第2話 宵闇の図書館を散策しましょう
さて、やってきました。ここは宵闇の図書館の廊下でしょう。
天井は全てがステンドグラスの窓になっています。窓からの月明りと所々に置いてある蠟燭だけが灯りということもあり、本を読むには暗いです。
月明りや蠟燭に照らされた壁から趣のある古い洋館ということが窺えます。
暗いところにいれば目が慣れますよね。この暗さでも本を読めるようになるでしょうか。
まだわかりませんし、とりあえず散策しましょう。蝋燭に沿って歩けば外に出られるのかもしれません。
「ふう。私はこんなに体力がなかったのですね。数分歩いただけで息が上がるなんて、思っていませんでした」
これは元々の自分自身の能力が反映されるゲームだったのですね。
図書館に籠っていたからか、体力が落ちているみたいです。これからは運動したほうがよさそうです。
確かこの手のゲームは現実にも反映されるのではありませんでしたか?
ここで運動すれば現実でも体力がつくのでしょう。これはいいかもしれません。
途中にたくさんの部屋がありましたので、覗いたのですが…………全ての部屋に本棚があったのです!
私にはとても嬉しい知らせですね。そんなこともあり、本を取るという動作で少し動くことができそうです。
ふと気づいたのですが、蝋燭の火が風もないのにゆらゆらと揺れています。
「もしかして、それだけでは駄目とダメ出しをしているのですか!? 毎日一度でも散策をしましょう。それでいいのですよね?」
そう蝋燭に問いかけると蝋燭の火は元に戻りました。傍から見ると変な人ですね。
でも大丈夫です。私以外の人はここにいないようですから。これは私の特技でして、範囲を決めてしまえばその空間の気配を感じ取れるのです。
身長や年齢もある程度であればわかります。思っていたよりすごい特技だと知ったときは、とても驚いた記憶がありますね。
人以外はたくさんいるようですが、私の体力ではまだたどり着けないようなので後回しです。
「やっと扉に着きました。ふう、疲れましたよ」
大きな扉です。私が押してもきっと開くことはないでしょう。ではどうすればいいのでしょう。
外に出ることを目標に来たというのに、こんなところで躓くとは思っていませんでした。
扉を開ける方法。可能性としては呪文を唱えるということでしょうか?
扉に何かが描かれているのは見えるのですが、暗くて肝心なところが読めないのですよね。どうしましょう。
〈暗視を取得しました。暗いときでも明るく見えるようになります。取得条件は暗い場所に十五分いることです〉
ありがとうございます。丁寧に説明してくれるというのもありますけど、ちょうど暗視を取得できるとは、本当にラッキーでした。
「ふむ、ふむ。扉の模様は時計だったのですか。飛び出ている針を十二時に合わせると開くということですね。面白い仕掛けです。どうなっているのかはわかりませんが、ゲームですから理屈を考えてはいけませんよね」
くるりと十二時になるまで時計の針を回すとボーンボーンと鐘のなる音が聞こえます。どこから聞こえているのでしょうか? 不思議ですね。
『マスター登録を始めます。名前を教えていただけるでしょうか』
耳のすぐ近くで聞こえているような気がします。気配はないので近くにいるわけではないのでしょうけれど。
やはり、ゲームは現実とかけ離れた場所と思ったほうがよさそうです。当たり前といえば、当たり前なのですけれどね。
「名前はノウィルです」
『ノウィル様ですね。種族を教えてください』
どこか淡々とした口調です。まだ自我がなかった頃のAIのような口調ですね。種族はなんでしょうか? 確か読姫と言っていたような気がします。
「確実ではないのですが、読姫だと思います」
『読姫ですね。では、時計があった場所に手を置いてください』
時計はなくなって平らになっています。いつの間に平らになったのでしょうか。言われるがままに手を置くとなにかが吸い取られるような感覚がします。
〈魔力操作を取得しました。魔法が格段に使いやすくなります。取得条件は誰かに教えてもらう又は魔力を吸い取られることです〉
なにか吸い取られたと思ったのは魔力だったのですね。魔力ということは魔法が使えるのですよね。本が楽に取れると良いのですが。
そういえば、蝋燭に運動をすると約束しましたものね。なんでも楽をするのは駄目ですよね。
『マスター登録が完了しました。私に名前を付けていただけますでしょうか』
「名前ですか? ラテン語で時間という意味のホーラはどうでしょう」
時計から始まった関係(?)ですからね。時間という意味の名前にしてみました。
「あっ」
急に上から気配がしたので驚きました。気配のする上に目線を上げると、明るめの茶色の髪に淡い桃色の瞳をした少女が降りてきます。
メイド服を着ていますね。なぜメイド服を着ているのかはわかりませんが、とても似合っています。
「ありがとうございます、マスター。ホーラの名を頂戴いたします。マスターのお世話は私に任せてくださいませ」
まさか今まで喋っていたのがこの少女だったとは吃驚して声も出ません。
それでも淡々とした口調は変わらないのですね。元々も気質ということでしょう。
ですがホーラは少しはにかんでいるのです。ものすごく可愛いです。なんでしょう、抱きしめたい可愛さとでも言うのでしょうか。
本をたくさん読んでいるというのになぜ言葉が出てこないのでしょう。こういうときのために読んでいたのではないのですか!
自分の無知さに嫌気がさします。ホーラの可愛い笑顔を見ると癒されますが。
〈ワールドアナウンスです。只今、プレイヤー名ノウィルが宵闇の図書館を所有しました。建物の所有権であるマスター登録の概念が増えました。今後、敷地に家を建てる又は所有できる建物を見つけた際はマスター登録を行います〉
なんでしょう。私の名前が呼ばれましたね。マスター登録はホーラとの契約ではなく、この図書館との契約だったのですか。所有権が誰にも移らないのはいいですね。
ずっと私がここに籠っていても良いというわけですし。
「ホーラ、よろしくお願いします。それと名前で呼んで欲しいです」
「わかりました、ノウィル様。お外に出たいようですので、庭園へご案内します。今の時間は星空が見えるので綺麗だと思いますよ」
星空が見えるのですね。何時なのかも気になりますが、それよりも今は何月何日なのでしょう。あとでホーラに聞いてみればいいですね。
ホーラは外に続きそうな扉とは正反対の方向へと向かっていきます。庭園に行くには私が歩いた方向は反対だったのですね。
ホーラに会えたのでとても運が良かったです。そういえば、あの時計は扉を開けるものではなかったのですよね。
ホーラに聞かれていたと思うと、恥ずかしいですね。気を取り直して、庭園はどんなところなのでしょう? 楽しみです。
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