第11話 過去の真実


 家に帰った私はパソコンと睨めっこをしていた。


「なにこれ……」


 誹謗中傷である。

 過去五千人を超えるフォロワーを持つ作品において容赦ない言葉でできた刃物の跡が沢山あった。

 どうやら評価を沢山の人から貰いランキングがあがったため、それまで推薦していた作品のランキングが下がったことによる別の作者が書いた作品のファンが嫌がらせ行為をしていたみたいだ。


 内容としては。

 ラブコメになっていない。

 こんな雑なラブコメはない。

 主人公の人格が可笑しい。

 ここの文章はこうだろ?

 みたいな、自分が全てで正しいと勘違いしているような読者たちによってメンタルを崩壊させられたみたいだ。だけど奇跡の空は苦しみながらも最後まで作品を書きあげ応援してくれたファンのためにゴールを決めた。しかし評価されている間は一部の悪意を持った読者からの嫌がらせ行為は続き、作品の評価が落ち着くとそう言った者たちも消えていくと作者にとってはデメリットしかない者たちだ。そう言った者たちは自分では作品を書いておらず書けるけど書かないみたいな口調で作者の作品を否定する。嫌なら読まなければいいだけなのに、どうしても口を出そうとそこに熱を入れ頑張ってくる。本当に嫌になる相手だ。

 そしてわかってきたことは、すでに奇跡の空はもう執筆を殆どしていないことだ。

 恐らく妹がアレンジをしていると言っていたのは妹が奇跡の空を真似て手直しをしているのかもしれない。日々のノートを見るに、片割れが望んでいると書かれていた。つまり育枝が奇跡の空の復活を望んでいるのかもしれない。だとするなら、奇跡の空が創作する理由は本当に育枝のためということになる。


 そしてとある文章が目に写った。


 苦しいこともある。

 だけど誰もが目を奪われるような作品をいつか作りたい。


 それが奇跡の空――住原空徹が創作を続ける本当の理由だった。

 そしてファンの獲得。

 彼は日々努力していた。

 だから親友になにかを言われても書かないと言わなかった。

 恐らく住原空徹と住原育枝は既に二人で一つの作品を作っていくことに合意している。その真実の先には――全てを手に入れる覚悟があるのだろう。


 創作は楽しくない。

 だって周りの評価がどうなるかわからないから。

 でも続けてるってことはやっぱり心の奥底では楽しいと思えるから。

 悩むのはそれだけ真剣だから。


 なにより私に雷が落ちた。


『良いアイデアなんていつもでるわけじゃない。でも読者には関係ない、更新日を楽しみにしてるって言うのなら自分が好きな作品で活躍する。自分が好きな作品じゃないとやっぱり考えるのが憂鬱になるし更新も憂鬱になる。でも好きな作品ならできるし、多少のことは我慢出来る。だから今は他者の評価より自分の評価。そして価値観が合う読者を一人でも多くファンにするのが今の目標』


 と書かれていた。

 私の中で答えがでた。

 私が今思い悩んでいるのは大人の利権と自分の好きが一致していないことが原因で作品に手が着手しにくい環境になっているのだと。なによりこうして他のことに意識を向け今モニターを見ているのが何よりの証拠だ。


 私は甘えていた。

 自分は努力しているし結果も残している。

 だから自己満足の干渉に溺れて臆病になっていた。

 私は作家になった当時の気持ちを思い出した。

 確かに苦労が多い道かも知れない。

 それでも頑張るって過去に決意していた。

 だったら頑張るしかない。

 ただし私は私らしいやり方で。

 誰かの目や評価を気にして私らしさを失った作品ではいずれ誰も相手にしてくれなくなる。だったら私自ら私らしい作品を手掛け認めてもらうしかない。

 それが私の道。


「貴方も思い悩んでいるのね。それでも前を向いて歩いている。なんて格好いい生き方なのかしら。ありがとう、大変参考になったわ」


 私は再びプロットと向き合った。

 すると不思議なことに今まで微塵も動かなかった手が動き始めた。

 今まで無意識に批判を恐れていたアイデアたちが姿を見せてのだ。

 そうだ――。

 全世界の人に感動を届けるような作品なんて今の私には無理。

 だったらせめて私と同じような感性を持った人に喜んでもらえるような作品をまずは手掛けていけばいいのではないだろうか。


 白雪七海はこの日――輝きを取り戻した。

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