モンスター

Aくんは昔いじめられていた。


内容は無視、ハブり等の徹底的な除外行動。


Aくんは中学から高校に上がる際、地元からは少し離れた学校に進学したため、ほぼほぼ中学の友達無しのぼっちスタートだった。


しばらくして、クラスでは休み時間に雑談をし、共に昼食を食べるくらいの仲である友達ができた。


彼らとはよく放課後に遊びに行ったりもしたし、1年後に迎える修学旅行では共に班を作ろうでは無いかと約束した仲であった。


それほどに、彼らは仲が良い。


良かったのだ。


しかし、その仲は今は続いていない。今でこそAくんは言う、彼らとの縁が切れたことこそ幸福だと。


なぜイジメが起こったのか、果たしてそれらはイジメだったのか、今でこそAくんは語る、あの時のスルーが無ければ、あの時のハブりが無ければ今の自分の友人関係はできていないし、今の自分は生まれていない。


まるで、Aくんは彼らに感謝すらしているようだった。


Aくんは彼らとは違い、貧乏でお金の持ち合わせは少ない、毎日遊べるほどでは無い。


さらに土日祝日は、アルバイトで半日以上を潰す日々、友人との仲は学校内では良好に振る舞えるが、下校時刻以降の付き合いは、1部にはノリが悪いと思われても良いくらいまっすぐ帰ることが多かった。


所謂青春というヤツを色濃く過ごすことが出来ていなかった。


実際アルバイトをする学生の実態はそんなものだろう。


私だって、金があればバイトは最小限に抑え、友人との遊びに時間を多く費やす。




また話が逸れていると感じている諸君、今回ばかりは違うのだ。


これこそが、こんな小さいことこそが、イジメの発端なのだ。


よくウザいノリで出るセリフ、「お前ノリ悪w」、Aくんの経済的事情により起きてしまったこの現実こそが、彼らが無視をするようになった一番の大きな理由なのだ。




事に気付いたのは大体高校一年の秋頃、文化祭終わりまでは間違いなく彼らとの仲は良好だった。


共に文化祭を回ったし、お互いの部活に顔を出して茶々入れ合うウザい程仲のいい友達だった。


ある日のことだった、何となく、話を流される気がした。


彼らとは、LINEグループも作っていた。


他の奴らは普通にトークが続くものの、自分の発言だけ、全く反応が無かった。


そして、ターニングポイントが訪れる。




昼食で会話が無くなった。




些細なことだ、たまたまだ、そんな声が聞こえそうだ。


私も最初はそう言った。


けど違うのだ、自分以外は話しているのだ、しかし自分の発言は遮られる、聞かれない、顔を振り向きさえしない。


興味が失せたどころの話では無い、ただ存在を認識していないわけでもない。


認識はしているが、それをいないものとして話をするようになっていた。


……………そうだな、例えを出すとすれば、別に外で食事をしている時、実害の無い虫や鳥がそばを通る、もしくは近くに居たところで、その存在を認識するのみでそれを敢えて話題に出したり、追い払おうとはしないだろう?そんな感じさ。


ちなみにこの例えは全てAくん自身が例えた話を一言一句違えず話している。


最初は気の所為だと言った私も、その当時の状況を理解出来た。


なるほど、これは苦しい。


Aくん曰く、Aくんにとっては高校一年生というまだ入学して一年が経っていない状況のため彼ら以外の友達は出来ていなかったと言う。


その状況で、Aくんが自分から話し掛けられる友達は彼らのみだったらしい。


………つまり一年生半ばにして、Aくんは改めてのぼっちスタートを切ったのだ。


元々ぼっちならそれはそれで、そういうキャラクターで生きて行けたものの、Aくんは友達が居た時からぼっちになったのだ。


それから落ちるのは早かった。


体育などでは、なんとかギリギリ話せるレベルの男子クラスメートとペアを組んで生き残り、持ち前の社交性を活かし勉学等は赤点を取らず生き残った。


放課後は、ぼっちにされる前から一人だったため、ここは関係が無かった。


……………しかし、彼は日に日に心労が重なっていった。


その時異世界転生物に執着していたこともあり、いっその事自殺でもしてしまえば転生して幸せになれるんじゃないかとバカなことも考えていたらしい。


だが、以前も言ったようにAくんは狂気的に優しいのだ。


自身が死んだ時のことを考え、自身の苦しみと他人の迷惑を天秤にかけ、苦しみながらも生きる道を選んだそうだ。


……………いつ聞いても、本当に気持ち悪い思考だと思う。


だが、他人への優しさこそが、Aくんの唯一の生きる気力でもあったのかもしれない。


………しかし、不幸中の幸いか、こんな状況は3ヶ月程で収まった。


例の流行病による長期休暇がAくんの通う高校でも行われた。


その休養期間は、その時の社会も考えていなかったほど長期間に延び、翌年の夏まで延びた。


………そしていつの間にか2年生となっていた。


Aくんを神は見放さなかったのか、2年生に上がった際、文理選択でAくんは文系クラスを選んだおかげで無視していた輩達とは物理的に縁を切れたらしい。


そして、同じ轍を踏むまいとAくんは奮起し、いつの間にか常時行動を共にするほどの親友を得て、高校生活を無事謳歌したとのことだった。


………結果的にはハッピーエンド、ここまで聞くとようやくAくんがハブったことに感謝すらしているという言葉の意味が分かった。


もしあのまま、そんな馬鹿なことをする奴らとつるんでいたら、今も同じように狂った面子としか付き合えず、今の聖人とも言えるAくんは誕生していなかったと言えるだろう。


そう思うと、何も関係の無い私はイジメた奴らを呪ってしまいそうだ。お陰で私はこうして反吐が出るほど優しい友人Aを獲得してしまったのだから。








ちなみに、Aくんは後々出来た友達の中にいた、そのいじめてきた奴らとも多少友人関係にあった友人から、なぜ奴らが自身をハブいていたのかを聞いていたらしい。


それを聞いて、私は思わず呆れてしまった。





『何となく』




どうやら、友人間で誰かをハブいたら面白いんじゃね?wというノリで起こったことらしい、ノリとは言え結構長い時間スルーしたこと、そしたら思ったよりAが干渉して来なくなったこと、それらも相まって、完全に溝ができちゃったとのことだ。





どうだい?これが『リアルいじめっ子』の実態だよ?どんなテレビのイジメを取り扱った番組、映画よりもリアルな意見だろう?


冒頭で私も散々まるでAくんに原因があったかのように話していたが、実際はどちらも悪気が無いのだ。


相手方は単純に無邪気に遊んでいた、ただそれだけなのだ。


ただ、相手には『親しき仲にも礼儀あり』というような常識が頭に無かったような非常識的人間だったというだけなのだ。


Aくんはこの経験を踏まえてこう語っている。


『イジめる奴らは精神疾患を抱えている、他人の感情を考えず行動する心の病気か、他人が傷付くことを知らない幼稚園児並みの脳しか持たないモンスターか何かなのだろう。』と。


良いね、Aくんの本性が見えて私は好きな言い方だ。


そうだな、私も同じような意見だ。今回の話もそうだが、イジメてくる奴らは他人のことなど一切考えない、自分達の快楽しか考えないのだ。


他人を傷付けて自分達が気持ちよくなるだけの妖怪なのだ。


学生時代ではイジメを起こし、社会人なればハラスメントを起こし、生活していく中ではきっと、訪れるお店の店員さんには敬語を使わずタメ口で話し、ありがとうも言わず店を去るイキリ野郎ばかりなのだろう。


こんな奴らでも今は公務員、しかも一人は警察だそうだ、世も末だろう?


本当に、誰が誰を捕まえるというのか………。


と、少し度が過ぎたね。


良いかい?イジメをしてくる奴らは、完全に敵意を持つやつも少なくないが、イジメを起こすヤツらには、今回にようにイジメをイジメと思わないような奴らも居る。というかそんなヤツら、結構見た事ある人が多いのでは無いだろうか?


そんな奴らを見かけたら、これは私なりのアドバイスだが、それらは人と思わず接するのが楽だ。


そういうモンスターなのだと、丁寧に丁寧に接することでようやく人間並に落ち着く、ちょっと賢いお猿さん、いやそれはお猿さんに失礼だね、ちょっと賢い妖怪さんなのだ。


私が理想とするのは、そういう精神疾患を抱える者共は、みんな精神科にぶち込むのが適切ではあると思うが、すでにこの法治国家ではそれができない状況なのが現実なのだ。


『いじめられている方が逃げるのはおかしい』。あるマンガで話されていた言葉だが、たしかに正しい。


むしろ、今まで誰もそう思わなかったのかが不思議なのだ。


だが、今はそれが認知されていたとしてもそれに伴う行動が起こせないのが現状なのだ。


おかしい奴でさえ殺せば有罪だし、なんなら歯向かえば奴らは法律というものさえ碌に理解もしていないので、我々が危害を受けることが多いのだ。


だから、なぜかは分からないが耐えるしかない。それが常識として染み付いてしまったクソみたいなお人好し大国だから、何故か敬語として謝罪をする状況でもないのに、『すみません』と語頭につけ喋る店員がとなってしまったこの国だから、耐えるしかないのだ。







他人の気持ちなど気にしない、Aくんとは正反対な私だからこそ、言いたい。


ここまで読んだあなたには一つ覚えて欲しい。






あなたには、人間でいて欲しい。

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