僕は、いや俺のこの世界はあの時あの瞬間に色づいたんだ
甘羽救代
第1話 おぼろげではかなすぎる光
僕は、煌めいた。
夢のような時間だった。またそれは一瞬で、儚い。
夢から覚めて思ってしまったんだ。もう一度あの夢、夢、夢夢夢夢夢夢
薬物中毒者のように幻に囚われた。手足を雁字搦めにされ、借金債務者のように重圧に押しつぶされる。やらなければいけないという重圧に。この刹那に自分の人生を決めた、流れ込んでくる大量の情報量を小さな体で咀嚼しながら…
注がれたナニカは彼を満たしてはくれなかった、その器には底がなかった底なしの器。
「僕は、いや俺は作らなきゃいけない。この腐った現実に理想郷を。あの時、あの本を喰べて、あの本、いや軌跡結晶に…」
彼は知識を飲み込んだ
……時は遡る…………………………………
ここヘストニア王国貧民街ナルの小さな小屋に小さな双子の兄弟がいた。兄の名はイフェク、弟の名はセロト。
「安いよ!安いよ!リンゴひとつ100シリングふたつで180シリング!安いよ!安いよ!」
どれもこれも傷んでいるリンゴ。真っ当な市場じゃ廃棄されるようなもの真っ当な値段なんかつきやしない。そんなものが堂々と売られているのがここ貧民街ナル。
「安いよ!リンゴみっつで270シリングどんどん安くなるよ!」
そこには貧民街ナルの闇市の人混みでコソコソと話す双子がいた
「兄ちゃんどんどん安くなるってさリンゴ100個買ったら何個タダになんのかな?」
「ばーかセロト、リンゴ1つ100シリングでその後全部リンゴ1つ90シリングだろーが、計算できないお前にみたいなのがカモなんだよ」
「すげーやっぱ兄ちゃんには敵わないや」
セロトは目を輝かせながら兄を見た。しばらくして腹の虫がぐぅーと鳴いた。ここは人間の底辺がすまう場所ここにいる人間はみな腹を空かせている。
それはイフェクも例外ではない。
「セロトちょっと先行ってろ」
セロトは何かを察したのか駆け足でイフェクから遠ざかってく
逆にイフェクは店の店主の方に向かって人混みをかき分けてズンズン足を進める
「すいませんリンゴ1つ下さい」
「あいよ、100シリング」
ポケットの中をゴソゴソとまさぐって小汚い小銭をかき集め店主に渡す
「えっとひーふーみー」
店主が数えてる間にいたんでるのが少ないリンゴに目を向けるそれも複数個
「おい、たりねーぞ坊主」
イフェクはニヤリと口角を上げわざと店主にぶつかる。
「ばーかたりてねーのはお前の頭だよ!!」
疾風の如く人混みを抜けていく、その小さな両腕の中にはリンゴが3つ
「盗っ人だ!りんごが盗まれた誰かひっ捕らえてくれ!!」
その風はだれの手からも触れられないやがて風は止みそこにはいつもの闇市があった
「俺ならリンゴ1つ10シリング」
ホクホク顔で帰路に着き家とは言えないようなボロ小屋のドアをガチャリと
きっとセロトも喜ぶぞと息巻いて
開けてしまった
「おーい帰った・・・お前・・・誰だよ!!」
そこには首筋に刃物をスっと突きつけられて顔面蒼白なセロトと顔全体を覆う黒仮面に黒装束、逆に目立つような格好をした男がいた
「セロトから手を離せっ!」
「ぅ」
言葉にならないよう声がセロトから漏れ出す
「おい、聞いてんのかよっ!!」
この場には武器はなく唯一持ってるのはリンゴ3個イフェクは躊躇わず貧民街の生命線のリンゴを投げつける
黒仮面は難なく躱してみせた
2投目を手に取り、仮面をぶち抜くイメージでリンゴを投げると同時に黒仮面目掛けて走り出した
その瞬間、イフェクの背中から冷たい汗がつたう。強烈な圧。昇ってくる胃酸。吐き気を我慢して
「うん最初が噛み合ったわ、自分。この気わかったなら、うん、そーやなぁじゃあこの子はいらんなぁ。この子は分からんかったみたいやし。そして3枚目も噛み合う。そんでうん」
「何を言って!?」
黒仮面は独り言を自分の中のナニカをすり合わせるようにイフェクを見て決心したかのように頷いた
鮮血が舞う
「ルンルンルンルンルン サンタクロース「うわぁぁぁぁぁぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”ァ”」Xmas前に殺ってきた 急いでザクザク「やめろォおおおおおああああああああぁぁぁ」急いでズンズンズン 「嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああ」鳴らしておくれよ鐘をルンルンルンルンルンルンルンルンルン」
そこにはぼろ雑巾みたいになったモノがあった
そうモノになってしまった物の姿があった
ゴーンと一日の終わりを告げる鐘がなった
今日は雪がシンシンとふる雪の夜だ
「ぁぁぁあセロトッセロトッセロトッ!!」
「へぇー3枚目超えて4枚目もこじ開けたんやおめでとう。1つだったものがふたつに裂け半身を失った。ようやく器は完成した。君これから中身を注いで注いで注いで注いで溢れなかったら君の勝ちや」
「ぁぁぁ………」
「がらんどうやね。それでええんやそれで」
黒仮面は遠くボロ小屋の隙間から星を眺める
「もうすぐもうすぐ星の誕生やただの星やないキラキラ煌びやかに煌めく一番星。」
黒仮面はがらんどうになったイフェクの口に小さなナニカを押し込んだ
「これが軌跡結晶や、しかも原本。存分に味わいや」
途端にがらんどうの頭の中に様々な知識が流れ込んでくる。がらんどうは貪欲に食らいつく、まさに底なし
「ハハハハハハハほんまにすごいで!本鍵ドンピシャや。自分、僕の見立てに間違いはなかった。
じゃあまた会いましょ」
黒仮面は確信を持って夜の闇へと消えていった
僕は、いや俺のこの世界はあの時あの瞬間に色づいたんだ 甘羽救代 @kanwa9dai999
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