明けの明星

 1年半ほどたったとき、私はようやく就職が決まった。

平凡なところではあるが、私は大変満足だった。

ようやく大人になれたという感情が、私の自己陶酔を加速させる。


こんなちぐはぐな私ではあるが、面接や実習の評価は意外にもよかった。

後々聞いたことだが、特にコミュニケーション面が評価されての採用だったらしい。

長年の現実逃避が実を結んだ瞬間であった。


空の端が赤く光る、と同時にいつもより柔らかい太陽が顔をのぞかせる。

「外に出よう」

珍しく自分から外に出る気になった。

外に出て、堤防に登る。

肌寒さと朝のしんとした空気が気持ちいい。

「うーん…」

伸びをして自分に気合を入れる。

来週から仕事が始まる。


「あっ」


確かに一瞬だったがあれは確かに流れ星だった。


「願い事すればよかった」


内心ではもうすでに願い事は叶っている気がした。

どうやらまた私は、自己に陶酔しているらしい。

もう遅いかもしれないが、両親、周りの人々、そしてSとBの幸せを願う。

「少しでも恩返しできたらいいなあ」

素直にそう思った。


太陽が完全に登り切り、星たちは役目を終えたように地球の裏側へ帰っていく。

もう一度伸びをすると、流れ星は自らの住処へと帰った。

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流れ星の住処 @Kuritake55

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