第6話

「決着?」


「あぁ、君との因果もここで終わらす!それと小谷君と明莉君の件!君を絶対逃がさない!」


「因果ぁ?決着?笑わせる!お前1人じゃねぇか!1人で何ができんだよ!」

「随分と口調が変わるんだね、余裕がないのかな?荒瀬君!!」

荒瀬の横にいた傭兵が銃を抜こうとした時

「まだ殺すな!」


「諦めなければなんだってできるさ!僕はそうやって生きてきた!」


「精神論か…お前の口からそんな言葉が出るとはな、確かに諦めなければ何でもできるなぁ!」

荒瀬は言い終わると銃を抜き松田に向けた

「あの時と逆だなぁ…松田ぁ」

「あの時?」

「完璧に忘れてやがるのか…それともお前からしたら俺みてえな小物はどうでもいいってか?あぁん?!まぁいい、俺も大概だがてめぇ…よくあの地獄から逃げられたな?」

「地獄?」

「俺はてめぇに撃たれて屋敷から崖下の海に落ちて自分でも死んだと思ったわ…でもカミサマって奴はいるんだなぁ〜奇跡的に助かったんだ」

「屋敷…?あの国か?!」

「思い出したか?ここまで言わんと思い出さねぇとは呆れるよ、そんな時ラングレーの連中があの国で俺にコンタクトをしてきたんだ…俺を生かしたカミサマが今度は俺から全部奪ったお前に復讐しろってチャンスをくれたんだと確信したよ。だから俺はお前をアメリカに売った!沢山の謝礼や恩赦は心地よかったぞ〜」

荒瀬は時折笑いながら喋っていた

「そうか…だからあの時…あんなに早く…て事は君がアメリカに啓介を売らなかったらあんな事に…あんな事に!」

珍しく松田が声を荒らげた

「さっきからお前何言ってんだ?啓介はお前だろう?まぁいい今度はしくじらない!死ね!松田!」


パァン!


荒瀬が発砲したが当たらず松田は威嚇射撃をしながら遮蔽物に身を隠した

荒瀬の射撃を合図に傭兵達も続いて発砲するといきなり車のヘッドライトが点灯し中から女2人組が銃を構えながら降りてきた

「なんだぁ?」

荒瀬の注意がそちらに向くと

「荒瀬ぇ!てめぇを逮捕する!」

「サツか!みんなまとめてぶっ殺せ!」

パァン

パパァン

パパァン!

バァァン!

傭兵達が女刑事達が身を隠してる車目掛けて発砲した

「やべーぞ!これ!予想以上にやべぇ!」

パパァン!

スカートスーツの刑事がMP5で応戦するも多勢に無勢でこちらが攻撃すると倍の反撃が返ってくる

「これは本当にヤバい!」

バァン!

バァン!


バリン!バリン!


松田が荒瀬達が乗っていた車のヘッドライトを狙い明かりを潰し荒瀬側を撃ちながら女刑事達の方へ向かった

「おい!松田!他に作戦あんのか?!」

パパパァン!

「だから君達やるのって聞いたじゃないか!!」

「こんなに凄いとは思ってなーい!」

刀を置きMAC11を2丁構えで応戦

バババババババババァン!


「ウグゥ!」

乱射していた傭兵の1人が被弾した

「当たった!1人片付け…」

パパパパァン!

「あんなんじゃ無理!致命傷くらいやらないと!」

「お前も撃てよ!」

「あーもう!」

バァンバァンバァン!

松田が放った銃弾は牽制にもならず

「アナタさっき綺麗にライト当てたじゃない!」

「うるさいな!僕はこういうの苦手なの!」

「喋ってねぇで誰か援護しろよ!」




「もうまとめて片付けちまえ!こんな所で時間を使ってられるか!」

荒瀬達が弾を装填し直し弾痕まみれの車に狙いを定めていたら遠くの方から高音の車のエンジン音が聞こえてきた

「この音は…2人とも!もう少しの辛抱だ!」

「何?どういう事?!」

「騎兵隊がすぐそこまで来てる!」

「味方なの?!」

「そうだ!僕の自慢の社員だよ!」

そう言うと別方向から猛スピードで突っ込んでくる車が現れた


「撃て!撃て!みんな殺しちまえ!」

荒瀬達が新たな車に一斉射撃をし轟音が響くが車のフロントガラスはおろか傷1つつかない

「なんだぁあの車!」



キキキィィィィ!

「すっげ!これ完全防弾かよ!名城さん援護するんで降りちゃって!」

運転席から現れたのはベネリM3を構えた弟村だった!

「てめぇら!ウチの社長に何してくれちゃってるんだぁ?!覚悟しろよ!」

ベネリM3を構え弟村が射撃した


ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!


傭兵達は物陰に隠れながら反撃するが弟村ばかり気を取られて名城に全く気が付いていなかった


「おい!こっちからも来てるぞ!」

傭兵が名城に銃を向けると名城は左で投げナイフを当て相手が怯んだ隙を超振動ブレードで銃器を真っ二つに叩切った


「なんなんだコイツ!」

傭兵は壊れた武器を捨てナイフを構えたが名城はブレードでナイフ事真っ二つにし相手に刀身が当たる直前にスイッチを切り峰打ち状態で相手のアバラ目掛けて一太刀

倒れた傭兵には目もくれず投げナイフを他の傭兵に当てた、その傷を負った傭兵は港にあったコンテナに入って行ったので名城は超振動ブレードでコンテナの壁を切り裂き壁が倒れると中の傭兵は腰を抜かしていた

それでも名城は躊躇せずブレードのスイッチを切り相手に三太刀叩き込み戦闘不能に

「名城さん!後ろ!」

弟村が名城を後ろから撃とうとした傭兵に狙いを定め今度はショートタイプのMCXで応戦、致命傷を避けるために手を撃ち、落とした武器を名城が蹴ってそのままブレードで峰打ち

「ウチの社長に手を出して無事に済むと思わないでください」

「ダメだ逃げろ!こいつらバケモンだ!」

「おい!逃げるな!」

荒瀬が声を上げると

「逃がしませんよ」

冷たい声を発し名城が刀を鞘にしまい素手で相手と向きあった

「てめぇ!女のクセに」

銃を撃つ前に名城が右掌底で相手の顎にキツい1発その後そのまま相手の首に手を回し膝蹴りを5回したあとコンクリートに傭兵を叩きつけた

「その女に素手でやられちゃいましたね、さて次は何方です?」

パァン!

弟村が名城を後ろから刺そうとした傭兵を撃った

「1人逃してますよ」

「弟村さんに取っておいたんです」

「そういうことにしておきます」

荒瀬が雇った傭兵達はいつの間にか全員戦闘不能になり気づくと荒瀬1人になっていた

「クソ!何で!なんでこんな!」

パパァン!

荒瀬が名城に発砲したが名城にはかすりもしない

「バケモンか!」

パァン!パァン!

荒瀬から2連射を避けた同時に

パァン!

弟村が荒瀬の武器を狙い撃ち名城が右掌底を鳩尾に食らわせた

「社長がいなかったらアナタを私は殺してるわ、社長に感謝しなさい」

「グハァ!…お前ら…雇った連中に捕まったんじゃないのか……あの写真は…?!」

弟村が銃を構えながら荒瀬に近づいた

「ありゃ合成だよ!バーカ!頼んでアンタに送ってもらったんだ」

名城、弟村の戦闘を見ていた刑事2人は唖然としていた

「お前の社員どんだけだよ…」

「強いでしょ?僕の自慢さ」

そういい名城、弟村に近づきながら

「2人とも念の為に聞くけどあのメッセージは見たよね?」

「はい」「ええ」

「見た上でここに来たと?」

「何か問題でも?」

「いや…でも君…」

松田が言い終わる前に名城が松田に抱きついた

「心配させないでください、それに私は自由になるなら社長と弟村さんと3人同時に自由になりたいです!」

「ちょっと!椿ちゃん!言ってる意味が…」


パチン


「痛!」

弟村に後頭部を叩かれた

「鈍いなぁ〜名城さんはみんなと一緒にいたいって言ってるんですよ、俺も同じ気持ちです。顔を見たらホッとしました」

「弟村君もありがとう…さて」

松田は腰を抜かしている荒瀬に近づいた

「君の話…聞かせてよ」

「俺の話?」

「そう…君も知ってる思うけど僕は数年表立って行動してなかった、色々あってね。まぁその色々あった上でまた活動したんだけどどうして急に僕に復讐なんてし実行したんだい?」

「…ずっと憎かった訳じゃない…お前に撃たれてあの屋敷から崖下に飛び降りてなんとか生き残れた、あの時俺はお前が持っていたマーケットに参入しようと企み失敗した。その後日本に何とか帰って来れたが家族も殺されていた…こんな商売だ…全て俺の甘さが原因だったと自覚している」

いつの間にか女刑事2人も松田達の近くにいて話を聞いていた

「堅気の生き方なんて俺は知らねぇ、でも食ってくには金がいるかは始めたのは…強請り屋だ。秘密のねぇ人間なんてねぇ、偉い奴は尚更だ」

「そうやって色々な人達を強請っていたの?」

「あぁ、警察だけじゃねぇ、芸能人や経営者、官僚やら政治屋連中もだ。アンタらの所の副署長さんは金を払わなかったからネタをバラしたんだ」

「せっかく生き残ったのにつまらねぇ選択をしたな?荒瀬」

髪を縛っていた女刑事が手錠に手をかけると

「待った!もう少し話聞いていい?まだ核心を聞けてないよ」

「そんなに時間ねぇよ、さっさと東京に…あ…兵隊達はどうすっかなー?」

「弟村君の車にタイラップとかがあるはずだ、適当に拘束しておけばいいじゃん、弟村君持ってきて」

「了解!」

返事をした弟村が車に向かいトランクを開けた

「それ?アタシらがやんのか?!」

「悪いヤツを捕まえるのが警察の仕事でしょ?」

「ったく…体使われせて!やるよ!やればいいんだろ?!」

「ホント…何様かしら…まったく…」

2人はブツブツ小言を言いながら弟村からタイラップを受け取り一人一人を拘束した

「で荒瀬君、それで?」

「価値があるかないか、とにかく色々集めまわってる時だ、小谷が荒らし回ってるってのを嗅ぎ付けてな、優秀かつ俺に利益を運んでくる女を見つけた」

「それが明莉 光美かい?」

「あぁ、当時の明莉はとにかく小谷の為の裏工作をしていたんだよ。優秀な女だ、だがこうも俺は考えた、こいつを上手く使えば俺はもっとのし上がれるかと…」

「過ぎたる野心だね、で?僕とどう繋がる?」

「お前と小谷がつるんでるのを知ったのは全くの偶然だ、お前とホテルでぶつかるまで俺はお前の事を気にもしてなかった、恨んで無いと言えば嘘になるがな…まぁそん時だ、この計画をやろうと思ったのは」

「下準備もなくこんな大それた事を?」

「明莉から色々聞いていたしな、利用する手はないと考えた…まぁ賭けだ。昔からお前は尻尾を掴ませない、なら今しかないとな…1番腹が立ったのはお前が俺の事を一切覚えてなかった事だ!あれだけの事をして平然と…腸が煮えくり返ったよ…結果は惨敗だけどな」

「……すまなかったね…」

松田が荒瀬に頭を下げると荒瀬は隠し持っていた拳銃を抜くと名城、弟村が武器を構えながら松田の前に立ち刑事2人も銃を構えて警告した

「社長はやらせない!」

「銃を捨てろ!」

「捨てなさい!荒瀬!」

「無駄なことすんな!」


「…勘違いするなよ」

そう言うと荒瀬は銃を自分の頭に銃を向けた

「俺はもう終わりだ…このままお前らに殺させるのも御免だし捕まるのも御免だ…かと言って逃げられたとしても小谷の連中に消されるのも勘弁だからな」

「みんなその物騒なもん下ろしてよ、1ついいかい?荒瀬君」

「なんだよ?嫌味でも言うのか?」

一呼吸置き松田が話を始めた

「崖から飛び降りてまで諦めない気持ちを持っていたのになんでそう諦めるんだい?君にはカミサマってのがついてるんだろう?!どんな惨めな生き方でも心臓が止まるまで人間は諦めちゃダメなんだよ!明日死ぬってなったとしてもやり直しちゃいけないなんて誰が決めたんだ!生きる事を諦めるな!」

「俺にだってプライドってもんがあるんだ!惨めな生き方をして恥を晒すなんてできるか!!」

「生き恥だろうがなんだろうが君は人の命を奪ってきただろう?!その罪を精算しないで勝手に死ぬなんて畜生以下だ!」

荒瀬は自分の頭に向けた銃の引き金の指に力を込めた

「畜生でもなんでもいいわ、もう…お前に拘らなきゃ細々とやれて…」

「生きてれば僕に復讐するチャンスだってやり直すチャンスだっていくらでもあるだろう!自分の可能性から目を背けるな!」

「……俺はどんな手を使ってもお前を狙うぞ…?いいのか?それ分かってんのか?!」

「君の生きる理由になるなら僕を恨み続けるのも答えだよ」


荒瀬が一瞬笑い拳銃を投げた


「KO負けよりTKOの負けの方がマシか…刑事さん達、俺を捕まえろよ」

荒瀬が女の子刑事2人の前に両手を出した


「荒瀬村邦、現行犯逮捕。行くぞ」

刑事達が荒瀬に手錠を掛けて車へと向かう途中

「刑事さん!これ返す」

先程車で受け取ったHK45をスカートスーツの刑事に渡すと

「おい松田、1つ聞いてもいいか?」

荒瀬が松田に問いかけた


「なんだい?」


2人は目を合わせず背中越しに話し始めた


「お前…俺を撃った松田 啓介とはだいぶ違うな、殺し合いまでした相手だ…話しててそう感じた。お前はもっと傲慢で人を見下す奴だった、少なくともこんなに人がお前の為に…いや、他人が身体を張ってまでお前を守ろうとする程お前は人望なんてなかったように見えるがな」


「君の気のせいだよ…人は変われる、僕は変わったんだ」


「……そういやお前とあの屋敷で会う前にこんな噂を耳にしたな「松田 啓介には見間違うレベルの影武者がいる」って…眉唾だと思ってたが……そうか…俺は始めに本物に負けて…次に俺はその代替相手にあらぬ恨みを全部ぶつけて負けたのか…刑事さんちょっと待ってくれ」


荒瀬が振り向き話を続けた


「お前…ホントは誰なんだ?名前くらい教えてくれたっていいだろう?」


「……松田 啓介さ…これまでも…これからもずっとね。そうやって僕は生きていくんだ」


「…それが答えか…凄いよ、お前は最初から勝負するには格が違いすぎた。悪かったな、関係ない恨みをぶつけしまって」


「人生は一筆書きの線、因果はメビウスの輪さ」


「何が言いたい?」


「僕の運命も因果も途中から変わったんだ。そりゃ間違えるよ、だから君が気にする事はない。僕の方こそごめん」



「もう行くぞ、ほら、車乗れ」

髪を結んだ刑事は荒瀬達が乗ってきたワンボックスカーの後部座席に荒瀬を座らせ自身は助手席に

スカートスーツの刑事が

「荒瀬逮捕のご協力ありがとうございました、貴方が居なければ…」

「別に気にしないでいいよ、しばらくは警察には行きたくないな」

「今回の件で話を聞きに行く事もあるかと思いますがその時は…」

「それは弁護士雇うからそっちを通して、僕は協力はするけど僕自身の事を話す気はない。そういやあそこに転がってる傭兵連中はどうするの?」

「もう県警に連絡済、雇われた連中は県警に渡すからご心配なく。それでは」

「色々とありがとう、部長さんによろしく。ん?乗ってきた車置いてくの?」

「あんな穴だらけの車で東京に行きたくないわよ、じゃあね!」


「警察も大胆な事するねぇ」


そう言い残し松田は名城、弟村の方へ行き荒瀬を載せた車は走り去った


「社長…1人で寂しかったです?」

弟村はホットしたのか安堵の笑みを浮かべた

「別に君が居なくても大丈夫だし。あ!あの車気に入ってくれた?」

「控えめに言っても最高っすよ!4駆じゃなくてFRってところ…」

「ハイストップ!オタク話はあとあと!椿ちゃんも助けてくれてありがとうね。あ!約束通り僕は無事だよ」

「相変わらず無茶して!何が約束ですか?」

「本音を言うとね…君達には僕に構わず自由になって欲しかった…でもね?矛盾してるけど逆に君達は必ず来てくれるって信じてたからあの場所に行ったんだ。涼木ちゃんにも聞いてたしね」

「私たちを信じてくれたんです?」

「あぁ、君達は僕にとって社員以上に家族みたいなもんだ、君達がいるから僕は絶対に死ねないとも思えたんだよ。はぁぁぁぁ〜お腹空いた」

「何も食べてないんですか?」

「うん、実は警察でも生命を狙われてね…」

「えぇ!」

「まぁ県警が来ると面倒だ、弟村君驚いてないで車運転してくれない?帰ろう、3人で」


ー帰ろう、3人でー


その言葉が松田の口から出た途端2人とも笑いだした


「ウフフッ」


「アッハッハッハッハッ」


「何がおかしいのさ?!」

「なんでもないっすよ!さてこの時間だと…牛丼屋くらいっすね」

「牛丼?嫌だよ!もっといいモノ…」

「私も流石に牛丼は…」

「わかってないなぁ、この朝日が登る頃に食べる牛丼はうまいんすよ。ほら乗って!行きますよ」

弟村が運転席に座り名城が助手席、松田が後部座席に座り弟村はスピンターンさせて車を発進させた、夜明けが近いのか照り出した陽の光が車を輝かせていた


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その後荒瀬は罪を認め聴取にも素直に応じていたらしい

小谷の死は明莉 光美が主犯と執行部が判断する前に羽村が独断で自分の組織を総動員させ明莉の傘下や部下達を粛清…名目上、小谷の仇を取ったのは羽村となり跡目争いをリード、そしてどこから連れてきたのか「小谷の隠し子」を複数人見つけてきてその1人の後見人となり柴山や丹野はそれが不服で今後を決める会議でも柴山と羽村は怒鳴りあっていたが事後処理を全て羽村がやったため他の傘下の者達も羽村を支持。小谷の葬儀は喪主の羽村の意向でとんでもなく盛大に執り行われた

これは内外に「小谷の後継者は自分」だとアピールをするためでもあった


都内の一等地にある名物タワーのお膝元にある増総寺で小谷の葬儀は執り行われた、表向きは会社社長だが裏社会の住人、それも長大物という事もあり寺の通りには警察車両も相当数動員され増総寺は物々しい雰囲気だった


弔問客は表面では悲しい顔をしていたが内心小谷が死んでほっとしている連中も多いだろう

献花は方方から贈られ飾りきれなかったようだが

「松田 啓介」


の名前の献花はとても華やかで葬儀には似つかわしくないとても派手な献花


祭壇には小谷の遺影が飾ってあり真正面を向いた凛々しい写真だった


祭壇近くの遺族や関係者の席には小谷の隠し子を連れた羽村を先頭に柴山、丹野、佐木と続き徳宮やその傘下のトップや部下達が座っていた

松田も招かれたが


「僕が座るべき所じゃない」


と断り一般弔問として葬儀に参加を決めた

弟村の車でむかい、車から降りると周りの弔問客がザワついた

それもそうだ名城、弟村は喪服だが松田は喪服どころかスーツでもなくベースボールキャップに黒のトータルコーディネートといつも通りの格好だった

ザワつく弔問客を避けて進み受付で記帳を済ませ分厚い香典を手渡し、中に誘導されたが松田は焼香を拒否していた、そのやり取りを見ていた受付責任者の前野が走り寄って来たが松田の格好を見て絶句していたが

「……松田さんも焼香してあげてください、会長も喜びます」

と松田に言ったが

「あの小谷君がこんな湿っぽい事を望かい?君達わかってないなぁ。パスパス、君達はここで待ってて」

そう言い名城、弟村を入口に待機させ焼香列を縫って祭壇まで行き托鉢の僧が経を読んでいたが構いもせず声を上げた

「小谷君!君こんな事して欲しかった?違うよね!なんだよ!こんな写真1番君らしくないじゃないか!」

松田が声を張り上げると警備の人間が松田を取り押さえた

「おやめ下さい!」

「うるさないな!すぐ済むから離せよ!ったく!君の伝言通り僕は笑って君を送るから!先にそっちに行ってて準備しといてよ、天国か地獄かわかんないけどさー!僕もそっち行ったら2人でまた色々しようよ!またね!」

松田は係に両腕を捕まれ場外へ押し出された

責任者の前野が慌てて駆け寄って

「松田さん、困りますよ!こんな事されちゃ!」

「ごめんごめん、でも小谷君から頼まれたんだ。もう帰るよ」

「実は羽村さんがお会いしたいと…お部屋に案内しますので来ていただけませんか?この通り!」

前野が深々と頭を下げたので断る訳もいかず松田は2人を連れて別室へ、案内された部屋は殺風景でソファとテーブルの上にお茶があるくらいだった

「まったく!何やってんですか?!」

「いやぁ〜湿っぽいの嫌いで」

恒例の如く名城に怒られた

「だから言ったでしょ?せめて喪服くらいって」

弟村の小言にも耳を貸さずむくれていた

「小谷さんの伝言なんてあったんです?」

「椿ちゃん聞きたい?」

「えぇ…まぁ」

そう言うと松田はスマホを取りだし音声データをスピーカーで流した



ー啓ちゃんやられたよ。お前の言う通りだったわ、でもまさか明莉がなぁ…葬式なんてしなくていいが柴山か羽村辺りが仕切ってやるだろう、俺のしかめっ面の遺影かなんか立ててな。お前の喪服姿なんて嗚咽がしちまうから着てんくな、お前は焼香場所で好きな事を言っていつも通りに俺を見送ってくれ…後…万が一明莉が逃げてお前に連絡があったら国外にでも逃がしてやってくれ…頼んだぞ…じゃあなー




「僕は彼の意思に従ったまでだよ」

「小谷さんとはお友達だったんです?」

名城が尋ねた

「…友達と僕は思ってたけど…彼はどう思ってたかは謎だよ…僕は明莉君もなんとか救いたかったんだ、生きてて欲しかった…」


ガチャ!


話をしているとドアが開き男が3人入ってきた

「いやぁ待たせて済まんかったなぁ〜松田さん、初めまして俺は羽村 秀久、こっちが弟の秀治、んで最後のが俺の秘書の黒貴だ」

紹介された2人の男が

「羽村 秀治です、お噂はかねがね。よろしくお願いします」

「秘書の黒貴 孝平と申します」

「これはどうも…僕の自己紹介はしなくていいね」

「小谷会長から良く聞かされてましたよ、あ!明莉と荒瀬の件では面倒かけてみたーで、改めて礼を…」

「そんなもんいらないよ、君は何故明莉君の部下達を粛清の名のもとにあんな事したんだ?」

「そりゃーこうでもせんと示しがつかんで!明莉は会長を殺した大罪人だきゃ、それ相応の罰は必須じゃにゃーの?」

急に羽村は訛り言葉を使いだした

「万が一の失敗を予想して明莉君は自分の部下を使わなかったんだ、そうならないようにね。僕は君みたいなやり方には賛同できない」

羽村は先程とは打って変わって松田に近づき冷たい目付きと小さな声で

「道徳心か?会長だってさんざん人を殺してきたじゃねぇか。お前もそれに関わった人間だぞ?俺も小谷もお前も大した違いはねぇ、デケェ口叩くなよ?用立て屋風情が」

「知らなかった事を弁明するチャンスも与えず大義を後付けして一方的な殺戮をするような奴と一緒してんじゃねぇよ」

松田もらしくない口調で答え松田と羽村が睨みあった

弟の秀治と秘書の黒貴が兄の秀久を抑え弟村が松田を抑えた時

「アッハッハッハッハッ!ウワサ通りの人だぎゃ!俺に文句つける奴なんて今はそういねぇよ!ますます気に入ったで!!アンタ…ウチの傘下にはいってくれねぇか?金なら言い値で払うに!だから…」

「君が儲けさせてくれたとしてもお断りするよ、これ以上は時間の無駄だね帰ろう…それじゃ羽村さん、あ!1ついいかな?」

部屋を出る寸前で問いかけた

「なんでも聞いてくれや」

松田が羽村の方に近づくと秀治と黒貴が間に入ったがそのまま身体をぶつけ退かし羽村の耳元で

「あんたさ…あの襲撃知ってたろ?いつか尻尾を掴むからな?覚えとけよ」

そう小声で言い松田が先に部屋を出て名城、弟村がお辞儀をして部屋を後にした


「フーーー!ありゃ予想以上の切れ者だわ」

羽村が大きく息を吐いてソファーに腰掛けた

「兄さんから見てもそう思う?」

「あぁ、会長が大事にしていたのがよく分かるよ、アイツこっちの動きに薄々気が付いてたわ」

「ただの偏屈な男と思ってましたが…片付けますか?すぐにでも」

黒貴が進言すると

「あれに手を出すなよ…とんでもねぇしっぺ返しくるぞ。あの雰囲気…ただもんじゃねぇ、それに女の方だ、何人殺ったらあんな雰囲気出せるが謎だわ」

「柴山達が小谷会長の妹と良からぬ事をしてるってのに…その上あの男まで…」

秀治が頭を掻きながらボヤくと

「当面あの男は放って置いていい、こっちから仕掛けない限りああいうタイプは大丈夫だ。柴山のバカは状況を全然分かってねぇから心配する必要はねぇ。秀治、黒貴、金に糸目をつけるなよ、傘下の連中にどんどんバラ撒け。それでもダメなら…消しちまえばいいんだや」

頭を掻くのをやめて秀治が口元を緩めながら

「しかしあの女も丁度いい時にやってくれたね、兄さんさぁ…援軍欲しいだなんて嘘だったんだろう?体のいい理由つけて会長を呼び出して…」

秀治が言い終わる前に羽村は弟の目を見てニヤリと笑った

「明莉姉さんには感謝しかないなぁ、アッハッハッハッハ、小谷のオヤジもまさか俺が西の奴らと繋がってたとは思ってなかったろう。そんな時に荒瀬?と明莉がフリーランスを探してるって黒貴が掴んでくれたからな、あれが無かったらこんなに早く事後処理できんかったわ!」

「たまたまですよ」

「まぁええわ、例の連絡役は処分したんか?黒貴?」

「はい、すぐに処理しました、今頃は養殖ハマチの餌になってますよ」

「仕事が早いっていい事だな!さて徳宮は…どうでるんかの?目下は奴には注意しとけよ!なんならぶっ殺したるに…ダッハッハッハ」





葬儀場から車で出た松田は後部座席の窓に寄りかかっていた

「そう言えばあの時助かった斉木って人はどうなの?」

「あの後搬送されて治療も受けたのですが警察が礼状持って逮捕に行った時、斉木さんは病院から居なくなったみたいですよ」

「へぇ……椿ちゃんさっきの羽村ってどう思った?」

「あの人…少々不気味ですね」

名城がルームミラー越しに話しかけた

「ありゃバケモンだよ…どん底から這い上がったタイプだ。さしづめ暴食と強欲…色欲と傲慢、七つ大罪のうち4つも持ってるように思えた、悔しいけど小谷君の跡を継ぐのは彼だよ」

「そんなに凄い人です?」

弟村と少しビックリした様子だ

「あぁ、今の小谷君の部下達にあれを超える人間は居ない、断言していいよ、目的の為なら手段を選ばないタイプだ。それに弟がいたろ?秀治っての秘書の黒貴。あれらが上手くストッパーになったり調整してるんだろう…なんかさぁ…この名前にしたらトラブル続きというかなんと言うか…少し疲れたよ…」

松田のこの言葉に2人は反応しなかった、と言うよりできなかったのだ



「少しお仕事をお休みされては?」

名城が言葉をかけたが返事が無かった

「寝てますね…少し休ませてあげましょうよ」

「ですね」

「しかし…社長もああいう口調を使うんですね」

「ああいう時本気で怒ってるんですよ…私は一瞬寒気がしました」

助手席の名城は自分の肩を抱いた

「いつか…やり合うと思います?」

「おそらく社長は自分から何か仕掛ける事はしないと思います…でも向こうから仕掛けてきたら私が殺しますよ、あの化け物を」

ハンドルを握っていた手に汗が滲んだ事を弟村は自覚した

「またまた、やめて下さいよ!ビックリするなぁ〜でも日本から出て休みますか?もういいでしょう?小谷さんが死んだんだ、俺は社長に少し休んで欲しいです」

「…そうかもしれませんね、今この方に必要なのは心の静養かもしれません」

名城は後ろ座席に体を向けて眠る松田を見つめた

「ゆっくりお休みください…社長」



弟村は運転が荒くならないようアクセルを抜き緩やかな運転で3人を載せた車はクライトンベイホテルへ向かった





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「包帯を外して構わんよ」

都内のとある病院の一室で顔を包帯で巻かれた男が横たわっていて担当医がベット横に付いていた


「強く外さないでくださいね、まだ完全ではありませんから」


包帯で巻かれた顔を自分の手でゆっくりゆっくり巻き上げていき左手の手鏡で自分の顔を見た


「これが…俺の顔…?」

医者の横にいたスーツの男が話しかけた

「そうだ、流石にそのままだと顔でバレるからだいぶ変えさせてもらった、声帯も少し変えたよ、指紋も薬剤で消した。大変だったんだよ、君をあの病院から連れ出すのは」


「何故俺を助けてくれたんです?徳宮さん」

「君は数少ない小谷襲撃の生き残りだ、もう少し身体が慣れたらあの時の事を俺に色々教えてくれないか?おそらく小谷の兄貴の跡目は羽村だ、奴を好きにさせない為に色々な情報、それと使える人間が欲しい君には期待してるよ。それとこれが君の新しい身分証だ」

男が新しい運転免許証やIDをみると名前が

「天海 和人」

と表記されていた

「「アマミ カズト」と読むこれが君の新しい名前だよ、しばらくは慣れないだろうがそのうち慣れるさ…また見舞いにくるよ、今後ともよろしくな」

そういい徳宮は病室を後にした

病室の外で待っていた部下の本原 正和が徳宮の後を追うように付いて行った

「徳宮さん、アイツは大丈夫でしょうか?」

「あの生き残りだ、そういう奴は肝が座っていい仕事をする。それに自分じゃ気がついて無いだろうが明莉を上手くコントロールできてた奴だ、使えない事はない。万が一使えなかったら捨てるまでだ。何としても羽村を抑えてウチが取るぞ」

「はい、わかりました…しかし徳宮さん、まさかあの日にこんな事が起きるとは…」

「最近小谷は油断しきっていたからな、俺をずっと格下扱い…ふざけやがって…寝首殺ってやろうかと思った矢先これだ」

「しかしこの短期間で羽村があそこまでやるとは」

「羽村に好きにさせてたまるか!そう遠くない先で羽村とやるぞ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



〜堂原刑務所〜


「ピッチャービビってるぞー」


グランドではレクリエーションで野球をしていた


荒瀬は堂原刑務所に収監され刑務所特有のイジメもあったが平穏に過ごしていた


「おーい新人、野球やらねぇか?」

「いや、俺は腰が悪くてな、みんなの野球見てるよ。夕飯のオカズ1品賭けてるんだ!頑張れよ!」

「おぉ、まかせとけ!」


荒瀬はベンチに腰かけ空を見上げた


ー諦めないで生きる…か…ここから出られた時…変われるかな…俺は…ー


そんな事をを思っていると



ドスッ


クチュッ




急に右脇腹に衝撃が走りその後激痛が荒瀬を襲い、自身の脇腹を見ると血が流れていた

「だ、誰…」

荒瀬が振り向くと

「よう、荒瀬さん…待ってたよ…アンタのせいでキャリアも警察官という立場も無くなったがまさかこんな形で再会できるとは…な!」

荒瀬を刺した箇所に力を込めて身体奥まで刺し込んだ


「ピーっ!ピーッ!お前何してる!」

見張りの看守達が笛の音に反応して男を荒瀬から引き離した

「離せぇ!離せよ!コイツは俺がぶっ殺すんだ!」

「おい!荒瀬!荒瀬!誰か医務室に連絡しろ!意識を保て!」


荒瀬はその場に倒れこみ薄れゆく意識の中何故か空に浮かぶ雲を左手で掴もうとした

ーせ…っか…諦めずに…やり…直…うと…俺…はお似…の終わり…方…か…なんでかな……悔…しく…ねぇ…ー


左手が地面に落ち荒瀬は目を瞑った

最後のその顔はどこか満足そうな顔だった…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いつものホテルで夕食のルームサービス頼み3人で食事をしていると松田の携帯に着信が入った、表示は「涼木(癒し系)」


「ハイハイもしもし、今食事中なのよ、なんか急用?…えぇ?!…うん…うん…そっか…わざわざありがとうね」

通話を切りため息をついた


「どうしたんです?社長?何か問題でも?」

名城が声をかけた

「…荒瀬が刑務所で死んだんだって」

「えぇ?!ホントに?」

ガチャン!

弟村は驚いた拍子にグラスの飲み物をこぼした

「ちゃんと拭いときなよ」

「あぁはい…で?なんで死んだんです?」

「刺されたんだだと…囚人に」

松田は席を立ち大きな窓の外に広がる東京の夜景を見ながら

「僕が松田 啓介でいると人が死んでいくのかな…」

「そんな…思い詰め過ぎですよ…」

「そんなこと無いです!何言ってるんですか?」

名城が駆け寄り松田の肩を撫でた

「ありがとう……でもなんかやっぱり疲れた…」

「諦めるなんてらしくないっすよ」

「……」

「そうですよ、弟村さんの言う通りです」

「……君達にクイズだ」

「は?」

「え?」

2人は驚きお互いに顔を見合わせると松田が続けた


「今、僕の気持ちを正確に当てたら僕は松田 啓介としてこれからも生きていくよ、外れたら…まぁそんとき考える」


「そんな簡単に心を当てるなんて…」

「椿ちゃん、これは言葉遊びみたいな物だ、答えはさして重要じゃない…答えたあと「何故そう答え、そしてどうなるか?」を相手に証明して正解なんだよ」

弟村は両手を組みブツブツ何かを言いながら考え出した


「…君ちょっと怖いよ?独り言やめなよ」

弟村が両手叩き目を見開いた

「あ!分かった!社長は今「名前を変えよう」と思ってますね?!」

「それはどうしてそう考えたの?」

「いいですか?社長がもし名前を変えようと考えていたなら俺の答えが正解、だから社長は今の名前でやっていくんです。逆に俺の答えが間違っていたら社長は「名前を変える気はない」って社長は思ったって事ですよね?!」

「僕が全然違う事を考えていたら弟村君の論理は不成立だよ?」

「こういう禅問答的な事を俺たちに聞く時もう答えは出ているし俺らが間違えても必ずこの論理証明へ誘導します、アナタはそういう人です、これって『Quod Erat Demonstrandum』QEDって言うんですよね?」

弟村の説明に名城は1人で考えていたのかハッと気付き手を叩いた


「プッ!アッハッハッハッハッ!何ドヤ顔で言ってんのよ!あー笑える!アハハ!ドヤ顔キモっ!ヒーアハハ!」

弟村の答えに松田は腹を抑えて笑った

「ちょっと茶化さないでくださいよ!」

「茶化してなんかないよ」

「じゃあどうなんです?ホントの所は!」

「それじゃQED不成立だよ、少し足りない。残念だったねぇ〜弟村君」

「いや、私も弟村さんの答えが正しいと思います!これ以外ないです!」

「なになに、椿ちゃんまで」

「じゃあ何が足りないんです?」

少し間を置いて松田が答えた


「君達と出会えた事は僕にとって幸せだなぁって思ったんだよ、この名前にならなきゃ椿ちゃんにも弟村君にも会えなかった。それだけで価値があるよ、だから僕はこれからも松田 啓介として生きていくよ、だからこれからもよろしくね」

「こちらこそ、これからもお仕えさせてくだはいね」

「こういう屁理屈言われたらたまんねっすよ」


そして3人はお互い見合って同時に笑った




ーーーーーーーーーー了ーーーーーーーーー


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歪なメビウスの輪の中で 乾杯野郎 @km0629

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