海賊団の突撃隊長

げっと

海賊団の突撃隊長

 来月、俺の遊んでいるカードゲーム、ワールドオブハートストーンの新しい拡張パックが発売されるらしい。なんでも、海賊という種族のモンスターがフィーチャーされた拡張らしく、パッケージからCMに至るまで、とにかく海賊船や目玉カードの一つ、「キャプテン•フック、海賊王」の姿が映されていたのを、よく覚えている。


 しかし速攻デッキを愛する俺は、八という重たい登場コスト、海賊カードを使用するほどアドバンテージを稼げるデザインがされたキャプテン•フックに、まるで興味は惹かれなかった。落胆しながらリークされたカードリストを眺めていると、ふと、一枚のカードに目が留まった。


 それが「チャッピーズ、海賊団の突撃隊長」のカードだった。登場コスト三、攻撃力一、体力一とあまりにもコストの割に貧弱なステータスなのだが、何故かレアリティがレジェンドレアなのである。三コストといえば、普通は攻撃力四、体力三くらいはありそうなものだ。


 通常、デッキに同名カードは二枚まで入れることが可能なのだが、レジェンドレアのカードは一枚しか入れることができない。その上に、この不釣り合いなマナレシオ。絶対何か、とんでもない効果の持ち主なはずだ。そう思いながら注意深く読んでいると、案の定、効果の欄にとんでもないことが書いてあった。


「他の海賊が登場したとき、デッキに存在するこのカードを公開してよい。公開したなら、このモンスターはデッキから特殊召喚され、「速攻」を得る。」


 なんと前代未聞、自分自身の効果でデッキから特殊召喚出来るというのだ。これの何が恐ろしいかというと、引き当てる必要がないというところにある。


 通常、どんなカードゲームでも、そのカードを使用する為には手札に引き込む必要がある。デッキの枚数が三十枚と、他のカードゲームと比較しても少なめなこのゲームでも、狙ったカードを引き込むことは案外難しい。それを無視してしまえる点で、このカードは強い。


 更に言うと、デッキ圧縮にもなる。たった一枚とはいえ、デッキを少なくすることが出来るのだ。デッキ枚数が指定されていない多くのカードゲームにおいても、デッキ枚数は下限ギリギリにするのがセオリーになるように、デッキは一枚でも少ないほうが、目当てのカードを引き込める確率が高まる。


 しかも、召喚酔いを無効化する「速攻」までついてくるときた。もし一コストの海賊が居て、一ターン目から殴れるのなら…これほど俺の戦い方にマッチしたカードはない。そう思い、海賊カードを調べてみる。すると、一コスト…どころか、低コストな海賊カードは優秀なモンスターが揃い踏みだったのである。


 一コストで平凡なステータスと条件付きだが速攻を持つ「海賊団の甲板員」、三コストで海賊モンスターを全体強化でき、自らも海賊である「海賊団の船長」、厄介なキーワード能力「庇う」を消せる四コスト「寡黙な海賊」などなど。


 今までなぜこれらを採用して来なかったのか、不思議なほど魅力的なカードがたくさん出てきたのである。


 更にいうと、一ターン限定ながら海賊全員の攻撃力を三点も上昇させる魔法カード「突撃ィー!」が、今拡張に含まれるというリーク情報も発見した。これは、速攻デッキにとって極めて強力なエンドカードになりうるだろう。


 そう考えると今からもうたまらなくて、早速プロキシカードを用いてシミュレーションを繰り返してみた。するとどうしたことか、現環境のトップメタとも言える、ダークナイトハイランダーを相手取ってもあっさりと勝てるではないか。他のデッキでも試してみたが、「チャッピーズ、海賊団の突撃隊長」が得たテンポ・アドバンテージを元手に、そのまま勝ててしまうゲームが多かった。


 ただし、明確な弱点があった。「チャッピーズ、海賊団の突撃隊長」は貧弱なステータスゆえ、手札に引き込んでしまうと完全に腐ってしまうのだ。ただでさえ手札がシビアになりがちな速攻デッキで、ゴミを一枚抱えながら戦うことになる。こうなってしまったゲームはテンポが取り切れず、負けてしまうゲームが多かった。


 そんなこんなと試行錯誤を繰り返し、発売前ながら秘密裏にデッキを調整していった。拡張パックの発売前からも、買えるカードは片っ端から買い漁っていった。拡張が発売されてからは、カードパックも買い漁ってパーツをかき集めた。


 そして迎えた決戦の日、カードショップで開かれた公式大会。各々が自慢のデッキを持ち寄って、地域代表を決める戦いだ。俺は当然、この海賊アグロを持ち込んだ。新しいメタはまだ未知数な部分があるが、鬼が出ようが蛇が出ようが、俺のこの海賊アグロなら十二分に戦える。そういう自信があった。


 さぁ初戦の幕開けだ。初戦の相手は…一度戦ったことがある。ダークナイトハイランダーを持ち込まれ、OTKワン・ターン・キルコンボに辛酸を舐めさせられた相手だ。でも今回の俺は一味違う。同じアグロデッキながらもアーキタイプを根本から変わった。前のようには行かないぞ。


 コイントスの結果、俺は後攻となった。手番が一手遅れる分不利になるのだが、その救済措置として使い捨てコストが一枚、初期手札に追加される。


 まず最初の手札、三枚を引く。悪くはないが、四から五コストのカードが重たく感じる。初速重視のアグロデッキだからこそ、引き直しマリガンを選択。手札をニ枚デッキの一番下に戻し、ニ枚引く。


 …よし。手札の登場コストが一、三、三とキレイに揃った。しかも、全てが海賊モンスターな上、全体強化の出来る「海賊団の船長」まで引けている。先攻だったらニターン目には動けない手札だが、後攻の場合は使い捨てコストがある。これを使えば、ニターン目に三コストのカードが使用出来る。


 これは行ける。相手が初ターンを何もしないままに終了させると、俺は海賊アグロの速度に思い知るがいいと言わんばかりに鼻を鳴らした。プラン通りに行けば、一ターン目から「チャッピーズ、海賊団の突撃隊長」がデッキから飛び出してきて、ニターン目には「海賊団の船長」を登場させて三体のモンスターでゴリ押せる。あとはどうとでもなる、最高の手札だ。


 そして、俺のターン。高ぶる感情に、武者震いをする手を必死に抑えながら、俺はカードを引いた。


 意気揚々と俺は、「チャッピーズ、海賊団の突撃隊長」のカードを引き込むのだった。

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