第5話

徳宮を門外まで送り斉木が運転する車は荒瀬が集めた兵隊と自身が集めた少数の傭兵との合流地点に向かった


「いよいよですね…」

「……嫌なら降りていいわ」

「降りるもんですか、俺が小谷を殺りますよ」

「無理しないでいいわ」

ハンドルを握る斉木の手に力が入り

「無理なんてしてないですよ」

「小谷は何考えてるかわからない…何かを感じてるかもしれない…私にはわかる」

車の窓の外の漆黒の闇にたまに現れる街灯を目で追いながら明莉は話を続けた

「ねぇ斉木?これって天命かしら…?」

「天命…?」

ため息混じりに明莉が

「はぁ…もう少し学をつけなさい…もういいわ」

ルームミラーを見ながら斉木は

「もしかしてまだ迷ってます…」

「……どうかしら…もう決心はしたのよ、でもなんていうか違和感というか…忘れて…どのみち今更止められない」


明莉と斉木を乗せた車の進む道はヘッドライトで照らされた暗闇の道

たまに照らす街灯を見ると明莉は決心が鈍ると思ったのかスっと目を閉じた


待ち合わせ場所には荒瀬が傭兵を連れて待っていた

「明莉さんの集めた人数と私が集めた人数でいけます、なーに直ぐに終わりますよ、こちらはプロですから。中の警備は何人程ですか?」

「門番2人と交代要員2人、玄関口に数名、リビング周り及び室内、中庭合わせて10人くらいだわ」

「こちらは我々を含めて11人、どうせチンピラに毛が生えた連中でしょうがこちらは人殺しのプロ…余裕ですね、早速ですが作戦はこうです。大前提として事を大きくしたくない、静かに早急に小谷を殺しましょう。まず警備スタッフの格好をした人間2人と明莉さんと斉木が邸宅の門番に「警備システムのエラーが出たので早急に調べてもらう」とか何とか言って門を開かせて下さい、中に入ったらこの警備スタッフが門番を片付けて邸宅との連絡システムを落とします」

明莉達は黙って聞いてた

「続けますね?そのまま玄関口の連中を処理後、明莉さんがドアを開け内部に侵入、護衛達を処分して小谷を殺害…」

「この時間よ、きっと寝室に居るわ」

「よーし説明した通りだ、小谷を殺ったらそいつにはボーナスも払う、だがくれぐれも音を立てるなよ!いいな!」

集められた傭兵達は黙って全員頷いた

「私からもいいかしら?荒瀬さん」

「どうぞ、今回の仕切りは貴女だ」

「目標…敵は小谷ただ1人、他は好きになさい!さぁ!行くわよ!」

その号令が終わると明莉の車の運転は斉木、助手席に明莉が座り警備会社の制服を着た傭兵が3人後部座席に座り、もう1台のワンボックスに荒瀬達6人が乗り込んだ

それぞれ黒の戦闘服にチェストリグ、それぞれに消音器を装着したMP7にハンドガンとナイフ、室内制圧用スタングレード等を装備、顔は口元を隠しコンタクトをして目薬をさした

これはナイトビジョンまでは及ばないが暗闇でも目が見える特殊薬とコンタクトレンズでこういった作戦では重宝するのだ

車が発進し2台は連なって小谷の邸宅へ向かった



時間は0時を回っていて敷地内は静まり返っていた、邸宅に近づくとまずは門

門には警備が交代制で張り付いていたが打ち合わせ通り

「明莉さんお疲れ様です、随分と遅かったので…」

「遅くまでお疲れ様、実は警備システムにエラーが出たって連絡を受けてね、事が事だから無理を言ってエンジニアを手配してもらったの。ここの詰め所もエラーが出てたからちょっと見てもらいなさい」

門番の2人は顔を見合わせそのうちの1人が

「…そんな話ありました?ちょっと邸宅に連絡を…」

と言い終わる前に警備スタッフに扮した傭兵がサプレッサー付きのハンドガンで車から門番の眉間を撃ち抜いた


プシュ!


「おい!なん…」


もう1人が胸の拳銃を抜く前にもう1人の警備スタッフが2発撃ち込み門番は事切れた


「排除完了、我々が警備システムを操作してきます、荒瀬さん達の車を中に誘導してください」

傭兵達は警備スタッフの制服を乱雑に脱ぎ詰め所のシステムを操作するため早足で音を立てずに詰め所のドアに近づき、ノブを回して室内に入る瞬間同時にもう2人が室内に侵入後、瞬時に詰め所で休んでいた交代要員を仕留めその合図を明莉に出すと明莉が荒瀬達のワンボックスカーを敷地内へ、荒瀬が降りて屋敷の詰め所を見た

「簡単でしょ?明莉さん?」

「こうも上手くいくとは」

「小谷もこんな感じで片付けましょう、さっさと」

撃たれて動かなくなった死体を明莉と最近が見つめていた

「傭兵のやり方を初めて見たけど…凄いわね」

「…これならやれますよ、明莉さん」

「これが「プロ」ですよ、ヤクザとは違う、小谷…おそるるに足らずです、さ!行きましょう。警備システムを全て落としておいてください」

無線で荒瀬が指示を出した

詰め所に入った内の2人が明莉の車に乗り込み邸宅へ向かった

邸宅に着く前にワンボックスカーから4人程降りて暗い闇に消えて行った

明莉の車が先導する形で玄関口に車が2台到着し明莉が車から降りると玄関先の護衛が

「明莉さんお疲れ様、こんな時間にどうされました?それに後ろの車は?」

「遅くまでお疲れ様、彼らは貴方達を労う為の人達よ」

「労う…?何を…」


プシュッ!プシュッ!


護衛の1人がそう言い終わる前に明莉が護衛を至近距離で撃ち殺したと同時にもう反対の護衛をワンボックスに乗っていた傭兵が撃ち殺した

荒瀬が無線で

「そっちはどうだ?」

イヤホンからくる返答に頷き

「中庭に侵入済、後は我々と同時に制圧するだけです、明莉さん」

荒瀬の提案に黙って頷き玄関を開け明莉達はなだれ込んだ





詰め所では傭兵が警備システムをダウンさせる操作をしていた、その頃撃たれた門番が息を吹き返し最後の力が振り絞ってポケットにあった小さな何かの装置のボタンを押した後事切れた




小谷の寝室ベット脇にあるスタンドビープ音を発生させながら点滅した

その音と光に小谷は飛び起き状況を把握、書斎の机のスイッチを押すと壁の1部がひっくり返ると中から銃器が現れ小谷はその中からストックレスのショットガンを手に取り弾を込めていると寝室前の護衛2人が入ってきた

「会長、今のは」

「何やってやがんだ!攻め込まれてるぞ!」

ガシャン!

装填したショットガンを構え部屋から出ようとしたので護衛の1人が手元の無線に喋りかけながらそれを止めた

「会長は出ないでください!おい!何が!おい!」

護衛の無線が全く通じない状況を

「そんなもん当てにしてんな!お前ら道具持ってんのか?!」

護衛2人が拳銃を見せると

「馬鹿!そんなじゃ小せぇよ!壁の好きなの使え!」

護衛2人が壁にあったMAC10を手に取りマガジンを装填、初弾を送り込むと階下から叫び声や何か物が倒れる音がした





玄関口から突入した明莉に無線が入る


ー目標に気づかれました、守りを硬められる前に強硬しましょうー


「小谷に…気付かれた?…もういい!好きになさい!」

明莉は無線を切ると手に持っていたM93Rを両手に構えながら突入した

「明莉さん!俺もいきます!」

斉木も明莉に続いて突入

それと同時に潜んでいた傭兵達も小谷の護衛に向かって発砲

護衛達も隠れながら発砲するも突然の奇襲と合わさり支離滅裂状態のままだった


「どうなってる!会長は?!」


パパパァン!


「ぎゃあ!」


パパァン!


「うぐぅ!」


グサッ


「ぎゃー!」


邸宅の至る所で響く護衛達の叫び声を口元を緩ませながら荒瀬は聞きながら傭兵の1人に話かけた

「楽な仕事ですよね?貴方達にしてみたら」

「…日本でガキみてぇな鉄砲ごっこして強いと勘違いしてるチンピラ共なんて大したことないな、こんなんで金もらっていいのか?」

「もちろん、取り決めどうり払うよ。最後の仕上げも忘れないで下さいね」

「あぁ…大丈夫だ、忘れてない」




寝室から1階に降りた小谷と護衛達は中庭から外に出ようとしたが傭兵達に撃たれて足止めされた

「クソ!なんだありゃあ!軍人か?!舐めんなよ!」

壁に体を引っ込めた相手を視認し壁越しで小谷が発砲した

ドォン!ドォン!


「ギャっ!」

壁越しの傭兵の左腕に直撃しそのまま左腕が吹っ飛んだ

「おらぁ!どうしたどうした!怖ぇのか?!」

ドォン!ドォン!

パパパァン!

パパパァン!

続いて護衛も牽制するように発砲

「中庭まで援護します!会長!」

「あぁん?!俺を誰だと思ってやがる!」

ドォン!

「おらぁ!どうした!クソどもが!俺の命が欲しいんだろう?ほらどうした!ビビっ……ん?光美…?!」


パパパァン


傭兵の弾を防ぐ為に壁に入る直前小谷を探していた明莉が一瞬目が合った

奥歯を噛み締めて力を込め


「小谷ィィィィィ!死ねぇぇ!!」

パパパァン!パパパァン!パパパァン!

明莉は叫びながらバースト射撃をしながら間合いを詰めたが小谷の護衛が反撃し明莉は物陰に隠れた



「会長!無駄に頭出さないで!」

「…明莉か…アッハッハッハッハッ!」

「会長…?」

バァン!

「こりゃ無理だな、逃げられんわ」

パパァン!

「クソッ」

「アイツらの欲しいのは俺のクビだ、俺が囮になってやる、お前ら…逃げろ」

パァン!

「そんな!俺達…」

「うるせぇな!」

ドォン!

「誰か残ってなきゃ結果わかんねぇだろう?いいか?俺が撃つから逃げろ!いいな!」

小谷がショットガンに弾を込めて乱射した

ドォン!ドォン!ドォン!

「行けー!」

護衛2人が中庭に向かって走り出した時


ドサァ!


2人いたうちの1人が後頭部を撃ち抜かれ即死だった


ドォン!パァン!ドォン!パパパァン!


銃撃戦のなか護衛の1人が中庭まで辿り着くのを見届けると小谷は武器をしまってある地下室へ向かう為にショットガンを撃ちながら進んだ

ドアに偽装した壁を開け中に入り鍵をかけ階段を降り小部屋に入ってショットガンを置き椅子に座った


「フー…酒も置いて置くべきだったな…さて…啓ちゃんはまだ繋がらねぇかな…」

小谷は自分の携帯を操作し電話をかけた


「繋がんねぇ…伝言残しておくか…」


「ーーーーー」


「さてと…もう1人…」

小谷は満足したのかニヤニヤしながらもう1人に電話をかけた




ブーブーブー

明莉の携帯に着信が入った

見ると表示には

「小谷会長」

と表示されていた


「…もしもし…そこまで逃げて助かりたいの?!お前は!」


ー光美…欲が出たのか?ー


「…えぇ」


ーいい事だ、欲が無きゃいけねぇ…ー


「お前のクビが欲しいの、早く出てきなさい!」


ー大事な事を教えてやる、欲に忠実に生きる事は間違いじゃあねぇ。でもな?てめぇの欲を満たすのに他人の意見はいらねぇし余計な感情もいらねぇんだ…てめぇ…誰に唆された?ー


「……」


ー図星か…まぁいい。でも1つだけ聞かせろ、俺を納得させられる答えを出せたらすぐにお前の前に出ていってお前の弾を俺の脳天に叩き込め…でも他の奴らはダメだ!お前を唆した奴に撃たれるのとつまらぇ答えだけは勘弁だー


「何…?」


ー察しのいいお前だ、神輿にまでなって俺を殺したい理由はなんだ?ー


「……都合良く使いに使って私を捨てた…散々身体を使わせて…絶…」


ーダメだダメだ…お前つまらねぇ女になったなぁ…いいか?殺してぇって感情に余計なもん乗っけちゃダメだ、覚悟が減る。どとのつまりお前は殺意に恨みを乗っけただけだ、しかも恨みなんて1番いらねぇ感情だ…恨みを晴らした後、人間は満足しちまう。そうなると途端に虚しくなるんだ…まぁいい、そんなつまんねぇ女に俺のクビは渡せねぇな!最後に教えてやる!死にたくなかったらすぐにここから出ろ!じゃあな…楽しかったぜ、いい女になれよ!ー


電話を着られ明莉は何かに気付いた


「斉木!荒瀬!全員すぐにここから出て!」

荒瀬が不思議そうに明莉を見た

「なぜ?小谷を探すだけじゃないですか?」

「ダメ!ここは爆発する!あの人ならそうする!早く!」

「各員すぐに出口に走れ!」

荒瀬の号令に明莉や斉木、傭兵達が玄関口に走って向かった



「……もう少しだったのにな…まぁ好き放題やれた人生だった!悔いはねぇ」

小谷は自身と明莉、柴山、丹野、滝、羽村達で酒を飲みながらみんな笑顔で写っている写真を見ながら

「じゃあな…」

とつぶやき写真を置いて何かのスイッチを押した


カチッ


ドォォォォォォォォォォン!!!


明莉達が玄関から出た直後に建物が爆発した


燃え盛る小谷の邸宅を呆然と見つめる明莉に

荒瀬が話しかけた


「計画通りにはいきませんでしたが、小谷は死んだ。これで良かった…なぜ泣いてるんです?明莉さん」

「……」

何故が明莉の目には涙が溜まっていた

目を袖口で拭き荒瀬の方に明莉が身体を向けると


プシュッ!


「え…」


プシュッ!プシュッ!


「あ……」


荒瀬が発砲し明莉が膝から崩れ落ちた


「明莉さん!てめぇ!何を!」

斉木が明莉を支えようと近寄った時

「おっと…動くなよ」

傭兵の1人が斉木に銃を向けた

「…なんで……荒…」

血を吐きながら明莉が口を開いた

「貴方はいい神輿でした、でも小谷を殺したとなると流石に強いものに従う執行部も納得しない、なのでお前に全部お前に被ってもらう。そしてその主犯を私が仕留めた、それを手土産にそのまま小谷のグループに入る。どうだい最高のシナリオだろう?」


「……ク…そ…」


ドォン!


邸宅が崩れ落ちた音に全員が反応しそちらに視線を向けた瞬間、斉木は車まで明莉を引きずり身を隠した


パァン!パパァン!パパァン!


「おい!逃がすな!」


「ハァ…ハァ…斉木…逃げて…貴方だけでも…」

「明莉さん!一緒に!」

「無理よ…肝臓…撃たれた…も…長…ない」

明莉が最後の力を振り絞って立ち上がり両手の銃を荒瀬達に乱射した

「斉木…逃…!げ…」

「明莉さん!明莉さん!ダメだダメだ!」


パパァン!パパァン!


荒瀬達が反撃して明莉が血しぶきを上げながら気力を絞って斉木の車を守るように立ち続けた

それを見た斉木は車のエンジンをかけ急発進


「逃がすな!撃て!撃て!」


荒瀬の号令に傭兵達が斉木の車のを乱射

銃弾の雨が斉木の車を襲い操作不能になったのか門まで続く道のガードレールを突き破り崖下に落ちて行った


「フン、手間かけさせて。さて我々も東京に戻りますか…」

荒瀬達は車に乗り込み燃え盛る邸宅を背に車を発進させた



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「平日のこの時間だと厚元湘南道路は混まずに来れたので貰った住所にはもう着きますよ」

ハンドルを握った弟村が名城に言った

「警察無線傍受やNシステムの検知までできるって…やっぱりあの人の下準備は凄いですね」

名城も関心しながら続けた

「でも1番は弟村さんの運転テクニックですよ、凄いですね。スピード出してるのに全然怖くなかったです」

「いやいや、この車がとんでもなく凄いんですよ」

「そんなに謙遜しないでも」

「ん?山の上…燃えてません?!」

道の先の山から煙と火が上がっていた

「弟村さん!この先ですよ!急ぎましょう!」

「山道上がるんで少し無茶します!怖かったら行って下さい」

そう言うと弟村はギアを1段上げオーバーレブしない位置までエンジンを回しギアチェンジ後右カーブに車を左に向けた直後に右にステアリングを切って横滑りのままキツい右カーブを上がって行った

いくつかのカーブを抜けると途中でワンボックスカーとすれ違ったが今は小谷邸宅に向かうのが先と考えとにかく先を急ぐと邸宅の門に着いた。

車を止め2人は警戒しながら門に進むと遺体が2つあった

名城と弟村はお互い見合って首を横に振り詰め所まで進みアイコンタクトをして2人同時に詰め所に入るとまた遺体が転がっていた

「誰かが警備システムをダウンさせたみたいですね…」

操作パネルを弟村が調べていると

遺体を調べた名城が

「これはプロの仕業ね…さっきのもそうですけど…ん?この人何が握ってる」

「名城さん邸宅に行きましょう」

2人は車に戻り邸宅に向かうと2人が想像した通り邸宅は燃えていた

「間に合わなかったですね…」

「……えぇ……」

2人は拳を握った

「生存者がいるかもしれない、探しましょう」

弟村は邸宅の方へ、名城は反対を探していると門へと続く道のガードレールがひしゃげてる所を見つけ名城が崖下を除くと下で車が燃えていた

名城は首を横に振りながら弟村の方へ向かおうとしたその時

「…だ、だれ…か…」

小さな声がした方を向くと血を流した男が木の所に捕まっていた

「弟村さん!こっち!生存者がいます!さっ手を伸ばして!」

名城が伸ばした手を男が掴んだ時に弟村も駆けつけ2人で男を引き上げだ

男は頭から血を流し肩に被弾、満身創痍の男が小さい声で

「…明莉さん…明…はぁはぁ…」

「喋らないで!斉木さんですよね?何があったんです?!弟村さん!救急車呼んでください!」

「荒…達が…小谷さん…を…俺も……バカだった…」

と言い残し気を失った

「あっちには明莉さんの遺体が…酷い状態でしたよ…蜂の巣でした」

「斉木さん酷い傷…それにこの燃え方…爆発?」

「もしかしてさっきのワンボックス!」

「追いかけようにも…考えろ、考えるんだ…」

「弟村さん…?」

弟村は何か思いついたのか電話をかけた

「もしもし、弟村です!間に合いませんでした……えぇ……えぇ…はい…金は払いますからここから1番近くに漁船以外の船が停泊できるような所ありませんか?……はい…はい…え?!いいんですか?!ありがとうございます!よろしくお願いします!それでは」

「弟村さん、今の涼木さん?」

「ええ…小谷さんは間に合わなかったけど…絶対に主犯は逃がさない、陸路だと万が一追手に捕まると面倒だ、社長ならどう逃げると考えたら船が使うのがベストかな?と。ここから近くの港を涼木さんに聞いてみたんです…あ!きたきた。ここの処理は地元の消防と警察に涼木さんから連絡してもらいました。後は…ここから先は俺一人でも行きます。名城さんが嫌だったら…」

名城が軽く弟村の肩にパンチした

「ここまで来てそれはないでしょ?私も絶対許さないです、また車の運転お願いします」

「下りだから上りより速いっすよ!さぁ乗って乗って!」

2人は車に乗り込み弟村はエンジンを吹かして急発進した



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「静岡に入った、もうすぐ高速降りてすぐに着くわ」

運転席の女刑事が声を張った

「てぇー事はさ?全部その荒瀬って奴が小谷の所の女を唆して小谷を殺すついでにお前も狙われたって事か?」

助手席にいた女刑事が後ろで座っていた松田に事の顛末を聞いていた

「その逆だよ、僕に復讐するために小谷君の所の明莉君を使って理由を作った。明莉君に小谷君を殺させる、荒瀬君は僕を消すというウィンウィンの関係を刷り込ませたんだ。荒瀬君が僕を標的にしなければこんなことには…」

「そんなに恨まれて…貴方は一体荒瀬に何をしたの?」

運転席の女刑事がルームミラーをみながら松田に問うた

「…それなぁ…察しはついてるんだけど…君たちにどう説明すれば…」


ピーッピーッ!


警察無線が鳴り助手席の女刑事が応答した

「どうもっす、部長っすか?」


ー部長って誰だよー

女の声だった


「お前誰だ!」

「あ!この声!君の瞳に恋してる!これでいい?」

松田が後部座席から身を乗り出し応答した

「てめー何…」


ー正解、そこにいる松田に残念な知らせだ。小谷邸宅で火災だと。通信を聞いたけど明莉 光美と思われる蜂の巣になった女の遺体を始め焼け焦げた遺体複数、小谷と思われる遺体は発見されてない。どうやら建物が爆発したみたいだ。それと斉木ってのが重症だけど搬送されたみたいー


「そっか…やっぱり間に合わなかったか…」

「おい!何勝手にこの周波数使ってんだよ!誰かわかんねぇがしょっぴっくぞ?!」


ーご心配なく〜アンタらに捕まる程アホじゃないよ〜、後アンタのお気に入り達も荒瀬を追ってるみたいで荒瀬が行きそうな場所を教えといた。この貸しは高いよ〜ー


「ちょっと!2人を巻き込まないでよ!」


ー勘違いすんな自分らで決めたんだよ、あの二人は。尊重してやんな、ほら一美港に急げあっちの方が先に着くぞ〜ー


ブチ!


「貴方たち勝手に警察無線使って…」

「仕方ないじゃないか、僕は今連絡ツール何も持ってないんだから」

「ていうか港?!なんで港?」

「万が一情報が漏れて陸路でかち合うと面倒だ、一美港から神奈川に出て陸路を使えばかち合う確率が低くなる」

松田は一通り喋り終わると後部座席に背をもたれ定期的に設置されている街頭に目をやり

「もっと早く行動してれば…な」

車内に重い空気が流れた

「私らがアンタを引っ張らなかったら…」

「いや、君らのせいじゃない。因果応報…全ての事象は因果で結ばれている、こうなったのは全て己の責任さ」

「でもあなたを拘留しなければもっと自由にアナタは動けて調べられたわ…上の命令とはいえ」

運転席の女刑事はルームミラーに映る松田の目を見ずに言った

「それはタラレバの話だよ、僕は君達を責める気はないから。さて切り替えていこう、港で奴らを逃がすと次は難しい、だから必ず抑えないとね」

「相手は何人くらいなんだ?」

「そんなもん知らないよ、ただ荒瀬君はプロを雇っているはずだ。一筋縄ではいかないよ」

「プロ?」

「傭兵だよ、東西統一時に幕府軍から抜けたやつとかは傭兵をやってるって聞く、そういった類の奴らさ、君達がどれだけの実力か知らないけど今度の相手は「人を殺す事に躊躇が無い連中」って事を肝に銘じて欲しい。その上で聞くけどこのままやるかい?」

「あたりめーだ!悪党にはワッパをかける!それがウチらの信念だ!なぁ?」

「そうね、どんな奴でも悪党は許さない」

「…君達の事好きになりそうだ…カッコイイね、ヒーローみたいだよ」

「茶化してんじゃねぇ!」

身を乗り出して松田を叩いた

「痛!乱暴やめてよ」

「お前…さっき渡した防弾ベスト着たか?」

「うん、着たよ」

松田が答えるとダッシュボードからHK45を出してマガジン3つを松田に渡した

「警察が僕に渡していいのかい?」

「丸腰じゃ危険過ぎるわ、護身用よ、それに私達じゃそれ大きいのよ」

高速の出口にハンドルを切りながら刑事は言った

「有難いけど…僕銃は苦手で…」

「当てなくていい、私らが何とかするからアンタは持ってろ」

松田は銃にマガジンを争点してスライドを引いて装填、セーフティを掛けて腰のベルトに挟んだ

「苦手な割には綺麗につかえてるじゃねぇか」

「まぁ…人並みにはって感じだよ」

車を路肩に止め運転席の女刑事が後ろを振り向きながら

「もうすぐ港に着くわ、どうするの?」

「作戦なんて呼んでいいのか分からないけど奴らは今移動する事に神経を尖らせているからね、僕が荒瀬君を見つけて揺さぶってみる、おそらく荒瀬君はすぐに僕を殺さないよ、その時周りから出てくる連中が見えたら君らが突っ込んできて…感じかな」

2人の刑事が目を合わせて言った

「なんか行き当たりばったりね…アンタと組んでから」

「それはこっちのセリフだ!」

「今から仲間割れしてどうするのよ?ほら」

松田が右手のひらを出した

「今は3人でやるしかない…約束して欲しい、君達は絶対死ぬな、ヤバくなったら逃げろ!いいね!」

今までヘラヘラしていた男が急に軽薄さを止めた事に圧倒されてたが

「民間人守んのもあたし達の仕事だ、バーロゥ」

「アナタこそ無茶しないでね」

3人は手を組み合わせお互いアイコンタクトをした






丁度荒瀬達ワンボックスカーが港に到着した時で

「荒瀬さん、海路なんて本気ですか?」

傭兵の1人が尋ねた

「あぁ、万が一他の小谷の連中が追ってきた場合陸路だと面倒ですからね、誰も海路を使うなんて思ってませんよ」

「まぁこっちとしては安全に神奈川に行ければそれでいいからな、あんたに任せるよ」

ワンボックスカーから傭兵達が降りて戦闘服を脱ぎ軽く着替え荒瀬と共に船へ向かうと

「この車の処理は?」

「吹っ飛ばすに決まって…」




「おーーーい!荒瀬くーーん」

その声の方向を全員が見ると松田が明かりの下にいた

「松田…どうして?!」


「さぁ…どうしてだろうねぇ…君が納得しそうな理由…知りたい?」


「あぁ是非教えてほしいものですね」




「決着をつけよう、荒瀬 村邦。僕はそのためにここに来た!絶対に君を逃がさない!」


広い港に松田の声が響き渡った





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