第23話 申し訳ない

 週明け。


 俺はとてもスッキリしていた。


 志津子さんのおかげで。


 志津子さんにスッキリさせてもらっていなかったら。


 今ごろ、ムラムラ、悶々と、落ち着きなかっただろう。


 とか言いつつ、俺は軽やかな歩調で廊下を行く。


 少し、調子に乗ったせいだろうか。


 廊下の曲がり角にて、


「きゃっ」


「おわっ」


 と、誰かとぶつかってしまう。


 声質からして、すぐに女子と分かった。


 幸い、相手は転倒していないけど……


「ご、ごめん、大丈夫?」


 と、俺は即座に謝る。


「い、いえ、わたしもボーっとしていたので」


 と言うのは、黒髪おさげの、失礼ながら地味な子。


 あまり目立たないタイプだけど、俺は彼女のことを知っている。


 なぜなら、テンプレ主人公たる優太ゆうたを取り巻く、テンプレヒロインズの1人だから。


「じゃあ、わたしはこれで失礼します」


 と、そそくさと去ろうとする彼女に対して、


「あ、ちょっと待って」


「はい?」


 俺は思わず呼び止める。


 俺は彼女を知っていても、彼女は俺のことを知らない。


 だから、微妙な空気が流れるのは承知の上。


 でも、俺はこの地味な彼女との接点が欲しい。


 もちろん、親友であり主人公たる優太の彼女候補を奪うつもりは毛頭ない。


 俺のお目当ては、この子の母親。


 いま目の前にいるこの女子の名前は、落合紅葉おちあいくれは


 先日、俺の髪を切って下さったおっとり爆裂な、あの落合藤乃おちあいふじのさんの娘さん。


 そう、これもまた、熟女ルートである。


「あの……」


 しかし、呼び止めたは良いものの、どうしたものか。


 そうだ、ここはイチかバチか……


「……あの、小林優太って、知っている?」


 と俺が問いかけると、胡乱うろんげだった彼女の瞳が、わずかに見開かれる。


「あ、えっと……はい。この前、図書室で、ちょっと……」


 ふぅ、良かった。


 あいつ、来栖さんルートに入っているから、他のヒロインとは接触していないかと思ったけど。


 何だかんだ、やることやってんな。


「もしかして、落合紅葉さん?」


「はい、そうですけど……」


「あ、ごめんね。俺、須郷元則すごうもとのり、優太の親友だよ」


「ああ、そうなんですか。そういえば、小林くん、頼れる親友がいるって言っていたな」


「うん、そうそう、それ俺ね」


 と、あえておどけて言うと、ようやく紅葉は笑ってくれた。


「でも、優太が言っていた通りだね」


「えっ?」


「落合さん、マジメで良い子そうだなって」


「いえ、そんな……」


 いま彼女が頬を赤らめているのは、俺に対してではない。


 もちろん、それで構わない。


 よし、ここから俺の領分、熟女ルートを開通するぞ。


「で、ちなみになんだけど……落合さんのお母さんって、美容師だよね?」


「え、どうして知っているんですか? 小林くんに話したっけ……」


「ああ、実はさ、先週末に美容室に行って。そこでたまたま、落合さんのお母さんに髪をカットしてもらったんだよ。その時、俺が高校生で、きらめき高校に通っているって言ったら、わたしの娘もよ、って言っていたからさ」


「へぇ、そうだったんですか」


「お母さん、すごいよね。美容室を経営してい」


「はい……わたしとは、大違いです」


 紅葉の顔に暗い陰が差す。


 おっと、いけない。


 まあ、この辺は優太に任せるパートだから、俺は最低限のフォローで。


「大丈夫、落合さんだって、魅力的だよ。だって、優太がそう言っていたし」


「そ、そうですか? わたしなんて、そんな……」


 と、謙遜しつつも、頬が緩んでいる。


「そうだ、ちなみにだけど、優太とは連絡先を交換した?」


「いえ、そこまでは……」


「良ければ、俺が取り持つよ?」


「いえ、そんな……迷惑じゃ……」


「大丈夫だって。あいつ、奥手だからさ、自分からはきっと言えないだろうし」


 志津子さんの娘、彩香あやかと玉枝さんの娘、日向ひなたみたいなアグレッシブなヒロインならともかく、紅葉はそういうタイプじゃないからな。


「……そう言ってもらえるなら」


「じゃあ、悪いけど、まずは俺と交換しようか」


「はい」


 お互いにスマホを出して、ピロン♪


「ありがとう。優太には、俺から連絡しておくから」


「はい……お願いします」


 恐縮しつつも、やはり嬉しそうだ。


 そんな恋する乙女の純情を利用して申し訳ないけど。


 これで、藤乃さんへのアクセスがしやすくなった……かな?


「そうだ、落合さん。1つお願いしても良いかな?」


「何ですか?」


「ふじ……お母さんには、このことは内緒にしてね。その、俺がお母さんから話を聞いて、落合さんと連絡先を交換したってこと」


 まあ、最悪バレても良いけど。


 その引っかかりが、逆にアクセルになる場合もあるし。


 ただ、今のところは、まだ攻略の序章だから。


 なるべく、身長に行きたい。


「あ、はい、分かりました」


「ごめんね、面倒なことを言って」


「いえ、そんな」


「大丈夫、優太とはバッチリ繋ぐから、任せて」


「はい……楽しみにしています」


 う~む、良い子な分、ちょっと罪悪感がマシマシだな。


 本当に申し訳ないと思っている。


 まあ、でも仕方がない。


 俺も、男だから。


 性欲には勝てません。


 早く、あのおっとり爆裂な藤乃さんを、我が熟女ハーレムに加えたい。


 その一心です。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギャルゲー世界でヒロインの母親たちと恋します 三葉 空 @mitsuba_sora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ