ウィルの王城。
「そう言えば、武器が先じゃなくて良いのか?」
「……いいよ、お昼まで待ってたら失礼でしょ」
「それもそうか」
―――遺跡に入る前に一度謁見しろ。
それだけしか言われていないのだが相手は王だ、早く行くに越したことは無い。
「おはようございます、お出かけですわね」
「おはようございます、えぇ、これから王城へ」
「でしたら国内馬車を手配致しますわ」
街中を走る馬車となると思い出すのはコルケのことだ。
「国内馬車……あぁニコがやってやつか」
「そうですねっ! これだけ大きな国ですと馬車も必要になってくるかと」
丘の上からこの国が大きいのはわかっていたので、確かに馬車がなければ移動もままならないのだろうとエスは納得する。
「なるほど、馬車の手配をしてくれるのは助かる……一応聞くが値段は?」
ただこの場合気になるのは値段である。今エス達は小金持ちと言えるぐらい資金は潤沢だが、それを知られてる相手にぼったくられる可能性がある。お金を持っている時は、お金が無い時とは別の理由で慎重になるべきである。
「一日の契約で銀貨二枚ですわね」
「さすがに安すぎるな、これも特等級の特典か?」
「えぇ、月ごとに契約をしてまして、その分一回の使用量を安くしておりますの」
組合と馬車会社は金銭での契約を結んでおり、月の初めに契約料を支払うことで格安で馬車を利用できる契約だ。一見すると月の料金に加えて追加の料金を支払うので損に思えるが、現状国内中の馬車が大蛇の運び出しに駆り出されてる中でも確実に手配できると言うだけでも十分なメリットになる。
「ちなみにチップは?」
「不要ですが渡したら喜ばれるかと」
「ふむ……わかった、よろしく頼むよ」
「では、手配を始めますね」
待っている間、テーブル席でドリンクを頼み、リラックスしながら待とうとした、そんな時だ。
「少々よろしいでしょうか?」
馬車への連絡が終わり、馬車を待つだけになったであろうギルド長、アンが頭を下げながら再びやってきた。
「……もう馬車が来たの?」
「いえ、昨晩のことでお話がありまして」
そう切り出されたヘルは無表情を装いながら、アンに返事をする。
「……問題になった?」
「いえ、大事には至ってませんので大丈夫ですし、何も聞きませんがお願いが」
「……なに?」
「大魔力を放出する際は、どうかギルドの一声おかけくださると助かります」
そう言ったアンからは少し疲れたような表情が読み取れた。
「……それはその…………すいません、気をつけます」
「こちらこそ、わかっていただけて
昨晩、魔力を感知したのはきっとエスだけではなかったのだろう。国を揺るがす可能性のある大規模な魔力量を感知した者は、発生源であるギルドに直接問い合わせに来たのだろう。
きっと止めようとしに来たものもいる。アンやギルドの職員たちはそんな者達の対応に深夜遅くまで対応していたのは想像に難くない。
「……もうよっぽどがない限り、大丈夫……です」
「それを聞いて安心致しましたわ、いえお話してくだされば大丈夫ですので」
さすがに申し訳なくなったのか、シュンとした様子のヘルに頭を下げてからアンは従業員用の通路に入っていった。
「まぁ、次から気をつけたら大丈夫だ」
「……そう、だね」
今回に関しては、何が起こっているか隠したかったという事情はあったのだが、それでも魔力が溢れ出すという現象自体は隠せるものではないので、それだけでも伝えておく必要があった。
ただそれだけの事なのだが、人に迷惑をかけてしまったということをヘルは気にしてしまっているようだ。
「馬車の到着です、お待たせ致しましたわ」
「……ありがと」
それから暫くして、馬車の到着をアンが伝えに来たので、彼女の案内に従ってギルドから馬車に移動して、一路王宮に向かう。
「結構良い馬車だな」
「……うん、観光用だね」
エス達が普段利用している馬車は屋根もあり、四方からの雨風を完全に防げるようになって居住スペースも最低限確保されている、いわゆるキャンピングカーに近いようなものだ。
対して今乗っている馬車は見栄えを重視し、どこからでも周囲の景色が見れるように作られた、街中だけを走れるようにコンパクトに作られた物だ。そのコンパクトさは狭い路地でもスムーズに進めるだろうが、舗装されてない道ではすぐに壊れてしまいそうである。
「やっぱり、コルケのと違って高級品ですねっ!」
ニコは馬車の運転手だけあって自分の馬車やコルケで運転していた馬車との違いに興味があるようで、内装や構造をじっくりといつもよりハイテンションで見ている。
そんな観光気分で揺られること一時間、国の中を移動するにしては少し長めだと感じつつも、王宮に続く縄文の前で馬車は止まった。
「すいません、馬車が許されてるのはここまでで」
「いえ、ありがとう……これを」
「おっと、わざわざすいませんね、それではここで待っておりますので」
「わかった」
気持ちばかりのチップを馬車の運転手に渡してから、城門の前で先程からずっとこちらを見ている守衛に軽く会釈をしながら歩み寄る。
「何用だ?」
「王様に呼ばれたのでお伺いしに」
「あぁ、旅人三人組が来ると聞いていたな、少し待て」
そう言って守衛が見張り塔にあるベルを押した瞬間だ。
「失礼っ!」
見覚えのある顔が城内から城壁の上を経由し、エス達の目の前に飛び降りてきた。
「リツさん、こちらの方々で間違いないですか?」
「相違ありません、後はこちらで引き継ぎますので」
「了解です」
守衛はそのまま頭を下げて元の位置に戻って扉を開ける。
「さ、参りましょう、自己紹介は道すがらでよろしいですよね?」
「……はい」
リツを先頭にして一行は少し迂回するようなルートを通って第二の門を通りそのまま大階段を登る、直進するだけでは入れない構造になっているのは、外敵を意識しての構造だろう。
「改めて先程は失礼しました、この城は歩いて降りると時間がかかりまして……落下しての登場はマナーが悪いとは思いますが、長く待たせるよりは良いので」
「いえいえ、気にしてませんよリツさん」
「おや……?」
歩きながらリツはエスを振り返る。
「名乗ってませんよね?」
「何度も呼ばれてましたので」
「あぁ、なるほど」
納得した彼女は再び前を向くのだが、少しの間を開けた後。
「それでも改めて自己紹介はしたほうが良いんでしょうね」
と言って再び振り返る。
「リツと申します、元特等級の旅人です」
「エスだ、特等にはなったが旅人初心者だ」
「……ヘルです」
「奴隷のニコですっ!」
元気よく奴隷と言われ、目を丸くするリツ。
「初めてです、そんなに奴隷だって胸を張ってる人」
「えっとですね、奴隷扱いされてないんですけど、立場上ここはキチンとですっ!」
「なるほど…………なるほど?」
今度は納得仕掛けたがやはりおかしいと思ったのか、リコはニコをジッと見つめていたが、その真っ直ぐな視線に折れたのか。
「まあ、そうい事もあるでしょう、この世界は広いのですし」
と自分自身で何か折り合いをつけて納得した様であった。
骨董品の放浪譚 まばたき(またたき) @ma_bataki
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