて、ユリが私のお題を考えるって感じでやっていこうか!」


 レイナは二人にメモ帳とボールペンを渡した。

 三人はそれぞれお題についてじっくりと考えた後、メモ帳に記入する。

 そして全員がお題を書き終わると右隣の人にメモ帳を周した。


「それじゃあ受け取ったメモ帳を相手に見えるように、おでこの前に掲げておくれ!」


 三人のNGワードが公開され、ゲームがスタートした。


「そういえば今日は二人とも部活休みなんだよね。ゴールデンウィーク中は他に休みの日はあるのかい?」


 一番最初にこのゲームの経験者であるレイナが口を開き、話題を作った。


「僕は今日と明日だけ休みで、後は部活だね」


「私はゴールデンウィーク中は最終日以外は全部休みよ。文化部って休みが多くて良いわよ」


「ほうほう……」


 レイナは深く頷きながら話を聞いている。


「そんじゃあさ、二人は部活が無い休日はどうやって過ごしてるんだい?」


「私は基本的に勉強してるわよ。後、本を読んだりなんかしてるわね。活字を読むことを習慣にすると読解力が上がって国語の成績が良くなるわよ」


「けっこうストイックに勉強してるんだね。尊敬しちゃうよん!」


「あ、ありがとう……」


 褒められることに弱いユリは、目線を横にそらした。


「僕はゲームをしたり、漫画を読んだりしてるね。もちろんトレーニングも欠かさないよ! 部活でけっこう強い子達と知り合ってね、市民体育館で一緒に練習してるんだ」


「リョウコはいっつも体を動かしてるイメージしかないね。休日くらいゆっくり休めばいいのに」


「そうはいかないよ! 筋肉は毎日使わないと衰えちゃうんだ!」


「はい、リョウコアウトだよん!」


 レイナは人差し指をビシッと突きつけた。


「えっ!? どういうこと!?」


「自分のNGワードを確認してごらんよ」


 リョウコはおでこの前の紙を自分の方向に向けた。それには「筋肉」という文字が書かれていた。  


「うわぁ、やらかしたー!」


 レイナは休みの日の過ごし方という話題から、リョウコのトレーニングの話題に自然に持っていき「筋肉」というワードを言わせたのだ。


「レイナ、あなた意外とやるわね!」


「リョウコっていつも筋肉筋肉言ってるからね。だからNGワードにしたんだ」


「確かに脳みそに筋肉がつまってるような子だものね」


「二人とも僕のことを何だと思ってるのかな!? 僕だって普通の女の子みたいなところもあるんだよ!」


 リョウコはちゃぶ台をバンバン叩きながら抗議する。


「それじゃあ私とレイナの一騎討ちね!」


「脱落しちゃったリョウコも会話に混ざって良いよん!」


「よっしゃー! 二人がNGワードを言うように誘導してやる!」


「そういえばレイナは最近、鬼殺の剣は見てるの?」


 ユリが唐突にレイナが好きなアニメの話題を振った。


「うん、もちろん! あれ程の名作アニメはなかなか無いからね」


「スプセミの時に見て以来、私もハマっちゃったのよね。推しキャラだった炎獄さんは死んじゃったけど、ストーリー自体が面白いのよ」


「炎獄さん意外にも魅力的なキャラはたくさんいるよ。僕が一番好きなのは主人公の少年なんだ。彼の必殺技は格好良いよね! えーっと、何ていう技だったかな……」


 リョウコは人差し指を頬にあて、悩むような仕草をしている。


「私の好きなアニメの話題を皆で共有できて嬉しいよん! スプセミではチカも一緒に見てたよね」 


「そ、そうね……」


「あれれ、ユリ? チカの名前が出た瞬間、顔がいきなり真っ赤になったねぇ」


「そ、そんなこと無いわよ!」


 ユリは明らかに動揺している。


「ここ最近、チカに会えてなくて寂しいんじゃない?」


「……」


 ユリはぷるぷると小刻みに揺れるだけで何も言わなくなってしまった。

 レイナはそこにすかさず畳み掛ける。


「いつもチカのことを目で追っかけてるのバレバレだよん」


「ぶっちゃけチカのことどう思ってるの? 白黒はっきりさせちゃおうよ!」


 リョウコは悪ノリして人差し指でユリの右頬をグリグリした。


「うるさいわね! 二人のおバカ〜!」


 ユリは遂に堪忍袋の緒が切れ、勢いよく立ち上がった。


「はい、アウトだよん!」


「ええ!?」  


 突然アウトだと宣言され、ユリは慌てて自分のNGワードが書かれた紙を確認した。そこには「おバカ」という文字が書かれている。


「ユリはツンデレですぐにおバカって言うから、このワードにしたよ。幼馴染みの僕だからこそユリの言いそうなことを導きだせたんだ!」


 リョウコはガッツポーズしながらドヤ顔で言った。


「いや、多分私でもこのワードに設定したと思うよん」


「負けてしまったわ……レイナも自分のNGワードを確認してみたら?」


「そうだね! えーっと、なになに……『水の呼吸』か。やっぱりね」


「え!? わかってたの?」


「だって、リョウコが下手な演技で主人公の技名を言わせようとしてくるから、けっこうバレバレだったよん」


「もう! リョウコのせいじゃないのよ!」


「あはは、ごめんごめん」


 リョウコは両手を合わせて、軽く頭を下げた。


「私の勝利だよん! イェイ!」


 レイナは満面の笑顔でピースサインを決めた。

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JK四天王のゆるふわ学園生活 伝説の貧乏小僧 @touma1106

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