第16話 犯人の正体は?

 一時間ほど会話をして、やっと記憶が戻りました。みんなと会話をするのはとても楽しくて時間を忘れてしまいそうです。


 私の記憶が完全に戻る寸前に、尊敬できる行動自慢みたいなのを始めてしまったのですよね。


 なにを思って始めたのでしょうか? 少し恥ずかしい思い出ですね。


「思い出したところで、一つ不思議なことがあるのですが。ここは浮いているのですよね? 犯人はどこから入ってきたのでしょう。ここにいる人が犯人ということは、ありませんか?」


「ノウィル様も気づきましたか。私も思っていたところです。この中の誰かに犯人がいるのでしょう」


 ホーラから疑われたというより、私から疑われたという事実で愕然としています。確信はなかったので、疑うというよりは懸念に近いのですが。


 ホーラの言葉は鋭利な刃物のように心を突き刺しています。もう少し優しく言うことは、できなかったのでしょうか?


「ねえ、ねえ! マルルン、犯人の特徴を思い出して!」


 マルルン、マルのあだ名でしょうか。もしかして、みんなにあだ名をつけているのかもしれません。気になるので、あとで聞きましょう。


「特徴ですか? 少し時間をくださいませ」


 マルは記憶喪失で消された記憶の中から、微かな違和感を探し出そうとしています。


 大まかなことは覚えていても、小さなことは巧妙に喪失させられているようです。


 その中から思い出そうとするのは、永久記憶を持っている私でも難しいでしょう。現に私は記憶を喪失させられましたからね。


 記憶喪失のスキルが中途半端に発動してしまった理由に、私が永久記憶を持っていたこととも関係ありそうです。


「そうです! 体形は女性でしたが、男性のように喋っていましたわ。もう一つ特徴的だったのは、海のように鮮やかな青い髪でしょうか?」


「言葉遣いが荒っぽい女性ならいるのですが、海のように鮮やかな髪ではありませんね」


「そうなのですか?」


「はい。灼熱の炎のように触れたくない人ですね」


 ホーラは意外と辛辣ですよね。今までのことを思い出したのですが、意外ではないのかもしれません。


 ホーラは常に表情がありませんし、褒められても少し表情を変えるだけでした。


 よく考えてみると、辛辣な言葉をかけることが多々ありましたね。


「その人への挨拶は今度にしましょう。それにしても、海のように鮮やかな髪とは誰のことを言っているのでしょうね?」


 青い髪をしているのはカエルムだけですが、男の人のように喋ることはありませんからね。カエルムが犯人のはずはありません。


 アリバイを聞いてみたのですが、私が記憶喪失になった時にカエルムはウェスペルと一緒にいたようなのですよね。


「男装趣味があるというわけではありませんよね?」


「私は基本的に男の人のことは嫌いです。ある程度の仲ではないと、手を触れられただけで飛びのいてしまいます」


「私も保証するよっ! 男の人に抱きしめられて、気絶したのを見たことあるもんっ」


 ふむ。カエルムはかなりの男性不信のようですね。


 そういえば、私の手を握った人は親友の眼光に屈していましたし、親友は私が男性に触られた手をハンカチで拭いていました。


 なにがしたいのか当時はわからなかったのですが、親友もきっと男性不信だったでしょう。


「言葉遣いを直してくださいと何度言ったと思いますか」


「ごめんなさいっ!」


 怒られてしまいましたね。私は言葉遣いはどちらでもいいのですが、ホーラは主人を敬うのが礼儀と思っているのでしょう。


 ですので、ウェスペルから縋るような視線を向けられても、ホーラに進言するのは我慢します。とても可哀想で、今すぐにでもやめてほしいところですが!


「それにしても、犯人は誰なのでしょうね?」


「わたくしがもっと思い出せればよかったのですが、申し訳ありません」


「謝らなくて良いのですよ。記憶喪失のスキルを使われているのですし、思い出せなくても仕方ありません。私は全ての記憶を奪われてしまったのですよ?」


「ですが……」


「運が良かったので思い出せましたし、マルのように巧妙に喪失させられたわけではありません。記憶喪失のスキルで受けた影響が違うマルと私とは、思い出すことのできる記憶の差は歴然です。私がたとえすべてを思い出すことができていても…ですよ? マルは偉い子です!」


「わたくしは偉い子ですか? あるじさまと一緒にいて良い存在ですか?」


「もちろん私と一緒にいて良いですよ。私のほうこそマルと一緒にいて良いか不安になります」


「そんなことないですわ。わたくしはあるじさまのおかげで、罪を償う機会を与えられたのです。あるじさまにわたくしが相応しくないのはもちろんですが、わたくしにあるじさまは遥か高みの存在です!」


 本当に私は尊敬されるほどの存在ではないと思うのですが。私のことを過大評価しすぎではありませんか?


 私は自分の思った通りに行動しているだけですし。


「わたくしもあるじさまの仲間として認めてもらえるのでしょうか?」


「認めるもなにも、もう仲間だと思っていたのですが……違うのでしょうか?」


「はい。嬉しいです! わたくしはあるじさまにもっと認めてもらえるように頑張りますわ!」


 やる気を出すことは良いことですね。私のことで頑張れるのなら、いくらでも踏み台になりましょう。


 私はみんなと出会ったことが、なによりの宝ですから!

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