でぃすあび!能力無効化系能力の俺が転生した世界に能力者がいないんだが
モモタロー!
プロローグ
無幻のゼロ。それが彼の異名だった。
四帝の1人にして、あらゆる特殊能力を無効化することが出来る。戦闘方法を能力の使用に依存してきた勇者たちにとって、ゼロの力は凶悪だった。
力を封じられ何も出来ないうちに、ゼロが手を下すまでもなく、その部下や放たれた魔獣たちによって殲滅される。抵抗の術はなかった。
そして今日もまた、ゼロによって朽ちゆく運命と戦う者がいた。
フードがついた、水色のローブを着た彼女の名はテティス。水属性の能力を操る魔女だ。
「ゼロ…!今日こそお前を倒す!燃やされた私の故郷の恨み、ここで果たしてやるッ!」
「…覚えがないが、まぁいい。やれるものならやってみろ。この俺に、お前たちの能力の一つでも届いたらの話だかな。」
「だまれっ!その減らず口もここまでだ!くらえ、ハイドロショットォォ!」
テティスが杖をふるうと、その先から樽ほどの大きさの水球が発生し、ゼロに向かって放たれた。
「エレメント能力か。水風船であれば柄があって幾分か面白いがな、ただの水の玉になんの価値がある?あと、なんだその名前は。」
そう言いながらゼロが飛沫を上げながら迫りくる水球に向けて手をかざしたかと思うと、
次の瞬間、水球が一瞬で消えた。
「そんなっ…!?」
「ふん、お前たち、やれ。」
ゼロに命令された部下の兵士達が、待っていましたと言わんばかりに剣だの槍だのを掲げながらテティスに向かっていった。
「くっ…!魔王軍の卑劣な男どもが…っ!近づくなぁ!」
テティスは必死に抵抗すべく水の渦で壁を作り出すが、ゼロが手を払うようなしぐさをするとすぐに消えてしまった。
防御壁を失ったテティスの背後から、ゼロの部下が毒の瘴気をまとった刀で彼女に斬りかかった。
「がはっ…!貴様、貴様ぁぁぁっ!」
恨めしそうにゼロを睨みつけるテティスだが、足に力が入らない。
がくっ、と片膝を地に着くテティスに、兵士の剣が振り下ろされる――
「そこを、どけぇぇぇ!」
大地を揺らすほどの轟音で叫びながら、真紅に燃える炎の鎧をまとった巨漢が空から落ちてきて、魔女を斬ろうとしたゼロの部下に殴りかかった。
「アクセル!どうしてここに!?」
「エースに聞きな!ひとりで勝手にゼロに挑んでいったお前さんを、あいつが必死になって追いかけてたんだよ!どうしてだろうなぁ!?
おらっ!どけ雑魚ども!」
アクセルと呼ばれるその男が兵士を殴るたび、豪快な衝撃音とともに拳から爆発が起こった。
「炎系のエレメントか…?鎧に色々仕込んでいるのか。暑苦しい。」
ゼロの注意が一瞬逸れたのを見計らい、物陰から白の装束に身を包んだ僧侶が現れた。
「テティスさん、じっとして。今、回復魔法を使うから…!」
「ペネロペ…!ごめん、ありがとう…。」
「まったく、後で皆さんにちゃんと謝ってくださいね。アクセルさんもエースさんも心配していたんですから。」
そう言って細い杖を取り出す僧侶――ペネロペが、テティスの毒を抜くべく傷口に向けて魔法を発動する。
しかし―
「効かない―どうして…きゃあ!?」
ペネロペの存在に気付いたゼロの部下が、彼女の髪をつかみ投げとばした。
「回復能力の使い手か。だが、俺の前でその力が満足に使えるとは思わぬことだ。それ、お前達、さっさととどめを刺せ。」
「させるかぁぁ!ペネロペ!テティス!今助ける!!!」
爆炎を纏ったアクセルが、兵士に向かって突進する。地面を踏み込むたび脚で爆発が起こり、ぐんぐんとスピードを上げる。
しかしゼロがアクセルの方に手をかざし、グッと拳を握ると、鎧から出ていた炎が消え、突進の勢いも衰えた。
速度を失ったアクセルに、兵士が槍を突き刺す。
「がはッ…、しまった…っ!」
「暑苦しいのは嫌いでな。少し頭を冷やしてくれ。…ああ、それと、その胸につけてる装置もな。」
「装置…まさかッ!アクセルさん逃げて!心肺動力装置まで止められてしまっています!あれが動かないと…!」
「逃げろなどと可愛そうなことを言ってやるな。そいつは近頃大陸で流行っているという、鎧に内蔵された装置を心臓の代わりとして稼働させる機械だろう?だがそれが止まった今、どうやって逃げろというのだ?息をするのもやっとだろう!
なかなか珍妙なからくりの鎧で面白いとは思うが、動かなければどうということではない。
さぁ兵士達よ、インペリオ殿のため、この者どもを始末しろ!」
ゼロの言葉に反応した兵士達が武器を掲げ、三人にとどめをを刺そうとする。
「だめ…こんなところで死ぬわけには…!」
その時、空を切り裂く斬撃が兵士を襲う。
鎧を纏い、大剣を背負った姿は鬼神の如く。
勇者だ。
「エース…!」
息も絶え絶えになりながら自分の名を呼ぶテティスを見て頷いた後、大剣を振い、勇者エースは兵士達を薙ぎ払っていく。
「主人公のお出ましとでも言いたいのか?くだらないな。」
ゼロがエースに向かって手をかざす。が、何も変化がない。
「なんだお前?何を使っている?風のエレメントか?加速魔法か?」
「…なにも。なにも、つかっていない。この一本の剣が、私の力!」
「な、つまり、無能力者だというのか…!?」
エースの剣には、なんの特殊能力も使用されていなかった。ただあるのは、鍛え上げられた肉体と技術のみ。
しかしあらゆる人間が能力を使用して生きるこの世界において、能力がないということそのものがあり得ない存在だった。そんな存在がここまで生きていられることもまた、ゼロにとって、この弱肉強食の世界にとって信じられない出来事であった。
「がはッ!はぁ、はぁ、はぁ、エース、すまない…!」
ゼロの無効化による動力装置の制限が解けたアクセルが、息を荒げながら立ち上がる。
「いや、遅れた私が悪い。アクセル、ひとまずペネロペとテティスを連れて安全な場所へ。
…ゼロは私が倒そう。」
「…ああ、頼んだぜ。」
そういって拳を合わせた後、それぞれ走り出す二人。
槍や刀で応戦する兵士を、エースが瞬く間に斬り捨てていく。
「これだから暑苦しいのは気に入らないんだ…!」
わなわなと唇を震わせるゼロだが、エースは止まらない。
全ての兵士を倒し、ゼロに向かってぎろりと睨みつける。
「言いたいことはそれだけか?」
「この無能力者が…!」
ゼロに一瞬で詰め寄るエース。大剣をかかげ、勢いよく振り下ろす。
ゼロは腰に差した剣を抜き、受け止めようとするが――
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