第17話 魔力にも種類があるようです

 〈記憶を取り戻した者を獲得しました。称号獲得条件はなんらかの理由で記憶を奪われ、奪われた記憶を思い出すことです。エクストラクエスト〝記憶の喪失〟進行時に獲得できます〉


 称号を獲得しました。クエスト進行時に獲得できる称号もあるのですか。ゲームとは面白いですね。ウィレンがゲームを好きになるのも理解できます。


「遅くなってきましたので、終わりにしましょう。明日また話し合いましょうか」


 ホーラが提案すると、みんなが頷き合います。疑いを晴らすための話し合いは明日の昼過ぎに設けるそうです。


 明日の昼までに本当の犯人を見つけなければ、疑心暗鬼になってしまい罪の擦り付け合いが始まってしまう可能があります。


 それは避けたいですね。みんなの争っている姿は見たくありません。


「夕食をお持ちいたしました。スペアリブのジャム煮を挟んだサンドイッチでございます。ご賞味くださいませ」


 私が不安になってしまってはいけません。ホーラの料理を食べて元気を出しましょう。


 やはり美味しいですね。少し不安が取り除けました。ホーラがじっとこちらを見ています。もしかして、私に食レポをしてほしいのでしょうか。


 確かに食べるときには、必ず食レポをしていましたね。視線が訴えてくるので食レポをしましょう。


「お米と食べるときとは、全く違うものに感じます。スペアリブの旨味がパンに味がしみ込んでいて、一体感のある料理となっていますね。調理してから少し時間が経ったこともあり、スペアリブの味に奥深さがプラスされています。パンの外側はとてもカリッと焼けていて、中はしっとりもちもちとした食感です。予想を超えるほど、とても美味しくて驚きました!」


 食レポをするとホーラは満足したような表情になります。私の食レポを楽しみにしているのですね。これからは料理を食べるときに食レポを必ずしましょう。


「ノウィル様、少し話したいことがあります。よろしいでしょうか」


「もちろん良いですよ? どうしたのですか」


「私の懸念していることがあたっていれば、ウェスペルかカエルムのどちらかに潜んでいる者が犯人でしょう。私は適性がないので使えませんが、ノウィル様なら使えると思いますので、見分ける方法をお教えします」


 どういうことでしょうか? ホーラの言うことですし、限りなく正解に近いのでしょう。


 ホーラの懸念していることがあたっているとしたら、ウェスペルかカエルムの中にいる誰かが私の記憶を喪失させたということなのでしょうね。


 ホーラの言い方だと、二重人格というわけでもなさそうですし。そもそも、二つの人格が共存できるのでしょうか。


 アリバイもあるのですから、どうやって移動したのかも気になりますね。


「わかりました。教えていただけますか?」


「はい。属性感知という魔術を使うことができるようになることで、見分けることができると思います。精霊様は信頼している者の呼びかけではないと、顕現なされません。精霊様に供物を捧げることで、精霊様に認知されるようになります。ですが、今回は急を要しますので、供物を捧げる時間はありません」


 どうすれば良いのでしょう。ウェスペルかカエルムの中にいる誰かを見分けなければ、大変なことになるでしょう。


 絶対にその誰かは許しません。私は………大切な人達が傷つく姿を見るなんてもう嫌なのです。


「精霊様には顕現できない日に、精霊様の意志を伝える眷属と呼ばれる妖精がいます。ウンディーネ様の眷属の妖精がマルだと聞きました。マルの契約者ということで、精霊様はノウィル様を信頼するでしょう」


 マルはウンディーネ様の眷属でしたか。確かに私が倒れたとき、ウンディーネ様に謝っていましたね。


 マルはわたくし達が助かるためにと言っていました。ウンディーネ様に助力を求めれば良かったのでは?


 求めなかった理由を考えるとすれば、ウンディーネ様を始めとする四大精霊様は私達に干渉できないのかもしれませんね。


 それも違うとすれば……犯人はマルの記憶を喪失させて、ウンディーネ様に頼れないようにしたのでしょう。


 それにしても、私はやはり無力ですね。私はみんなの力がないとなにもできない。


「マルと契約しているということから、四大精霊様を顕現させることができると推定されます。ノウィル様は永久記憶を取得しているので、魔方陣を描くことができるでしょう。緻密な作業が得意でなければ、魔方陣を描くことはできません」


「緻密な作業ですか。好きではありませんが、得意ではありますね」


「そうですか。以下の点を踏まえると、ノウィル様は魔術の適性があります」


 ふむ。属性感知は魔術なのですね。魔方陣を描くのは、とても大変そうですね。本を読むときに集中力を使いますから、それまで集中力は使いたくないのですよ。


 そのことから…集中力を使う緻密な作業は得意だけれど、好きではないと思うようになったのです。


「わかりました。私はどうすれば良いのでしょうか」


「はい。重要なのは、ウンディーネ様を誰にも悟られずに顕現させることです。精霊様の顕現は魔方陣を発動させないといけませんので、魔力の動きを悟られる可能性があります。隠蔽の魔方陣で応急措置をしますが、魔力の残滓を隠蔽することはできません」


「魔力の残滓ですか?」


「はい。純度の低い魔力は魔方陣の発動を阻害するので、弾くように設定してあります。弾いた魔力がこの場に残り、魔術を発動させた証拠……つまり、残滓となるのです」


 そういうことでしたか。魔力の残滓は弾いた純度の低い魔力なのですよね? ということは、魔力の純度を高くすれば良いのではないでしょうか。


「魔力の純度を高くする方法はないのですか?」


「ありますが、痛みを伴います。純度の低い魔力が体内になくなると、拒絶反応を起こして激痛が走ります。魔素との中和が追い付かなくなってしまいますから」


「魔素とはなんでしょう?」


「魔素とは空気中にある魔力の素となるものです。魔素に含まれる毒素を、純度の低い魔力に変換することで中和します。純度の高い魔力は毒素が多く含まれますから。純度の低い魔力が体内にあるのは一種の防衛本能のようなものです」


 ホーラは本当に色々なことを知っていますね。私もホーラとのように、この世界の色々なことを知りたいです。


 世界の裏側まで知り尽くさないと、終われません。私が本好きになったのも、探求心からだったのですよね。


 百年以上前の過去を知る手段が本だけだったので、本を読んでいるうちに本を好きになりました。


「そういえば、契約の際に吸収させてもらった魔力は純正な魔力でしたね。少し触ってもよろしいでしょうか」


「もちろん良いですよ」


「毒素を無効化していますね。純度の低い魔力が全くありません。魔素に近い純正な魔力なので、残滓は全く残らないでしょう」


「魔力の残滓が残らないということは、ウンディーネ様を誰にも悟られずに顕現させることができるということでしょうか?」


 ホーラが頷きます。魔力の残滓という一番の問題点を解決できるとは、思っていませんでした。私の魔力は特別なのですね。


 魔力にも色々な種類があるとは…この世界は奥深いですね。探求心が永遠に尽きないような気がします。

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