第38話 放課後ジェンガ部

「帰りのホームルー厶はこれで終わりで〜す。皆さん気をつけて帰ってくださいね〜!」  


 午後の授業が終わり放課になると、チカの席にレイナ、リョウコ、ユリの三人が集まってきた。  

「疲れたよん……」


「そろそろ帰りますか?」  


「僕この後、部活だから学校に残らないといけないんだよね」


「私も今日は部活よ。数少ない活動日だからちゃんと出席しとかないと」  


「そうなんですね。じゃあ二人が部活に向かってから私達は帰りましょうか」


「じゃあそれまで何かして遊ぼうよん!」


 帰りのホームルームが終わってから部活動が始まるまでは、三十分程度の空き時間があるのだ。

 四人はその暇をどう潰すかを考え始めた。


「トランプもウノもさんざんやって飽きたわよね」


「じゃあワードウルフはどうですか?」


「それもけっこうやったじゃないの」


「それなら僕、良いゲーム持ってきたよ」


 リョウコは自分のリュックサックをガサガサと漁り、大きめの直方体の箱を取り出した。


「じゃじゃーん! ジェンガ!」

 

「楽しそうですね!」


「何でそんなかさばる物を持ってきてるのよ」


「んー、なんとなく?」


「なんとなくって何よ!」


 リョウコは机の上で箱をひっくり返して、ジェンガのタワーを設置した。


「さて、誰からやる?」


「じゃあ私がやるよん!」


 レイナは一番下の段の端っこのジェンガを抜き取ると、そのまま最上段に乗せた。


「ふぅ、セーフだよん」


「レイナちゃん、なかなか思い切りますね! それなら私も……」


 チカは一番下の段の反対側端っこのジェンガを抜き、慎重に最上段に置いた。


「はぁ、ドキドキしました……もう心臓がバックバクです」


 土台となる部分が貧弱になったため、タワーはかなり不安定な状態だ。


「ちょっと二人のせいでもうぷらんぷらんじゃないの!」


 ユリは慎重な手つきでタワーの上の方の段のジェンガをゆっくりと引き抜き、最上段にそっと乗せた。


「はぁ……これは生きた心地がしないわ……」


 自分のターンが終わり緊張が溶けたのか、ユリは安堵の息を漏らしていた。


「まったく、ユリは臆病だなあ。僕が正しいジェンガのやり方を教えてあげるよ!」


 リョウコは自信満々に下から二段目のジェンガを勢いよく引き抜いた。

 すると間髪入れずにタワーがガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


「あ……」


「あれ? 正しいジェンガのやり方を教えてくれるんじゃないの? リョウコ」

 

「うるさいな、いちいち煽らないでよ!」


「まあまあふたりとも落ち着いてください。もう一戦やりましょう」


 険悪な雰囲気になっていたユリとリョウコを諌めると、チカはジェンガのタワーを作り直した。


「さあ、完成しましたよ! 誰からやりますか?」


「僕からいくよ! 今回は絶対に失敗はしない!」


 リョウコは先程とは打って変わって、上の方のジェンガをゆっくりと抜いた。

 慎重に抜いたにも関わらずタワーが勢いよく崩れた。


「ど、どうして……」


「これは才能が無いとしか言いようが無いわね」


「もう一戦……もう一戦やろう!」


「これ以上やっても自分の心をしめつけるだけよ! もうやめましょ!」


 リョウコはしょんぼりしながらジェンガを片付けた。


「そういえば、もうすぐゴールデンウィークよね。皆は何か予定とかあるのかしら?」


「僕は半分は部活だけど、もう半分は休みだね。休みの間の予定は特に決めてないな」


「バドミントン部って思ってたより休み多いんですね」


「そうなんだよね。週に三、四日しか活動無くてけっこう緩いんだよ。僕は週休ゼロだった中学時代みたいに、もっとがっつり練習したいんだけどね……」


 この高校のバドミントン部は数年前に一部の女子生徒達が集まって、緩くスポーツを楽しむために新たに設立された部活なのだ。

 活動日数が少ないため、リョウコのようなバドミントンを真剣にやっている一部の部員達は、休みの日に市民体育館で自主練をしている。


「じゃあさ、リョウコの部活が休みの日に皆でお泊り会やらない?」


「いいわね! そういう青春っぽいこと憧れてたのよ!」


「二連続で部活が休みの日があるから、その日にやろうか」


 レイナのお泊り会の提案に、ユリとリョウコはウキウキと楽しそうな表情を見せた。


「あの、すみません。ゴールデンウィークはちょっと……」


 そんな盛り上がった雰囲気の中、チカは言い出しにくそうに恐る恐る手を挙げた。


「チカ、どうかしたの? 何か予定でもあるのかしら?」


「実はゴールデンウィークには地元の方に戻る予定がありまして」


「地元……あー、チカがこっちに引っ越してくる前に住んでいた所ね!」


 ユリはポンと手を叩きながら言った。


「明智家の本家がそっちの方にありまして、久しぶりに親戚や友達に顔を見せに行くんですよ。なのでお泊り会は三人で楽しんでください」


「残念だけど、それは仕方ないわね。チカも楽しんで来てね!」


「はい!」


「そろそろ部活が始まる時間だから僕は行くね」


「私も行かないと!」


「二人とも部活頑張ってください!」


 リョウコとユリが部活に向かっていくのをチカとレイナは手を振って見送った。


「それじゃあ私達も帰ろっか」


「そうですね!」


 二人の姿が見えなくなると、チカとレイナは荷物をまとめて教室を出て昇降口に向かった。

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