第40話 お泊り会編➁ ワイワイファミコンパーティー

「せっかくレイナの家に来たんだし、何かして遊びましょうよ」


 ユリは口にさきいかを咥えながら言った。


「じゃあテレビゲームでもして遊ぶかい?」


「いいわね! 普段アナログな遊びばかりしているから、たまにはデジタルを楽しみましょ!」


「僕、けっこうテレビゲームに自信あるよ! 最強のテクニックを見せてやる!」


「ええっと、この辺にあったと思うんだけど……」


 レイナはテレビ台の引き出しを開けて、ゲーム機を探す。


「あったよん!」


 引き出しの中からゲーム機を取り出し、得意気に掲げた。


「それは何ていうゲームなの?」


 見慣れない形状をしたゲーム機を見て、リョウコは怪訝そうな表情を浮かべている。


「ファミリーコンピューター、略してファミコンだよん!」


「ファ、ファミコン!?」


 ユリとリョウコは驚きのあまり、二人同時に裏返った声を上げた。


「どうしてそんなに古いゲームがあるの!?」


「お父さんが子供の頃に買ってもらった物らしいよん。まだ普通に動くから、捨てるのがもったいなくてとっておいてるみたい」


「最近のゲームは無いの?」


「うちにテレビゲームはこれしか無いよん!」


「えー、新しいゲームが良い! スイッチ! スイッチがやりたい!」


 リョウコは座り込んで足をバタバタさせ、子供のように駄々をこねている。


「昔のゲームも意外と面白いよん! ほら、好きなソフトを選んで!」


 リョウコはたくさんのゲームカセットが入っだ袋を渡された。その中身をガサガサと漁り、一つのカセットを手に取った。


「スーパーマリコシスターズの初代じゃん!」


 今では日本人で知らない人はいない程の名作ゲームの初代を見つけ、リョウコは興奮を隠せない様子だ。


「このシリーズ大好きなんだけど、まだ初代ってやったことないんだよね」


「じゃあこれで遊んでみるかい?」


「うん!」


 レイナはゲームカセットを受け取ると、ファミコンの本体に差し込んだ。 


「それじゃあ始めるよん!」


 電源を入れると、テレビ画面にゲームのタイトルが表示された。


「すごい、ドット絵だ!」


「絵も凄いけど音楽もなかなかね。ファミコンって限られた音しか使えないけど、その中でやりくりして素晴らしい音楽を奏でているわ。これは一種の芸術ね」

  

 ユリは目をつぶってファミコン音源を心の底から味わっている。


「一人ずつしかプレイできないから三人で交代でやろうかねぇ。誰からやりたい?」

 

「僕にやらせて! スーパーマリコシリーズは得意なんだよ! 小さい頃はマリコマスターリョウコと呼ばれたものだよ」


「それじゃあどうぞ、マリコマスターリョウコ!」


 レイナはファミコンのコントローラーをマリコマスターリョウコに差し出した。


「Aボタンでジャンプ、Bボタンでダッシュだよん!」


「OK! 始めるよ!」


 スタートボタンを押すとゲームがスタートした。


「まず、このキノコのモンスターを倒して……あっ……」


 モンスターの目の前でジャンプしようとしたが、タイミングがわずかに遅れてしまいゲームオーバーになった。


「あれれ? このゲーム、得意だったんじゃないかしら〜?」


 ユリはマリコマスターリョウコの肩をつつきながら、馬鹿にしたような口調で言った。


「久しぶりだから腕がなまってただけだよ! もう一回! 次こそは失敗しないから!」


 マリコマスターリョウコの二回目のプレイがスタートした。


「このキノコモンスターを倒すためのジャンプのタイミングは……今だ!」 


 今度はぴったりのタイミングでジャンプできたため、モンスターを撃退することに成功した。


 

「よっしゃー! 次はあそこの土管に……」


 画面内のプレイヤーキャラが土管に入ろうとした瞬間に、中から飛び出してきた人食い植物に攻撃されゲームオーバーになった。

 

「うそー!?」


「あなたの名前、何ていったかしら? 確かマリコマスター……」


「いちいち煽るのはやめてっていつも言ってるでしょ! ちくしょー!」


「ちょっとリョウコ、コントローラーをぶん投げないでよん! 壊れたら私がお父さんに怒られちゃうから」


「ごめん……」


 冷静になったリョウコは、慌てて頭を下げて謝罪した。


「素直に認めるよ。僕はゲームが下手くそだ。見栄を張ってただけなんだ」


 自分にゲームの才能が無いことを認めたことでマリコマスターの称号が剥奪され、ただのリョウコに戻った。


「次は私がやってみるわね。テレビゲーム初心者だけど、できるだけ頑張るわ」


 ユリが床に放り出されていたコントローラーを手に持ち、ゲームをプレイし始めた。


「えーっと、キノコが来たら踏みつけて……土管に入る時は人食い植物がいないタイミングを狙って……ジャンプで穴を飛び越えて……あっ、ゴールできたわ!」


 ポールの立っているゴール地点に到達し、ユリはガッツポーズを決めた。花火のエフェクトが彼女を祝福している。


「ユリおめでとう! 初心者なのに上手いね!」


「えへへ……そうかしら?」


 ユリは顔を赤らめて右手で後頭部をさすっている。どうやら照れているようだ。


「そんなのまぐれに決まってるでしょ! そう簡単にゲームは上手くならないんだよ! 次のステージはクリアできないはず」


 ゲームをたくさん経験してきた自分が初心者に負けるのは耐えられないようで、リョウコは鼻息を荒くして焦っている。


「じゃあ次のステージもやってみるわね。洞窟ステージ……難しそうね」


「そこのキノコ、ユリを殺せ! あー、やられちゃった……そこのカメ、この愚か者をあの世に送って差し上げろ! あー、何で負けちゃうかなもう!」


「ちょっとリョウコうるさいわよ!」


 ユリはリョウコを叱りつけながらも、指先は的確に動かし続けている。そして数多の敵を葬り、遂にゴール地点まで到達した。


「やったわ!」


「ユリ、才能あるね! マリコマスターユリと呼ばせてもらうよん!」


 ユリはマリコマスターユリに進化した。


「自分の意外な特技に気づけて良かったわ。ありがとうね、レイナ!」


「どういたしましてだよん!」


 マリコマスターユリとレイナは固い握手を交わした。

 その横で、リョウコは項垂れている。


「おのれぇ……いつか必ず、マリコマスターの称号を僕の物にして見せるからなぁ!」


 怨念のこもったリョウコの叫び声が住宅街一帯に響き渡った。

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