第18話 属性感知は魔術じゃない?
「寝起きは機嫌が悪いので、今日のうちに顕現させましょう」
寝起きという言葉に混乱してしまいました。そうですよね。ホーラの言う通りです。
ウンディーネ様も生きています。空想上の存在と思っていましたから、生きているという事実を忘れていました。
生きているのだから、睡眠や食事も必要ですね。
「わかりました。魔方陣はどうするのでしょうか?」
「時間がありませんので、ウンディーネ様にもらった緊急用の魔方陣を使いましょう」
「ウンディーネ様に信頼されているのですね」
「そんなことはありません。ウンディーネ様は暇が嫌いなので、暇潰しの相手と思われていることでしょう」
ウンディーネ様は暇が嫌いなのですね。今日以外で会う機会があれば、昔の玩具を作って渡しましょうか。
トランプもほとんどの人に知られなくなってしまいましたからね。たくさんの遊び方があるので、とても面白いと思うのですが…。
なぜ廃れてしまったのでしょうね?
「魔方陣を描くことができるようになりましたら、魔方陣を何枚も描いておくと良いでしょう。魔法の発動にも使えますし、魔方陣を使わない魔法に比べて発動時間に差がありません」
「そうなのですね! 魔方陣の描き方を覚えたら、緊急時に備えるために何枚も描こうと思います」
「それが良いでしょう。魔方陣に魔力を流していただけますか」
「わかりました」
紙に描かれている魔方陣に魔力を流すだけで、魔術や魔法を使えると思うと不思議ですね。
魔方陣に魔力を流すと、紙に描かれていた魔方陣が消えました。
残ったのは、真っ白な紙だけです。顕現してくれなかったのでしょうか。私はなにもしていませんからね。顕現されないのも納得です。
「久しぶりだねぇ」
幼い小さな声が聞こえてきました。思わず下を見てみると、三歳ほどの小さな子供がいます。
もしかして、この可愛い子がウンディーネ様なのでしょうか。
嘘ですよね。太古から存在する精霊が、幼い子供なのですか?
確かに淡い水色の髪と澄んだ水色の瞳は、水の精霊というイメージに沿っています。
子供という事実は衝撃ですが、ウンディーネ様で間違いないのでしょう。
「はい。ウンディーネ様、お久しぶりです」
「ホーラって名前を貰ったんだよね。おめでとぉ」
ウンディーネ様はふにゃりと笑います。ウンディーネ様は人形のように可愛いですね。私が人形に例えられる理由がわかりました。
「初めまして、ウンディーネ様。私はノウィルと申します。よろしくお願いしますね」
「うん。よろしく、ノウィーお姉ちゃん」
「ノウィーお姉ちゃんですか?」
「そうだよ! ヴェルダさんがノウィーちゃんって呼んでるのを見て、私も呼びたくなったんだぁ」
私のことを覗いていたのですね。どうやって覗いていたのでしょうね?
精霊だから常識を知らないのか、幼いから常識を知らないのか。
どちらにしろ、教育は必要ですね。立派なお姉ちゃんになれるよう頑張りますので、まかせてくださいね!
あっという間に身長を抜かれそうですが、ウンディーネ様は私よりも長く生きていますし……抜かれる可能性は低いでしょう。
知らずのうちに安心して溜息を吐いていたのは、誰にも内緒です。ホーラには知られているかもしれませんね。
「ノウィーお姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ウンディーネ様」
ウンディーネ様の頭を撫でると、猫のように頭を擦り付けてきます。
とても…か、可愛いです! ウンディーネ様は私の妹になるために、生まれてきたのではないでしょうか。
違うという否定的な声が聞こえましたね。私の本当の思いが空耳という形で聞こえたようです。
私のために生まれてきたわけではないのですよね。とても残念でなりません。
「むぅ、ウンディーネ様って言うの禁止! ディーネって呼んで? 様も付けちゃダメなんだからね!」
頬を膨らませて、仁王立ちになっています。可愛いですね。ほのぼのとした気分になります。
それにしても、ウンディーネ様をディーネと呼んでいいのでしょうか? ホーラのほうを見ると、諦めたように頷きます。
「では、ディーネと呼ばせてもらいますね」
「やったぁ! ノウィーお姉ちゃん、大好き」
ウンディーネ様改めディーネは抱きついてきます。ディーネに顔を向けると、満面の笑みで笑いかけられますね。可愛いという感想しか浮かびません。
そういえば、のんびりしている暇はありませんでした。可愛さに気を取られて、目的を忘れてしまいそうになりましたよ。
「本来の目的なのですが、属性感知を教えていただけますか?」
「属性感知を教えてほしいの? そっかぁ、ホーラは使えなかったもんね! わたしが教えてあげるね!」
「お願いします、ディーネ先生」
「ふふん! ディーネ先生が教えてあげるよ!」
ディーネ先生という言葉が嬉しいのか、頬が緩んでしまっています。先生としての自覚が芽生えたようで、笑みを浮かべるのを我慢していますけれど。
笑うのを我慢していても、嬉しそうにしているのを隠せていないところが、とても可愛いです。
「実はね、属性感知って正確には魔術じゃないんだぁ。だから魔方陣もいらないんだよね!」
「そうなのですか?」
「うん。ホーラは理論がないと覚えれないんだよねぇ。だから、感覚で覚える属性感知が覚えれなかったの」
「感覚とは、どういうことでしょう」
「誰かが後ろにいたら、気配を感じてなんとなくわかるでしょ? そんな感覚ってことだよ!」
確かに気配を感じるということで、理論を考えるとなると難しいですね。
私が人の気配を感じることができるのも、ディーネの言う通り感覚ですからね。
「属性感知が魔術ではないのなら、どういうものになるのでしょうか?」
ホーラがディーネに問いかけると、ディーネは不思議そうに首を傾げています。その直後、思い付いたように目を見開きましたけれど。
「精霊術だよぉ。言ったことなかったっけ? 魔術と精霊術はね、全然違うんだぁ」
「どこが違うのですか?」
「うぅんとね、魔術の説明はホーラに聞いたよね? だから、精霊術の説明をするよぉ。精霊術は、精霊の力を永続的に借りる力を言うの」
ディーネは精神年齢が幼いですが、生きている年数分の知識があるようです。
その知識を説明できる思考を持っているというのに、幼いというのは不思議ですね。
そういえば、属性感知は魔法の使える属性が色として見えるというものらしいです。
「精霊の力を借りるということは、属性感知は精霊の視覚を借りるということでしょうか?」
「そうだよ。ノウィーお姉ちゃんは神芽の瞳を持ってるから、属性感知を付与できるよ? 付与したら、いつでも使えるけど…どうする?」
「付与してください」
「付与するから、座ってほしいな!」
椅子に座ったら、無言で不貞腐れるように見つめられました。ディーネは目線が合うように、座ってほしかったようです。
床に座っても良いのですが、ホーラからの視線が怖いのでやめました。色々な提案をしましたが、ホーラとしては全て嫌なのでしょう。
「どうしましょうか?」
「ウンディーネ様が浮けば、良いのではありませんか?」
「付与に集中しないと、失明させちゃう。だから、無理だよぉ」
失明という言葉に恐れをなしたのか、ディーネをテーブルの上に座らせるということで納得してくれました。
テーブルの上に乗せるのも嫌そうでしたが、私を心配するような視線も向けていました。
ノウィーお姉ちゃんと言ったときに、ウンディーネ様を胡散臭そうに見ていたので、それに関係しているのでしょうか?
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