第39話 お泊り会編

「レイナ遅いわね……」


「もう約束の時間を三十分も過ぎてるのに全然来ないね」


 とあるゴールデンウィークの日の昼過ぎ、リョウコとユリは駅前のベンチに座ってレイナを待っている。


「あれ? あっちから誰か走ってきてない?」


 ユリが指さす方を見ると、確かに誰かが走ってくる姿を確認することができる。


「ごめーん、待ったー?」


「やっと来たわね! どうしてこんなに遅刻するのよ」


「寝坊しちゃってさ」


「もう昼なのに!?」


「休みの日だとついつい寝過ぎちゃうんだよね。さあ、私のお家に案内するよん!」


 以前ゴールデンウィーク中にお泊り会について話し合いをした結果、レイナの家に泊まることに決定していた。

 スキップしながら進んでいくレイナの後ろをユリとリョウコが追いかける形で、三人は駅から出発した。











「じゃじゃーん! これが私のお家だよん!」


 駅から数分歩き続け、三人はレイナの住んでいる一軒家に到着した。

 

「うわぁ……なんてボロっちい……」


「ちょっとリョウコ、失礼でしょ! 年季の入ったレトロな家って言いなさい!」


「年季の入ったレトロな家だね!」


「あはは! 別に気を遣わなくていいよん! 超格安で買った家だから」


 レイナは横開きの扉をギシギシ言わせながら開けて、廃墟に近い見た目をしている自宅の中へ入った。


「ほらほら、二人もおいで〜」


「おじゃまします!」


 手招きされて、ユリとリョウコも家の中へ足を進めた。


「私、お土産持ってきたからお母さんに渡したいんだけど」


 ユリは鞄の中からお菓子の入った紙袋を取り出した。


「今日はこの家には私しかいないよん。お父さんとお母さんは仕事で、妹と弟は友達の家にお泊りしにいってるから」


「へぇー、妹と弟がいるんだね」


「あなた長女だったのね、すごく意外……」  


「確かに、よく末っ子っぽいって言われるねえ」 

 

 一番上の子はしっかり者で、末っ子は自由奔放というイメージは世間に深く根づいているのだ。


「ていうかゴールデンウィークなのにご両親は仕事なのね」


「うちの親は基本、仕事ばっかりだからあんまりお家にいないんだよね」


「それ、ものすごいブラック企業じゃないの? 大丈夫?」


「んー、よくわかんないなぁ。とりあえずリビングにおいで!」


 真ん中に大きめのちゃぶ台が置かれた畳の部屋にレイナは二人を案内した。

 

「好きにくつろいでおくれ! あ、何かお菓子でも食べる?」


「うん、食べる食べる!」


「持ってくるからちょっと待っててね。ついでにユリからもらったお菓子も冷蔵庫に入れてくるよん!」


 レイナはリビングの隣にある台所の中へと入っていった。


「リョウコお昼ご飯食べたばかりじゃないの?」


「お菓子とご飯は別腹だよ」

 

「お待たせー!」


 手にお菓子や飲み物の乗ったお盆を持って、レイナが台所から戻ってきた。


「ポテチあるじゃん!」


 リョウコは興奮した様子でポテトチップスの袋に手を伸ばし掴んだが、その袋をじっと見つめると途端に顔つきが険しくなった。


「ねえ、これコンソメ味じゃん!」


「うん。私の好物、コンソメパンチだよん!」


 それを聞くとリョウコは般若のような顔つきでレイナを強く睨みつけた。


「コンソメなんて邪道な物を好むなんて、なんと嘆かわしい!」


「はぁ……」


 ユリはまた始まったと言わんばかりに、大きく溜め息をつく。


「ポテチはうすしおでしょ普通! それ以外はじゃがいもに対する冒涜だよ!」


「私はコンソメみたいな味の濃い食べ物が好きなんだよん!」


「コンソメは味が濃過ぎるからポテチの味がしないでしょ! コンソメの味しかしない! それだったらポテチなんて食べずにコンソメをそのまま食べれば良いじゃないか!」


 リョウコは拳を天に突き上げながら、訳のわからない論理を熱く語る。


「そんなこと言ったらうすしお味だってうすしおの味しかしないでしょ!」


「いいや、君は何にもわかってない! うすしおはじゃがいもの味を引き立てる最高の調味料なんだよ。素材の味を楽しむならうすしお一択だよ!」


「まあまあリョウコ、落ち着きなさいよ」 


 ユリは、どんどんヒートアップしていくリョウコの背中を撫でてなだめた。


「ごめんユリ、レイナ。ちょっと熱くなり過ぎたよ。僕の悪い癖だね……」


 正気を取り戻したリョウコは、申し訳なさそうに頭を下げた。


「食べ物にこだわる気持ちはわかるよん、食べることは楽しいからね! コンソメのことも毛嫌いせずに、試しに食べてみてよ」


 レイナはポテトチップスの袋を開封して中身を一枚取り出すと、リョウコに差し出した。


「それじゃあいただくね」


 リョウコはコンソメ味のポテトチップスをゆっくりと口の中に運び、サクサクと音を立てながら噛みしめた。最初は警戒心を示していた顔がいつの間にか綻んでいる。


「コンソメも意外と美味しいかも」


「でしょでしょ! たくさんあるからもっと食べなよ!」


「うん!」


 リョウコはコンソメにハマってしまったようで、次から次へとポテトチップスに手を伸ばしている。


「飲み物は何が良い?」


「オレンジジュースをお願い」


 ユリはコップを差し出し、オレンジジュースを注いでもらった。


「僕はコーラで!」


「コーラとポテチは最強の組み合わせだよね。はい、どうぞ!」


 リョウコはコーラを受け取ると、グビグビと飲み干した。


「ぷはー! 美味しい!」


 その後、三人はポテトチップス以外にも色々なお菓子を楽しんだ。

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