〜ケースの中身は?〜

 いよいよ中身とご対面の瞬間、レジの方からチンっとベルの音が聞こえてきた。入口へ向かうと、老紳士が戻ってきた。

「すみません、先ほどアタッシュケースを席に忘れていきませんでしたか?!」

 俺は冷や汗が止まらなかった。どうしよう……今ケース開けちゃってるよ。

「あ、あの……似たものを収得しております。ちなみに、中身は何でしょうか?」

 恐る恐る訊ねると、彼はニヤリと笑った。

「知りたいですか?店長さん」

 その笑顔が怖い……。訊ねようとした次の瞬間、バックヤードから和真くんたちの叫び声が聞こえてきた。


(な、何だ……一体何が起きてるんだ?)


 すると、和真くんが「一樹店長!!」と叫びながら来た。

「ど、どうしたの?」

「見てください!!これ……」

 手に持っているものを見てみると、そこにはきれいに包装された木箱だ。

「こ、これは……!?」

 俺が驚いていると、彼は「見られてしまいましたか」と呟いた。

「その子が持っているのは、紅茶の高級茶葉です。各国の有名な茶葉を集めるのが趣味でして。昨日今日、老人会で仲間たちに振る舞っていたんです。私としたことが、うっかりケースを忘れてしまいましてね。慌てて取りに来たんですよ」

「じゃあ、あのカウントダウンみたいな音は?」

 そのとき、背後から「一樹さん!!」と景虎の声がした。

「見てください。爆弾じゃなくてただの時計でした。さっき、急にアラーム鳴ったから驚いて、みんなで叫んじゃいました」

 次々と明かされる謎に、俺は安堵の表情を浮かべる。良かった……危険物じゃなくて。

「一体何だと思ったんですか?」

「あはは……」

 これ組のみんなに話したら笑われるやつだ。とりあえずケースをお返ししないと。時計と木箱をケースに戻してお返しした。彼は木箱を手に取って、紅茶の包みを俺に手渡した。

「店長さん、良かったら皆さんと飲んでください。セイロンティーです」

「いいんですか?こんな高価なものを」

「お騒がせしてしまったお詫びです」

「ありがとうございます。大切に飲ませていただきます」

 包みから茶葉の良い香りがする。これは味わうのが楽しみだな。


「解決したみたいだし、ホットコーヒーをテイクアウトしたいんだけど」

「お詫びにコーヒー奢ります。ちょっと待っててください。ミルクと砂糖入れますか?」

「ブラックでいいよ」

「かしこまりました」

 厨房に戻ると、ちょうど九条さんが帰ろうとしていた。

「待ってください。お詫びさせてください!!」

「お詫びなんていいですよ。何事もなかったんですから」

「それはダメです!!ちゃんとしないと……」

「分かりました」

 なんとかとどまらせることに成功したぞ。高木さんにコーヒーを渡した後、九条さんに賄いで出す食事を振る舞った。それから、頂いたセイロンティーも。

「獅龍組のご飯とても美味しいって聞きましたが、噂は本当ですね。おかわりしたくなる味です」

「おかわりもありますので、たくさん召し上がってください」

「ありがとうございます。いただきます」

「九条。本当ごめんな。忙しいのに」

「いいって。それより美味いメシもらったからさ」


 まさか忘れ物からこんな騒動になるとは思わなかった。まあ、でも無事に解決して良かった。俺は安心して再びメニュー開発に力を入れるのだった。



終わり。




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