幕間 とある使用人の証言
「セフィーナ様ですか? なんというか……変わった方、ですね」
結婚に先立ち、リデッドが大量に服を用立てたものだからどんな着道楽のお嬢様が来るのかと思っていたら、現れたのははっきり言って地味な女性だった。
忌憚なく言ってしまえばみすぼらしい。
華やかな貴族の格好を見慣れた者からすれば、セフィーナは庶民にしか見えなかった。
「それなのに所作はちゃんとしていらっしゃって。ステファンによると少々古臭いマナーまで完璧で」
きっちりと躾けられた貴族のお嬢様。
そうセフィーナの印象が変わるのに時間はかからなかった。
しかしそうなってくると荷物の少なさが不可解となってくる。いくらアルゴー子爵家がぱっとしないお家柄だとしても、侯爵家へ嫁がせるのに何もないというのはおかしな話だ。
王都に家があるにも関わらず官舎住まいだったというセフィーナ。
朝は一人で起き、一人で身支度を整え、湯浴みすら一人でこなす。使用人にすら礼儀正しく、出された食事に文句ひとつ言わない。
そんなセフィーナの様子を見て、実家で虐げられていたのではという噂が流れた。
勢い余った使用人の一人が直接セフィーナに突撃したことがあるが、彼女はそんなことはないと首を横に振る。
『恥ずかしい話だけど、家族と馬が合わなかっただけで……』
主人であるリデッドもその話題には苦い顔をしていた。
『それぞれの家の事情があるからね』
多くは語らないその姿勢が答えのようなものだった。
嫁がれてから半月も経つ頃には、じわじわと使用人のセフィーナへの風当たりは柔らかいものへ変わっていく。
「そうですね、お仕事を続けられていることに思う点はないこともないですが……」
今は侯爵令息夫人で、表立って何かしらしないといけないわけではない。
けれど将来的にはどうなのだろうと漠然とした思いはあったが、セフィーナの人となりを知るたびに不安は和らいでいく。
「わざわざ夜会の出席者の方々を事前に覚えたり、ダンスの練習をしたりと不慣れなことにもきちんと挑む姿勢は素晴らしいと思いますね」
そしてなにより、手荒れで困っている使用人へ手ずから作ったという軟膏を渡していたという話を聞いて、もやもやは綺麗さっぱり消え去ってしまった。
自らの力を惜しげもなく使うセフィーナであれば、仕える主として申し分ない。
「変わった方ですが、セフィーナ様に仕えることができて誇らしいです」
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