第3話 エクストラクエストの発生率が高いです

 ホーラに案内された庭園で思わず感嘆の声を上げてしまいます。


 澄み渡った星空と満月のコントラストが幻想的で、この世とは思えないほど綺麗です。


 そして、極め付きは着色料で染めていない青色の薔薇が咲いていることですね。


 ゲームですからあり得ないわけではないのですが、実際に見ると感動します。匂いなども詳細に作られているからでしょうか?


「とても綺麗ですね。誉め言葉が思いつかないほど、心に響く光景です」


「私も初めてここに来たときは驚きました。この景色が大好きでして、仕える主ができた際は真っ先に連れてきたいと思っていたのです」


「前に仕えていた主はどんな方だったのですか?」


 興味本位で聞いたのですが、ホーラは想像以上に苦しい顔をしています。聞かなければよかったのでしょうか。


 ですが、これほど思われていた人のことは気になりますね。ホーラの気持ちが落ち着いたら、また聞きましょう。


「無理に言わなくても大丈夫です。言っても良いと思えるときに教えてください」


「いえ、ただ……。あの方の無念を思うと、心が痛むのです。遥か昔、千年以上前にある王国で内乱があったのはご存じですか」


「知りません」


 首を振りながら、ホーラの言葉に答えます。私はゲームの中の出来事を知るはずがありませんからね。


 ですが、ホーラが勇気を出して話そうとしてくれている気持ちを考えると、そんな無粋なことは言えません。


「そうでしょうね。もしも知っていたとしたら、ノウィル様のことを疑わなければなりません。なぜならば、この内乱は秘匿されていますから」


 秘匿されているとはどういうことでしょうか? 内乱が起きたことを隠しているというよりも、重い表現のように感じます。


 ホーラが話してくれた内容を纏めると、想像以上に醜い争いが繰り広げられていたようです。


 ****


 王子様と愉快な仲間たち 優しい王子様


 著者 マフィク(占無師)


 占夢師とは……手の触れた人の過去と未来を夢として見ることができる職業です。この話は本人の許可を取って、童話として残した話になります。



 これは、千年以上前に起こった話です。


 この世界には全てを牛耳る王様がいました。その王様は世代交代しているはずなのに、全く同じ性格をしています。


 長く生きる種族の者達も『本当は私達のように長く生きる種族で、世代交代していないのでは?』と、疑うほどです。


 その王様は自分とは違う生態をしている他の種族が大好きでした。なぜならば、世界を手に入れてしまって、退屈をしているからです。


 それでも、世界を手放そうとしませんでした。王様はせっかく手に入れた世界を手放したくはないのです。


 その頃、貴族と呼ばれる者達が様々なことに利用しようと、子供や女性を奴隷にして従えていました。


 知らぬ間に様々な種族が奴隷となっていました。王様はその事実を知って、珍しい種族の奴隷を集めるように指示しました。


 珍しい種族の奴隷はすぐさま王様の元に届けられました。けれど、その奴隷達は反逆を起こすために、王様の情報を集めようとしていたのです。


 たくさんの奴隷から寄せられた王様の情報が集まると、反逆のリーダーである王様の息子の王子様は王様の元に向かいました。


 反逆を起こす前に王様が奴隷のことをどう思っているのか、聞こうと思ったのです。


 王子様が王様の元に向かおうとすると、王様直属の兵士達が王子様を囲みました。反逆罪で幽閉するというのです。


 王子様は大人しく捕まりましたが、反逆は時間通りに決行されます。王城に攻め入る奴隷達のお陰で、兵士の目線が王子様から離れました。


 王子様はその隙に王様の元へ行きます。途中で奴隷達も合流しました。


 王座の間へ辿り着くと、王座に座ってゆっくりしている王様がいます。奴隷達は王様に襲いかかろうとしましたが、王子様が止めました。


 なぜならば、王様はとても強いのです。王子様と奴隷達が束になっても、王様には勝てないでしょう。


 なら、なぜ反逆を起こしたのでしょうか? それは、王様の意見に反対してる者がいると知ってもらいたかったからです。


 王様は王子様と奴隷達を王座の間の真ん中に集めると、なにやら呪文を唱え始めました。


 嫌な予感がした王子様は逃げるように指示を出しましたが、王様はにやりと笑いました。


 もう遅かったのです。王子様と奴隷達は一瞬で意識が刈り取られました。次に目が覚めた時には見知らぬ場所にいます。


 奴隷達も見当たりません。一人でぼーっと歩いていると、大きな扉がありました。ふと、手を置くと誰かの声が聞こえます。


「ようこそ、宵闇の図書館へ」


 それは果たして王子様にとって幸か不幸か? 王子様と愉快な仲間たちの物語の始まりです。


 ****


「酷い話ですね」


「ええ。前の主は奴隷側として国王に訴えた王子でした。奴隷達が負けると、廃嫡されてここに幽閉されたのです。この島には古代の魔術が付与されています。ですから、ずっと浮遊し続けているのです。なぜ国王がここに幽閉することができたのかはいまだに謎ですけれど」


 可哀想ですね、王子様。それにしても、奴隷制度が廃止されていないとは虫唾が走ります。


 もしも街に行くことがあったら、貴族や王族は殴りましょう。でも、私にはそんな体力がないですね。それまでに鍛えておきましょう。


 それにしても、古代の魔術とはなんでしょう。魔法とは違うのでしょうか?


 〈エクストラクエスト〝奴隷制度の廃止を訴えよう〟が発生しました〉


 〈エクストラクエスト〝古代魔術と魔法の違い〟が発生しました〉


 エクストラクエストの発生率が高い気がします。なぜエクストラクエストが二つも発生するのでしょうか。


 エクストラというぐらいですから、あまり発生しないクエストなのですよね。


 古代魔術と魔法の違いは興味があるのでいいのですが、奴隷制度の廃止を訴えようは正直に言って危ないですよね。


 国王がここに王子を幽閉することができたということは、ここまで来れる移動手段があるということです。


 私の命も危ないですし、プレイヤーにも迷惑をかけるということになるでしょう。プレイヤーならまだ良いのですけれど、罪のない平民の皆様に迷惑をかけるわけにはいきません。


 確実な確証や私を追うことすらできない封じ手をもってクエストをうけなくてはなりませんね。


 ふと思ったのですが、ホーラって千年も生きているのですよね。どのような存在なのでしょうか。人とはだいぶ構造が違うようですし。これも例の特技からわかることです。


 〈エクストラクエスト〝宵闇の図書館の守護者の正体〟が発生しました〉


 やはりエクストラクエストの発生率が高いですね。なぜでしょう、心底不思議です。


 宵闇の図書館の守護者はホーラのことでしょうね。状況からして、ホーラしかいません。


 ホーラの正体は気になりますが、勝手に調べては信頼関係に支障をきたします。時が満ちたらホーラから話してくれるという可能性に賭けましょう。


 そもそも私は本を読みたいだけですし、正直クエストを達成したいという気持ちもないのですよね。


「大丈夫ですか、ノウィル様」


「大丈夫です。古代魔術と魔法の違いを聞いてもいいですか?」


「もう夜も遅いですし、明日にしましょう。眠らないと成長阻害が発生しますからね」


 現実と同じですね。眠らずに本を読んでいたせいか、私の胸は男の子並みにぺったんです。


 それもあってよく小学生に間違えられるのですよね。背も低いですし。


 ここで動くことで背が伸びればいいのですが、そう物事は都合よくないです。分かってはいても、望んでしまうのです。


「わかりました。眠ります」


「明日までにノウィル様の部屋を整えておきますね。今日はこの部屋で我慢していただけますか」


「大丈夫です」


 ホーラに案内された部屋のベッドはキングベッドサイズです。


 私が寝るところにしては大きすぎます。とはいえ、ホーラが言っているのはそういうことではないのでしょう。


 部屋の内装を整えて、女の子っぽい部屋にするということですね。そういう部屋には憧れがあるので、素直に任せておきます。


「おやすみなさいませ。ノウィル様」


「おやすみなさい。ホーラ」

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