第58話 結婚式の波乱 後編

「エレノア、愛しています」

結婚式が終わり部屋に戻ると、レイモンドが私に口づけをしようとしてくる。

私は慌てて彼の口を手で塞いだ。


「待ってください、レイモンド。私、フィリップ様のことがまだ好きですわ」

私の告白に彼が目を丸くして、驚いた顔をする。


「先ほど、私のことをおかしくなるくらい愛していると言いませんでしたか?今、私と結婚して2人きりの場面で言う言葉ですか?もし、まだ、フィリプに気持ちがあっても普通黙って私を受け入れるべきですよね」

レイモンドが私に普通を語ってくるので思わず笑ってしまう。


「レイモンド、これがあなたが今まで周りにして来たことです。いつも、あなたは自分の気持ちを正直に周りに話すことで、たくさん周りを傷つけて来ました。これからも、私の前だけでは本当のあなたでいても良いですわ。その代わり、私もあなたの前では一切の演技をやめて本音を曝け出しますから」

私は、自分がなぜレイモンドを選んだのかはっきりわかった。


フィリップ様に強く惹かれながらも、レイモンドのように本音を曝け出し生きる場所がずっと欲しかったからだ。


「最高です。エレノア、私だけが本当の貴方をこれから見られるのですね。ちなみに、結婚式までしておいて他の男が好きだと言う、貴方はかなりの悪女だと思います。フィリップではあなたは手に負えませんよ」

レイモンドが傷つくようなことを言ったはずなのに、彼は嬉しそうに私を抱きしめてくる。

私が彼を求め続けた理由も分かってしまった。

私はずっと彼のこの自信家なところに憧れて来た。


「そもそも初対面であなたが私を利用してこようとしなければ、フィリップ様に思いを募らせなくて済んだのですよ。結婚式では、フィリップ様への思いを断ち切りたくてレイモンドに必要以上にくっついた自覚がありますわ。でも、彼が私とあなたのそのような姿を見てショックをうけていて、今でも彼のそんな姿が脳裏に焼き付いています。フィリップ様のこと忘れられないのです。言いたい放題、やりたい放題の8歳も年上のおじさんのあなたを受け入れるのだから、これからあなたには私も本当に言いたいこと言わせてもらいます。私はレイモンドのことをたくさん傷つけると思いますよ」


フィリップ様には幸せになって欲しくてした行動だが、そのことで必要以上に彼を傷つけてしまった。

私は今もその罪悪感が残っていて、それをレイモンドにぶつけている。


「24歳の色男を捕まえておじさん呼ばわりする酷い悪女は、私にしか扱えませんね。それから、エレノアが本当のことを言っているときに、私が傷つくことはないので安心してください。私が傷つくときは、エレノアが私に嘘をつくときです。」


「実はフィリップ様とハンスをくっつけようとしました。彼のためだと自分に言い訳していましたが、他の女性と彼が一緒になるのが嫌だったからかもしれません」

私は、自分の行動を振り返り懺悔のようにレイモンドに自分の心の内を告白した。


「あの不躾な男とフィリップをくっつけようとしても無駄だと思いますよ。エレノアは他人をコントロールしようとするところがありますが、人の気持ちはそのような簡単なものではありません。フィリップは6年もエレノアを思い続けているのだから、簡単にはあなたを諦められないと思います。でも、エレノアが私のものだと分かればその内、仕事にでも邁進するのではないでしょうか。もう、フィリップのことは放って置いて、悪女エレノアに囚われた可哀想な夫である私に集中してください」


他人をコントロールしようとしていると言われたのは初めてだ。

でも自分の行動を思い返せば、彼の言う通りだと感じる。


レイモンドが一番私の本質を知っている気がする。

彼が私の膝裏に手を入れてお姫様抱っこをしてベットの方に連れて行こうとする。


「レイモンド、私、朝から何も食べていません。今、したいのはそういうことではないのです⋯⋯」

私が足をばたつかせて暴れて彼から逃れようとしても、彼は逃してくれない。

私は初めて本音を曝け出して自己中心的に振舞っているが、24年間自己中心的に振舞って来た彼には敵わない。


「私があなたを満たしてあげるから大丈夫ですよ。エレノア。やはり、一週間は寝室にこもった方がよさそうですね。じっくりと、時間をかけてフィリップを忘れさせてあげます。部屋を出た時には私のことしか考えられなくなってますよ」

私をベットにおろしながら、彼が予想の斜め上を行くことを言ってくる。


「そういうことは初夜しかしない約束ですよね。もう、約束を反故にしようとしているのですか?私はあなたの自信に溢れるところが好きだったのだけど、思ったよりも大したことないですね。今夜だけで私にフィリップ様を忘れさせてみてください」


私の言葉にレイモンドが満面の笑みを浮かべる。

彼のここまでの笑顔を見たことがなくて、思わずときめいてしまう。


「私といつまでも寝室にこもりたいと言い出すのは、エレノアの方だと思いますよ」

私がときめいたのを見抜いたのか、彼は私に大人の口づけをしてきた。

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逃亡した帝国の公女は2人の王子から溺愛される。 専業プウタ @RIHIRO2023

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