第2話
声のしたほうへ向かうと、齢15,6程度の少女が、路地裏で3人のガラの悪い輩に囲まれている。
「なぁねーちゃん、いいじゃねぇか。俺らと一緒に遊ぼうぜ?金あるしさ、何でも奢ってやるよ」
「やめてください…私、家に帰るので…」
「いーじゃん!あ、じゃあキミの家に行こうよ!お友達とかも呼んでさ~パーっとやろーよ!」
「そんな、困ります…ほんとにやめてください…!」
「困んないでよ~マジでさ、俺の親父、警察のお偉いさんでさ、金とか滅茶苦茶あるんだよ。好きなもんなんだって買ってやれるぜ?」
どうにも友達同士でおしゃべり、という風には見えない。
気づけばゼロは少女を囲む男たちのもとに歩み寄っていた。
なぜだか分からないが、この少女に強力な縁を感じ、今ここで話しかけねばならないと思ったのだ。
「おい」
ゼロが一人の男の肩をつかみ、ぐっと力をこめる。
肩をつかまれた金髪の男が振り返り、ゼロを睨みつける。
「なんだ?お前?」
「別に貴様に用があるわけではない。そこの女性に話がある。」
「んお~?なんだお前、王子様気取りかぁ?けっ、気色わりぃ、ガキはさっさと帰んな!」
男がゼロに殴りかかる。
ゼロは片手をあげ、男の拳に込められた能力を無効化しようとするが…
ガッ!――
振りかぶった拳がゼロのこめかみに直撃した。
「なっ…また無能力者…?あんなに大仰な動きで、ただの打撃だと…?」
能力を無効化すれば男の攻撃など食らうはずもないと思っていたゼロ。
頭から血がつぅっと垂れる。
「ギャハハハ!なんだお前、弱すぎんだろ!ケンカしたこともねぇくせに俺らの邪魔しようとしたのか?」
「無能力者だってよ!女の子守ろうとして何もできないお前のほうが無能じゃねぇか!」
「というかなんだその服装?黒いコートと手袋って、コスプレオタクかよ!無能のオタクって、救いようないな!このゴミクズ!」
ゼロを口汚く罵る3人の男たち。
元々彼は体術が得意ではなかった。そんなものを使わなくても、敵の能力を無効化している間に部下が殲滅する。
戦闘のすべてを能力に依存している世界で戦ってきたゼロにとって、無効化の力が最強の防衛手段であり、攻撃方法だった。しかし――
「無能か…あながち間違いではないか…。剣術どころか、こんな軟弱な男どもの殴打も処理しきれないとは、俺の怠慢だ…」
「こいつ今俺たちのこと今ディスった?おい坊主、今なんつった?」
金髪の男とその仲間たちがゼロの胸ぐらをつかみ、再び殴る。
「やだ!お願いもうやめて!誰か!助けて!」
少女が必死に叫ぶが、男は無慈悲に笑う。
「無駄だよ~。さっきも言ったろ、こいつの親父さんが警察の偉い人なんだよ。つまりこの町で俺たちが何をしようと、だぁれも助けに来てくれないし、警察も手出しできないってわけ。」
「…ほう?」
一瞬、ゼロが目を光らせたが、男たちは気づかない。
「今までいろんなことしてきたけど、何もなかったしなぁ!」
「ま、そういうこと。だからおとなしく俺たちと一緒に遊ぼうね~楽しいこといっぱい教えてあげるからさぁ~」
下卑た声で少女を口説く男たちが、少女の腕をつかみ、強引に引っ張る。
その時、複数人の警察が駆けつけてきた。
「キミたち!そこで何をしている!」
「ちっ、サツかよ…まぁ関係ないけどな。」
「ああ、この町の警察なんて、全員俺らの言いなりだ。」
再び邪魔が入ったことに苛立ちながら、男たちは警察のほうを向く。
「何もしてないっすよ~てか、おにーさんたち何様っすかあ?俺の親父、警視庁の長官?かなんかなんですけど~。新島健太郎って名前、知ってんだろ?」
「下手なことしてっと、クビになっちまうぜ?ほら、分かったらさっさと帰んな!」
そう言って男たちは警察官に唾を吐きかけ、どうせ何もできまいとばかりに蹴りつけてみせた。
しかし、その当ては外れた。
「はい、公務執行妨害ね。」
警察官はすぐさま男たちを取り押さえ、手錠をかけた。
「…っな!?何してんだ!?話聞いてなかったのか?クビになんぞてめぇら!」
警察の予想外の行動に、悪態をつく3人。
すると、頭から流れる血を鬱陶しそうにぬぐいながら、ゼロが立ち上がった。
「権力系…親のコネか。本人にはなんの力もないが、身内の威光で好き放題する下賤な輩はどの国にもいるものなのだな。だが、俺にはそんな能力は効かん。」
「は?なに言って…」
「親の権力だのなんだので今まで暴れまわっていたのだろうが、もうその効力はないと言ったのだ。俺の無効化能力によってな。…夢幻のゼロ、と言えばわかるか?」
「はぁ?むげんのゼロ?なんだそりゃ?」
「…ふむ、わからんか」
不良達も含め、その場にいた全員が自分の名を聞いても反応がないことを確認し、なにやら推理を巡らせるゼロ。男達を組み伏せていた警察が話始める。
「お前の父親がドラ息子のやんちゃを圧力かけて見逃してきたのは事実だが、さすがにもう庇いきれんとなったんだよ!
今までよくもまぁ滅茶苦茶してくれたもんだが、ここらで年貢の納め時だ。きっちり今までの罪も償ってもらうからな!」
「まずは署に連れていく。さぁ、おとなしくついてこい!」
そういって警察官は抵抗する3人をパトカーに連行していった。
「君、大丈夫かい、うわ、血が止まってないな。」
街を困らせていた不良どもを車に押し込めた後、若い警察官がゼロの傷の様子を確認しにきた。
「たいしたことない。そのうち治る。」
「ダメだよ!早く手当てしないと…!」
少女が警察官の後ろからさっと顔を出し、ゼロの額にハンカチを当てた。
「そうだ、私の家に来て。ここから近いし、応急処置くらいならできるから…」
「必要ない。医療行為は俺に効かん。」
「…え?」
「それに、あの3人を家に連れていくことを拒んでいただろう。ならば俺も同じように家に上げないべきだ。」
「いや、それは…」
二人の様子を見た警察官が、ふっと頬を緩め、少女の肩をポンとたたいた。
「じゃあ、僕はいくから、あとは任せたよ。ちゃんと手当てしてやってくれ。一応病院にも診て貰うと良い。」
「は、はい!わかりました!」
「いや、必要ないと言ってるんだが。」
そうゼロが言い切る前に、警察官はパトカーに戻って行ってしまった。
でぃすあび!能力無効化系能力の俺が転生した世界に能力者がいないんだが モモタロー! @AZmomotarou
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