第12話 運命の再会
■■■
「さっきからなに考えているの?」
隣を歩く育枝の声に私は意識を戻した。
久しぶりの再会に心が躍り、無意識に過去の懐かしい記憶を思い出していたらしい。
「ちょっと昔のことを考えていたわ。凛たちとのね」
「ずっと思ってたけど凛じゃなくて昔みたいに育枝でいいよ?」
「あら? 別にどっちでもいいじゃない」
栗色の髪色をした凛はどこか納得がいかない様子。
でも私は凛と言う名前の方がしっくりとくる。
趣味とは言え同じ道を歩いていくれる大切な仲間って感じが本名よりして響きも良いからだ。私は交友関係が少ない。だからだろうこうして少しでも強い繋がりを求めるのは。
「そんなムスッとしないの。もう子供じゃないんだから」
「むむむっ~」
蝶の鱗粉が舞う道を歩けば旅人が探し求めていたゴールへと辿りつくことができる。
あとはあの時言えなかった言葉を伝えるだけ。
もう見送ることはしない。
今は成長したからこそ言える言葉。
愛されたいと願った時点で私の恋心は激しく燃えいつも隣にいる凛に嫉妬することになった。
もし……貴方が望むなら貴方だけのために作品を書いてこれからはずっと隣にいてもいい。
そんな私の気持ちに気づいていないであろう男がやってくる家に近づく度に私の足を軽くなっていく。
「おっ! 育枝!」
その言葉にムスっとしていた顔が満開の花が咲いたように笑みが零れる育枝。
声がした方向の道に目を向けると住原空徹がそこにいた。
「くうにぃ~お~い~ここだよ♪」
大きく手を振りここだとアピールする。
だけど十メートル先の相手にならそこまでしなくても一度確認してしまえば目で失うこともない距離である。
機は熟した。
過去何度も後悔した。
だからもう後悔しない道を歩くため。
私は目の前に来た住原空徹に挨拶がてらこの言葉を送った。
「お久しぶりね。早速で悪いけど私もう一人は嫌なの。だから結婚しない?」
私以外の二人の時間が止まった。
「えっ?」「はいっ!?」と言った驚きの声が聞こえるが私は無視して時間が止まったように動かなくなった住原空徹の顔を自分の方に引き寄せて唇を重ねる。
熱い吐息が交じり合い絡み合うように私は今まで抑えていた感情に素直になった。
会えない時間が愛しさを募らせた。
ならば――その責任を取ってもらうしかないだろう。愛しい元彼に。
「大好きよ。今も昔も。だから私を貰ってくれないかしら、く・う・て・つ」
ライバルが居ては正攻法では邪魔が入るかもしれない。
だからライバルが最も油断している瞬間こそが最大の好機と考えた私は行動した。
「ちょっと!? 路上でなにしてるのよ!」
大慌てで、私と空徹を引き離す育枝に私は落ち着いて状況を説明する。
既に先手は打った。
後は空徹の返事次第なのだから、待つとする。
「なにって元恋人との感動の再開とあの時言えなかった本当の気持ちを伝えているだけよ?」
「本当の気持ち!?」
「そう。別に私は凛と違って寛大だから空徹君と結婚しても貴女とのイチャイチャは許すわよ。だって義理の兄妹ですもんね」
「はぁ? くうにぃの身の回りのお世話すらしたことがない女が何言ってるの?」
「あら? それくらい私をお嫁さんにもらってくれるなら毎日だってしてあげるわよ」
「できるの? アンタに」
「えぇ」
私と凛の間に割って入るようにして「と、とりあえず家に行こうか。話はそれから……で、お願いします」と言ってきた空徹のお願いを聞いて私は彼の腕をしっかりとホールドして凛の家へと向かった。
すかさずもう片方の腕をホールドして私に取らせない所が本当に可愛げがない将来の家族だこと!
だけどまぁ……こんな関係も悪くはない。
――。
――――。
それから時が経ち――三人での同居生活を条件に私はお嫁に行くこととなった。
ほぼほぼ凛の我儘と最後の反抗である。
その後に待っていたのはとても幸せな日々ではあるが、どうして結婚してまで嫉妬をしなければいけないのだろうか。どうして凛が……まぁいいか。凛がいなければ多分私の口から告白なんて出来なかっただろうし、凛がいるから今も空徹君が好きなのだと恋心が新鮮であるのだから。なにより三人だからこそ――こんなに楽しい日々を送れているのだろうから。
プロとして活躍する私は今日も応援してくれるファンと家族のために頑張るのであった。心が充実していると不思議と手が動くのはきっと……気のせいなんかじゃないと思う。奇跡の空がそうだったように、私も。
初恋相手はいつだって私に大きな影響を与えてくる~君が近くにいるだけで恋心を刺激するのは反則~ 光影 @Mitukage
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