第1話
農民も貴族も兵隊も、その種類や練度に差はこそあれど、人は皆、様々な能力を駆使して生きている。
ここで言う能力とは、技能や知識といったものではない。
氷や雷を操るエレメント能力や、物体浮遊や瞬間移動を可能にするサイキック能力。
この世界の人間には、生まれながらに特殊な能力が備わっていた。
スコット王国。
大陸エウロパから少し離れた場所にある、海に囲まれた巨大な島国であるこの国は、世界中の国家のリーダーとして数百年繁栄してきた。
しかし今、スコット王国は魔王エンペリオの侵攻によって存亡の危機にある。
魔王の狙いは、世界の主権者とも言えるスコット王国の実権を握り、全世界の支配権を掌握すること。
その目的を遂行すべく、魔獣や手下の兵士を送り、確実にスコット王国を弱体化させていた。
しかしそんな魔王の侵攻を、王国も大陸の国々も黙ってみているわけはない。
打倒魔王を掲げ、あらゆる戦士や勇者が遠征に出た。
しかしその勇敢な若者たちは、旅立って一年と立たぬうちにその命を落とすか、魔王軍の前になすすべなく絶望し、敗走することになる。
圧倒的な魔王軍の強さを支えるのは、数千いる魔王の手下の上に立つ最大幹部、四帝の存在だ。
その四帝の一人であるゼロは、相手の能力を無効化する力であらゆる勇者たちを倒してきた。
しかし今、能力に頼らない、純粋な剣技と体術で魔王に挑む勇者、エースが現れた。
(ああ、俺もここで終わりか。筋力だけが取り柄の無能力者にやられるとは。
今までさんざん能力依存の馬鹿どもを手にかけてきたが、結局俺自信も能力にかまけた愚か者だったというわけか。
しかし、この時勢においても腕力と剣一本で魔王に挑むなどという馬鹿がいたとは…)
ゼロの剣が、エースにより真っ二つに折れる。その記憶を最後に、ゼロはこの世界から姿を消した。
「…なさい。」
「なんだ、この声は…?誰だ、お前は…?」
白い光の中で、誰かの声が聞こえる。
あたたかい。女の声だろうか。
「…しなさい。あなたにしか、なしえぬことなのです。」
「俺にしか…?」
夢見心地だった。ゆったりとした時間の中にいて、何をするでもない、何もしなくてもいい感覚。
しかしその感覚は、やがて光が薄まっていくと同時に、ゼロの心から消えていった。
目を覚ますと、そこは見知らぬ土地だった。
天高くそびえる四角い建造物がいくつも並び、その下を無数の人間が歩いている。
人間たちは皆、見たことない装束に身を包んでいる。
いるのは人間だけではない。牛よりも大きな、車輪がついた角ばった箱のようなものがひとりでに走っている。
「なんだ、ここは…?」
やけに空気が煙っぽいが、見る限りかなり発展した街のようだった。
往来の人の数とその喧騒は、ゼロが体験したことのないものだった。
スコット王国でも大陸でもない、ここはいったいどこなのか。
その時、遠くで女性の叫び声がした。
なぜなのかはゼロ本人もわからない。
しかし、叫び声を聴いた彼の体は、その声のする方向に走り出していた。
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